言霊の手記

かざみはら まなか

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第2章 憶測で語らない。可能性は否定しない。

39.学校は楽しくなくてもいい。ただし、最低限、安心安全な場所な場所でないと、週五で通えない。

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「女子中学生が、偶然を装って助けてくれた誰かに、これからも助けられ続けたいと願うか。

過去を知られたくないからこれっきりがいいと思うか。」
と萃。

「手記をしたためた中学生が生きていくには、継続的な支援が必要。

でも、それは探偵が担うことではない。」
と奈美。

「継続的な支援は、支援を仕事にする大人にふるでいいんじゃない?」
と透雲。

「私達が決めることは、偶然を装って、蟻地獄から出ようともがく女子中学生を助けに行くかどうか。」
と奈美。

「奈美、手記に応える?」
と萃。奈美が萃に返事する前に、透雲が口を開いた。

透雲には、予め伝えておきたいことがあった。

「私は、弱い大人の子どもだから、牡丹の庭中学校の校区には入らない。

誰かに狙われても、戦ったり、火の粉を払う力が私にはない。

牡丹の庭中学校の校区に入らず、たまたま居合わせる、という形で現場にいることはできる。

塾と学校と模試のない時間限定で。」
と透雲。

「塾と学校と模試が、透雲の予定の全て?」
と萃。

「部活に参加する日もあるけれど、基本的に学校の後は塾。

学校がない日は、塾。

模試の日は模試だけだから、動きやすくはある。

時々、親戚には会うけれど、祖父母以外で私に会いたいと思う人がいるのかは、定かではない。」
と透雲。

「親戚とは付き合いはあっても、仲が良いと言えない?」
と奈美。

「親とは親しく接していても、親の子である私と親しくしたいかどうかが読み取れない人達がいる。

血が繋がっているということは、親しくする理由になるのかもしれないが、例外はどこにでもある。」
と透雲。

「誰の腹の中も分からないなら、こちらに見せている一面で判断することになる。」
と萃。

「両親が付き合いをしている間は付き合いが続くにしても、私だからと続く縁はおそらくない。」
と透雲。

「小学校、中学校のクラスメイトとの付き合いは?続ける?」
と奈美。

「互いに切らなければ続く。

私が選んで今の場所に住んでいるわけじゃない。

向こうか、私が出ていくまでは続く。」
と透雲。

「透雲の予定は、学校と塾と模試以外に、親戚付き合いがあるかもしれないと覚えておく。

透雲の平日の放課後は、部活動と塾?」
と奈美。

「部活動は、提出物を出していたら参加しなくていい。」
と透雲。

「参加してもしなくてもいい、という部活はどんな部活?」
と不思議そうな萃。

「読書部。

予定がぎっしり詰まっている人が入る部活。

読んだ本のレポートを前期と後期で二回ずつ出せば、出席は問わない。

レポートを提出する日は、部員が集まる部活。」
と透雲。

「レポートに取り上げる本は、どんな本でもいいの?」
と萃。

「R15以上のR指定図書でなければ可。」
と透雲。

「中学校の部活動でR18の本を持ち込んだら、指導案件なのは分かる。」
と奈美。

「透雲が学校にいる時間は、授業が終わったら掃除まで?」
と萃。

「学校でしておくことを済ませたなら、学校にいる理由はなくなるからすぐ帰る。」
と透雲。

「透雲は、学校が退屈?」
と萃。

「学校には、退屈な時間とそうでない時間がある。」
と透雲。

「まあね。」
と奈美。

「私が学校に通うのは。

就学年齢で学校に通った経験を後になって追加できないと知っているから。

その期間が終わったら、取り戻せない時間というのが、人にはある。

小学校と中学校に通う九年間は、特に、不可逆の時間。」
と透雲。

「中学生になった今、小学生をで経験したことをやり直したら、小学生だったときと同じ経験でも、違う受け止め方になる。

同じことに同じ感想を持つとは限らない。」
と萃。

「そのタイミングで、その経験がぴったりくる、という時期を学校は調整している。」
と透雲。

「例えば?」
と奈美。

「私は、小学生になって。

自分から誰かに話しかけるようになった。

何もしなくても話しかけられ続ける人生でないのなら、こちらから話しかける必要があると学んだ。」
と透雲。

「私は、地面に棒をさして、太陽の動きと影のでき方を見る観察。

家にいて、影観察をする発想にはならない。」
と萃。

「私は、昆虫の顔のアップ写真。トンボの目が複眼だと聞くだけより、衝撃だった。」
と奈美。

「私は、自分自身の選択肢を狭めないために学校に通っている。

学校は、楽しくなくてもいい。楽しむ場所でなくてもいい。

学校で快適に過ごすため、私は努力している。

毎日、クラスメイトや先生に気を遣うことは、怠らない。」
と透雲。

「気を遣ってばかりで疲れない?」
と萃。

「疲れる。

私にとっての学校は、退屈するところ、というよりも疲れるところ。」
と透雲。

「学校に通うと疲れるけれど、学校には通っている?」
と萃。

「疲れる場所だと承知の上で、私が学校に通うのは。

私の通っている学校が、突発的な事故でもない限り、安全に過ごせる場所であると私が安心しているから。」
と透雲。

「学校に通っているのは、親じゃない。

学校に通う本人が、安全が保証されていることを実感し、学校にいても心身を脅かされることはないと安心できないと、週五で通うのは苦痛。」
と萃。

「牡丹の庭中学校のように、学校が週五で通う生徒の安全配慮をせず、生徒が安心して過ごせる場所として機能しなくなったら?」
と奈美。

「大蔵探偵事務所は、探偵のお仕事として、中学一年生女子の依頼を受ける?」
すい

「受ける。手記は私の手元に来るべくして来た。」
と奈美。

「今から、これからの作戦会議をする?」
透雲とおも

「する。」
と奈美。

三人の少女は、計画を練ることにした。

計画を立てた後、奈美の姉の磨白ましらと叔父の君下きみしたに相談した三人は、計画の練り直しは後日にして解散した。

中学一年生女子の門限は早い。

三人は、それぞれの課題を持ち帰り、次回に答えを持ち寄ることにした。
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