言霊の手記

第3章 少女のSOSは、依頼となり、探偵を動かす。

56.現地調査へ。奈美と萃は、牡丹の庭中学校の校区に足を踏み入れてみた。牡丹の庭中学校の校区の土地は？

奈美と萃は、現地集合で牡丹の庭中学校の校区の最寄り駅から歩いて、牡丹の庭中学校の校区へ向かっている。

奈美も萃も動きやすいパンツスタイル。

顔立ちや雰囲気が華やかな奈美は、シンプルなデザインの量販店で買った服とデニムパンツ。

萃は、襟元にデザインを効かせた服にスラックス。

二人の足元は、スニーカー。

歩き回る準備は万端。

「牡丹の庭中学校の校区の外側は片側二車線の道路に面している。」

奈美と萃は、牡丹の庭中学校の校区の内と外の特徴を把握しながら歩く。

「牡丹の庭中学校の校区内の住宅地に用がない人や車は、牡丹の庭中学校の校区の横を通り過ぎる。」

「道路が校区内と校区外を区切る。」

「目的を明確にして、目的通りの開発に成功した街。」

萃と奈美は、牡丹の庭中学校の校区の際にいる。

「校区内が栄えているときは、校区内での生活に不自由しない。」

「人の流出が始まると弾みがついたように流出するのは。

大型の蜂の巣を用意して、蜂を呼び寄せたみたいな街だから？」

奈美は、牡丹の庭中学校の校区を蜂の巣に例えた。

「最寄り駅から中学生の足で、徒歩三十分超の住宅地しかない牡丹の庭中学校の校区内。

人をこの地に留めるだけの理由は、買った家と住環境。」

「子育てしやすい住宅地は、歯抜けのように子どもが各家庭から巣立った途端に過疎地に変わったのが、理解できる。」

奈美と萃は、最寄り駅からここまでの歩いてきた道を振り返る。

「片側二車線の道路は、両側に広めの歩道があり、徒歩五分から十分の間隔に一つ、バス停がある。」

バス停で立ち止まり、時刻表を確認しながら歩いてきた。

「バスの時刻表を確認すると、通勤通学の時間は、十分から十五分間隔でバスが通っている。」

「昼間のバスは、三十分間隔。」

「電車の発着時刻にバスが間に合うような時間間隔で運行している。」

「片側二車線の道路を走る車は、自家用車とバス、時々タクシー。」

「仕事用のトラックは、数台、横を通り過ぎた。」

奈美と萃の会話は、バス停から交通量の話へ変わっていった。

「外界から隔離するように街を作って、親子目線で暮らしやすい街に、ね。」

「駅から続く幹線道路に、お店が一つもなかった。」

奈美と萃は、牡丹の庭中学校が計画的に造成した街だと再確認して、一歩踏み出す。

「緑溢れる住宅地。」

「街全体に木が多い。」

「道路にも等間隔で落葉樹を植えている。」

牡丹の庭中学校の校区に対する奈美と萃の第一印象は、緑が多い、だった。

「今生えている木は、全部、元から生えている木じゃなく、土地を整備してから植えた木。」

植えられている木を視界に入れながら、奈美に所見を話す萃。

「山を削ったときに、山に植わっていた木は、根こそぎ無くした？」

奈美の問いに、萃は、うんと頷く。

「この土地は、産土神産土神の力を繋いでいる線を切りすぎている。」

萃がそういうのなら、牡丹の庭中学校の校区の土地は、開発によりそうなってしまったのだろうと奈美は、萃の言葉を疑わない。

奈美には、土地と産土神うぶすながみとの繋がりなど感知できない。

今まで出来なかったことが、急に出来るようになった経験は、奈美にはない。

「牡丹の庭中学校の校区が産土神に守られる方法は？」

今の奈美は、大蔵探偵事務所の探偵であり、所長だ。

依頼人の依頼を解決するために調査して方針を決めて人を動かしたり、自分が動いたりするのが、所長というもの。

産土神うぶすながみと土地の繋がりを感知する能力は、大蔵探偵事務所の協力者の一人である萃が提供してくれる。

所長の奈美がすることは、協力者の萃の協力に感謝し報酬渡し、協力を受け取り、成果を出すこと。

「土地に住む住人が、継続的に産土神を詣でれば、その住人の住まいには弱くても届く。

住人が産土神詣でを止めれば、消えるぐらい細い線。」

「牡丹の庭中学校の産土神は、どのあたり？」

奈美に尋ねられた萃は、牡丹の庭中学校の校区を隔てている片側二車線の道路の向こう側の谷を示した。

「牡丹の庭中学校の校区のギリギリの際から産土神までは、私達の足で徒歩五十分かからないくらい。」

萃は、谷の雑木林のように見える一画を示す。

「山を下って片道五十分だと、初詣以外に行こうとする人はいないかもしれない。」

「帰り道は上り坂だから？」

「うん。初詣以外で、坂を下って上って神社にお参りするだけの人が

他の神社は？」

牡丹の庭中学校の校区から産土神詣でをする人は少なそうだと奈美は予想した。

「谷には、元々人が住んで町を作っていたから産土神を祀る神社がある。

谷の産土神以外だと、牡丹の庭中学校の校区からは遠い。」

奈美は、頭の中に牡丹の庭中学校の校区の地図を描く。

「牡丹の庭中学校の校区は、山を削って人が住めるようにしている。

神を祀ろうとする人の集落が、牡丹の庭中学校の校区にはなかった。」

「山を削る前には、神を祀る社があったかもしれない。

山に入る人のためのものが。」

「今は？」

「今は、もう何も残っていない。」

萃の確信に、奈美は、牡丹の庭中学校の校区の土地について理解した。

「牡丹の庭中学校の校区の土地は、人以外の守りも手薄。」