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386.ラキちゃんの人生を事実だけであらわしていくと、ケンゴのしたことは?洗脳が当たり前にある生活を知るメグたんとツカサ。
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説明してみろ、ときたか。
「ラキちゃんには、自身の安全や生存本能を希薄化させるような、思考の偏りが見られた。
一時的にではない。
俺が見ていたときはずっとだ。」
「そうだったかい?」
とケンゴ。
ケンゴは、興味深げに見える。
「社会生活を送る上で、自身の安全を無視した行動をとれば、自分の身を危うくする。
ラキちゃんの場合、生存本能が希薄過ぎた。ラキちゃんの生存本能と生きる意欲は、連動していなかった。」
「ラキには思考の偏りがあって、ラキの思考の偏りは、俺の洗脳によるものだというのが、新人くんの説だ。
新人くんが二つを結びつけた理由は何だい?」
とケンゴ。
「正義が勝たないデスゲームに参加するためにハコさんと共に社会から隔離されたラキちゃんは。
ハコさんから離れて一人で待機していた。」
「確かにそう説明したよ。」
とケンゴ。
「待機中のラキちゃんは、ハコさんが活躍する正義が勝たないデスゲームを試聴しながら、ハコさんと交代する日を待ち続けた。
先が見えない慣れない生活の中、ラキちゃんは心の拠り所になったのは、ケンゴだ。」
「ラキの拠り所が俺だったから、俺がラキを洗脳出来たというのが、新人くんの説かい?」
とケンゴ。
「一般的な洗脳の手法の一つではあるわ。」
とメグたん。
メグたんは、面白みがない、と言いたげだ。
「人を見て生きていると、洗脳のやり方を一般的かどうかでとらえるようになるよね。」
とツカサ。
ツカサの意見は、正義が勝たないデスゲームに参加した経験か?
もっと前の舞台俳優として、正義が勝たないデスゲームの外で活躍していた時期を思い出しているなら、業界での経験か。
俺の知らない場所では、洗脳がありふれているのかもしれない。
そう考えると、ケンゴ、メグたん、ツカサの落ち着きぶりも頷ける。
話し始めたときの俺の勢いは、幾分かそがれてきた。
ケンゴの中長期的な支えがあり、素直なラキちゃんは、心を安定させた状態で、正義が勝たないデスゲームに刑事として参加し、刑事として人生を終えた。
この事実をラキちゃんの側に立って、ラキちゃんの人生を説明した場合、ケンゴがしたのは、洗脳ではなく支え、となるか。
俺は敢えて尋ねる。
「ケンゴの助けを必要としたラキちゃんが、刑事としての思考や振る舞いから逸脱しなかったのは、ケンゴによる支えの賜物か?」
「新人くんは、ラキの待機中の生活を俺が支えたという一点に着目したのかい?」
とケンゴ。
「死ぬ前に会いたい、抱きしめられたいと、死期を悟ったラキちゃんは、そこにいないケンゴに縋った。
ケンゴに縋る前のラキちゃんと比べると。
ケンゴに縋る前のラキちゃんは、頼もしかった。
ケンゴに縋り始めたラキちゃんは、弱々しい、と俺の目には映った。」
「ラキは孤軍奮闘していた。生きるのに疲れたのかもしれないよ。」
とケンゴ。
ラキちゃんは、よく頑張っていたと労りを見せてくるケンゴ。
「ラキちゃんは、刑事らしくいようとするあまりに、最後に心の堤防が決壊したのではないか。」
ラキちゃんは、最後に、決して目の前に現れることはない、ただ一人の頼れる男を健気に待つ一人の女性になった。
ラキちゃんが求めた腕は。
同じ空間にいる俺ではなく。
ドッジボールで言葉を交わしたツカサでもなく。
離れた空間から見ているだけのケンゴだった。
「正義が勝たないデスゲームの参加者として、正義が勝たないデスゲームに参加している間のラキちゃんは、刑事らしく振る舞うことから逸脱しなかった。
