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第8章 魔法使いのいる世界で、魔力を持たないまま生きていく君へ。

368.マーゴット・ガラン。『ニンデリー王国の王太子が、何かをしている気がするけど、証拠は一つもない。』

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さすがに王太子をそいつ呼ばわりはしない?

でも、王太子の身元を知らなければ?

呪術。

シグル・ドレマンにかけられていたニンデリー王国の王太子の呪術は、わたしが解呪した。

急務だったから、シグル・ドレマンの解呪だけで済ませた。
呪い返しは、しなかった。

呪い返しをしないで正解だったか?

呪術に精通している人物が一国の王太子だとすれば、呪い返しの対策も万全。


ミノカサゴが、ニンデリー王国の伯爵令嬢ナユカ・ジョンストンを分析したときの言葉が、わたしの頭をよぎった。

『ナユカ・ジョンストンには、業が絡みついている。』

12歳だか、13歳で、集めた業は、人からもらったもの。

ジョンストン伯爵家の嫡女ナユカ・ジョンストンは、バネッサの兄アレックスと結婚して、バネッサをニンデリー王国の第2王子妃にしたいと言い出した。

バネッサの兄である、オッドア伯爵家の次男アレックス・オッドア。

アレックスは、コーハ王国の貴族でありながら、ニンデリー王国の王太子に心酔し、コーハ王国を裏切った可能性が高い。

そのアレックスとナユカ・ジョンストンの結婚を言い出せる立場にいる人物。

ニンデリー王国の第2王子に婚約者を進めることができる人物。

ニンデリー王国の王太子は、どちらにも当てはまる。

繋がりそうなのに、曖昧。


それと、呪術の方法も引っかかる。

チェール・モンスの母国は、子どもに魔法生物を寄生させるとき、同様の方法を使っている。

魔法生物が寄生しなかった子どもは、魔法生物が剥れ落ちたために、体の一部を切り取られた状態で大きくなる。

チェール・モンスは、耳の一部の肉がない。

だから、わたしとキャスリーヌは一目で、チェール・モンスが、その国の子どもだと気づいた。

チェール・モンスが、関係してくる?

この一件に。

状況は、何かを示唆する。

でも、全て証拠がない。

状況証拠だけでは、決め手にかける。

でも、状況証拠だと見逃していては、後手に回るばかり。

もどかしい。

「呪術者がいるのは知っているが、会ったことはない。」

「なぜ?」

「会ってはならない。顔を見てはならない。語ってはならない。」

五人の男は本気で震え出した。

「呪術者であろう?呪術を使わねば、ただの人。」

わたしは、煽ってみた。

「ただの?ああ。呪術者は、ただの人だ。だが、呪術者に意見したら。」

「ふむ?意見したのは、その方らの同輩か?」

無言。

わたしから、水を向けないと話せないか。

「呪術に使われたか?」

「そうだ。観察するように、と。」

一つ、混乱の芽を芽吹かせるとしよう。

「呪術者は、王太子か?」

「なんと、恐ろしいことを。そんなわけ、あるか!」

「ふむ。王太子の意向を汲んだ実験でもないのか?
呪術を用いる実験を命じながら、呪術に精通していないのか?」

無言。

「その方らは、実験に使われたくないのか?」

「当たり前だ!」

「では、その部屋にある魚の入った水槽を、魚が入った今のまま、手を加えずに、天井だった穴から全て運び出せ。」

「そんなことは。」

「ふむ。魚を寄越さねば、その方らで実験するが、実験されたいのか。」

「止めてくれ。魚は渡す。」

観察させられた同輩の呪術実験の様子は、五人の男の心を折ったようだ。

「魚を寄越すときは、水槽ごとだ。」

わたしは、霊獣シジミがどこかに入っている魚入りの水槽ごと、部屋から持ち出すことに成功した。

霊獣シジミを探すために、手を突っ込む前に、水槽の水を綺麗にしたい。
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