言霊の手記

かざみはら まなか

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第3章 少女のSOSは、依頼となり、探偵を動かす。

62.引っ越し予定の姉の瑠璃、妹の玻璃。隣家の姉、漆葉、妹の柚葉。仲が良かったはずの四人の少女の別れは?

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「お姉ちゃんの居場所がうちにあるのは、私のおかげ!」

隣家の妹の台詞の後、隣家の姉はずんと暗くなった。

「それは、和葉かずはちゃんが漆葉うるはちゃんに言っていい言葉じゃない。」

「私がいなかったら、お姉ちゃんはお父さんにもお母さんにもうざがられるだけ。

私の仲立ちがなかったら、お姉ちゃんなんか無視だよ、無視。」

柚葉ゆずはちゃんが柚葉ゆずはちゃんのおかげだと思っていたとしとも、今、漆葉うるはちゃんに言わなくちゃいけないことだった?」

「お姉ちゃんも瑠璃るりちゃんも玻璃はりちゃんも、お姉ちゃんだけを可哀想な人にしようとするから。」

柚葉ゆずはちゃんは何が言いたいの?」

「可哀想な人になりきっているけれど、お姉ちゃんは、まだ可哀想になっていないって私は知っている。

一人だけ可哀想に浸っていて、卑しいよ。」

「「柚葉ゆずはちゃん!」」

引っ越し予定の姉と妹が、隣家の妹を諌めようとするのを、姉は見納めの面持ちで見ている。

瑠璃るりちゃんに、私の家族だけは私を助けないという話したのを瑠璃るりちゃんは覚えている?」

「うん。」

言葉少なく肯定する引っ越し予定の姉に隣家の姉は、静かに続けた。

「私の家族の範囲は、お父さんとお母さんだけじゃない。」

柚葉ゆずはちゃんも含まれていたんだね。

家族が味方じゃないのは、辛いね。」

「うん。柚葉ゆずはの言うことが本当なら。

親は、私のことなんてどうでもいいということだよね。」

「ほら、また、お姉ちゃんは、一人で可哀想な人になろうとする。

私は嘘なんかついていない。」

柚葉ゆずはちゃん。」

「お姉ちゃんが可哀想というなら、私も可哀想、お父さんもお母さんも可哀想。

皆可哀想だよ。」

漆葉うるはちゃんとは可哀想のレベルが違うよ。」

「親は、漆葉うるはちゃんを可哀想にしないようにしないと駄目だって。

大人なんだから。」

「もう、いい。

お姉ちゃんのせいで、最悪。

皆で私を悪者にして!

お姉ちゃんが一人で不幸を気取ると、家の空気が悪くなる!」

隣家の妹は、そっぽを向く。

隣家の姉は、最後なのに、こんな風になってごめんね、と謝る。

「「こちらこそ、ごめんね。」」

引っ越し予定の姉妹と隣家の姉妹は、牡丹の庭とは関係ない話をし始めた。

定型句が印刷された一筆箋が、風に乗って、隣家の姉の手元へ。

『静かに。助けがほしい?』

隣家の姉は、指先に触れた一筆箋に一瞬、指先を固くする。

視線を指先に落とした隣家の姉は、ちょっとごめん、と断ると、急にくるっと、三人の少女に背を向けた。

一筆箋に目を通した隣家の姉は、コクリと頷く。

『探偵は依頼人からの依頼を受託して仕事を開始する。

探偵に依頼する?』

一筆箋に、文字が浮かび上がった。

コクコクと頷く隣家の姉。

浮かび上がった文字は消えて、別の文字が浮かび上がる。

『この後の流れ。

あなただけに依頼書を届ける。

誰にも見つからないようにあなた自身が、依頼書に書き込む。

依頼書を回収した探偵は、あなたと話をする。

そうして、あなたは探偵の依頼人になる。』

少女が読み終わると浮き上がった文字は消える。

『さあ、なんでもない顔で話に戻り、依頼書が届くのを待って。』

少女の手にあった一筆箋の最後に浮かんだ文字を読んだ少女は、一筆箋を小さく畳んで、握り込んだ。

奈美と萃は、依頼人となる少女が、くるっと三人の少女に向き直るのを確認して、その場を離れた。

「牡丹の庭中学校のホームページの使い方が分かった。」

「自治会の副会長をしているという依頼人のお父さんの話も、お父さんの口から聞きたいけれど、先に依頼人の話を聞いておこう。」

「現場の確認に行く?」

「校門に監視カメラをつけられなかったという噂の牡丹の庭中学校を確認する。」

「現場百遍というからね。」

「資料を見たからには、現場を見ないと。」

奈美と萃は、住宅地の中を通り、牡丹の庭中学校へと歩く。

住宅地の終点に、牡丹の庭中学校の校門が見えた。

「牡丹の庭中学校の校門は、正門も裏門も、道路に面している。」

「小学校とは違うようにしたんだね。」

奈美と萃は、牡丹の庭中学校の周りも一周することにした。
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