このことは。
ラキちゃんは、正義が勝たないデスゲームの参加者として、常に自制をきかせていた、ということにならないか?」
「ラキが自制をきかせられなくなったのは死期を悟ったせいではない、と新人くんは言うのかい?」
とケンゴ。
「自制をしなくなった状態が、ケンゴに縋るラキちゃんだったのなら。
待機中に不安定になったラキちゃんが縋る相手もケンゴだ。」
「誰かの面倒を見ていると、頼りにされることはあるんだよ。」
とケンゴ。
誰の面倒も見ない俺には、ケンゴの言う頼りにされた経験がない。
利用されようとした経験なら、子ども時代にいくつもあるが。
利用しようとしてくるやつらに、年齢性別の差はなかった。
俺が使えるかどうかを判断することが得意なやつらは、大人にも子どもにもいた。
俺自身が大人になって、子どもを寄り付かせなくなってからは、俺を利用しようとする子どもには会っていない。
子どもを利用するのは、大人だけではない。
子どもを利用する子どもは、子どもの中にこそいる。
他人を利用する発想の有り無しは、生まれ持った何かで違うのだと思う。
大人を利用する子どももいる。
大人を利用する大人もいる。
これまでの俺の人生では。
俺の知らないところで。
俺ではない誰かを頼りにする関係が築かれていたこともある。
俺を利用しようとしたやつらは、相手が俺だから利用しようという考えになっただけで、俺以外なら頼ろうとなったかもしれない。
正義が勝たないデスゲームに参加するまでの俺には、俺にも分からないことがある、ということがなかった。
これまでの俺は、利用されまいと気を張った結果、利用されずに生きてこられている。
メグたん、ツカサの話を参考にすると、俺が育った場所は、俺が思っているより悪くない環境だったようだ。
正義が勝たないデスゲームに参加して、クリアする都度、俺は俺の知ろうとしてこなかった世界を覗き見している気分になる。
俺の見てきた世界と俺が覗き見している世界の落差が目に付く。
鋼の精神性と自らの意思を通すだけの何かを持つものだけが、息をしている屍累々の世界。
だからこそ、確かめたくなる。
「支援団体が警察内部に内通者を複数作っていなかったら。
ラキちゃんは、上司に可愛がられて一人前の刑事としてのびのび活躍したのではないか?
正義が勝たないデスゲームなどとは関わりのない世界で。」
「ラキちゃんには、自身の安全や生存本能を希薄化させるような、思考の偏りが見られた。
一時的にではない。
俺が見ていたときはずっとだ。」
「そうだったかい?」
とケンゴ。
ケンゴは、興味深げに見える。
「社会生活を送る上で、自身の安全を無視した行動をとれば、自分の身を危うくする。
ラキちゃんの場合、生存本能が希薄過ぎた。ラキちゃんの生存本能と生きる意欲は、連動していなかった。」
「ラキには思考の偏りがあって、ラキの思考の偏りは、俺の洗脳によるものだというのが、新人くんの説だ。
新人くんが二つを結びつけた理由は何だい?」
とケンゴ。
「正義が勝たないデスゲームに参加するためにハコさんと共に社会から隔離されたラキちゃんは。
ハコさんから離れて一人で待機していた。」
「確かにそう説明したよ。」
とケンゴ。
「待機中のラキちゃんは、ハコさんが活躍する正義が勝たないデスゲームを試聴しながら、ハコさんと交代する日を待ち続けた。
先が見えない慣れない生活の中、ラキちゃんは心の拠り所になったのは、ケンゴだ。」
「ラキの拠り所が俺だったから、俺がラキを洗脳出来たというのが、新人くんの説かい?」
とケンゴ。
「一般的な洗脳の手法の一つではあるわ。」
とメグたん。
メグたんは、面白みがない、と言いたげだ。
「人を見て生きていると、洗脳のやり方を一般的かどうかでとらえるようになるよね。」
とツカサ。
ツカサの意見は、正義が勝たないデスゲームに参加した経験か?
もっと前の舞台俳優として、正義が勝たないデスゲームの外で活躍していた時期を思い出しているなら、業界での経験か。
俺の知らない場所では、洗脳がありふれているのかもしれない。
そう考えると、ケンゴ、メグたん、ツカサの落ち着きぶりも頷ける。
話し始めたときの俺の勢いは、幾分かそがれてきた。
ケンゴの中長期的な支えがあり、素直なラキちゃんは、心を安定させた状態で、正義が勝たないデスゲームに刑事として参加し、刑事として人生を終えた。
この事実をラキちゃんの側に立って、ラキちゃんの人生を説明した場合、ケンゴがしたのは、洗脳ではなく支え、となるか。
俺は敢えて尋ねる。
「ケンゴの助けを必要としたラキちゃんが、刑事としての思考や振る舞いから逸脱しなかったのは、ケンゴによる支えの賜物か?」
「新人くんは、ラキの待機中の生活を俺が支えたという一点に着目したのかい?」
とケンゴ。
「死ぬ前に会いたい、抱きしめられたいと、死期を悟ったラキちゃんは、そこにいないケンゴに縋った。
ケンゴに縋る前のラキちゃんと比べると。
ケンゴに縋る前のラキちゃんは、頼もしかった。
ケンゴに縋り始めたラキちゃんは、弱々しい、と俺の目には映った。」
「ラキは孤軍奮闘していた。生きるのに疲れたのかもしれないよ。」
とケンゴ。
ラキちゃんは、よく頑張っていたと労りを見せてくるケンゴ。
「ラキちゃんは、刑事らしくいようとするあまりに、最後に心の堤防が決壊したのではないか。」
ラキちゃんは、最後に、決して目の前に現れることはない、ただ一人の頼れる男を健気に待つ一人の女性になった。
ラキちゃんが求めた腕は。
同じ空間にいる俺ではなく。
ドッジボールで言葉を交わしたツカサでもなく。
離れた空間から見ているだけのケンゴだった。
「正義が勝たないデスゲームの参加者として、正義が勝たないデスゲームに参加している間のラキちゃんは、刑事らしく振る舞うことから逸脱しなかった。
このことは。
ラキちゃんは、正義が勝たないデスゲームの参加者として、常に自制をきかせていた、ということにならないか?」
「ラキが自制をきかせられなくなったのは死期を悟ったせいではない、と新人くんは言うのかい?」
とケンゴ。
「自制をしなくなった状態が、ケンゴに縋るラキちゃんだったのなら。
待機中に不安定になったラキちゃんが縋る相手もケンゴだ。」
「誰かの面倒を見ていると、頼りにされることはあるんだよ。」
とケンゴ。
誰の面倒も見ない俺には、ケンゴの言う頼りにされた経験がない。
利用されようとした経験なら、子ども時代にいくつもあるが。
利用しようとしてくるやつらに、年齢性別の差はなかった。
俺が使えるかどうかを判断することが得意なやつらは、大人にも子どもにもいた。
俺自身が大人になって、子どもを寄り付かせなくなってからは、俺を利用しようとする子どもには会っていない。
子どもを利用するのは、大人だけではない。
子どもを利用する子どもは、子どもの中にこそいる。
他人を利用する発想の有り無しは、生まれ持った何かで違うのだと思う。
大人を利用する子どももいる。
大人を利用する大人もいる。
これまでの俺の人生では。
俺の知らないところで。
俺ではない誰かを頼りにする関係が築かれていたこともある。
俺を利用しようとしたやつらは、相手が俺だから利用しようという考えになっただけで、俺以外なら頼ろうとなったかもしれない。
正義が勝たないデスゲームに参加するまでの俺には、俺にも分からないことがある、ということがなかった。
これまでの俺は、利用されまいと気を張った結果、利用されずに生きてこられている。
メグたん、ツカサの話を参考にすると、俺が育った場所は、俺が思っているより悪くない環境だったようだ。
正義が勝たないデスゲームに参加して、クリアする都度、俺は俺の知ろうとしてこなかった世界を覗き見している気分になる。
俺の見てきた世界と俺が覗き見している世界の落差が目に付く。
鋼の精神性と自らの意思を通すだけの何かを持つものだけが、息をしている屍累々の世界。
だからこそ、確かめたくなる。
「支援団体が警察内部に内通者を複数作っていなかったら。
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