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第3章 少女のSOSは、依頼となり、探偵を動かす。
84.車のトランクの内側から音がする?
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奈美も萃も、停車している車の側には近寄らないようにしている。
車での連れ去りは、一瞬だからだ。
フロントガラスを含む全ての窓に真っ黒なフィルムを貼った車なんて。
探偵をしていないときは、奈美も萃も近付かない。
今、二人が、怪しすぎる車のトランクに手が届く位置まで近付いてきたのは、理由がある。
怪しすぎて、近寄る気にならなかった車の車体が急に揺れたのだ。
地震でもないのに。
黒いフィルムが貼られているので、車の中は見えない。
奈美と萃は、フロントガラス、運転席横のガラス、助手席横のガラス、後部座席の横のガラス、トランクの上のリアウィンドウの順に、ガラスをコツコツと叩いて、反応を待った。
リアウィンドウを叩いたときに、トランクの内側から何かがぶつかる音がした。
「トランクの中にいる何かは、まだ、生きている。」
生き物がトランクの中で動いている、と奈美は言った。
「トランクの中に幽霊はいない?」
萃が、念の為に聞いてみると。
「幽霊もいる。」
奈美には、トランクの中の中の幽霊が見えている。
「その幽霊は、新入り?」
「今日デビューの幽霊ではない。」
今日、車のトランクで亡くなった幽霊ではないのなら、車のトランクにいる幽霊は、いつ幽霊になったのだろう?
「トランクで亡くなった人がいるということ?」
「トランク内で亡くなったかどうかは不明。」
いずれにしても、と萃は頭を切り替えた。
「トランクを工具でこじ開けるには、どこかで調達しないといけないから、今は開けられない。」
「トランクから出した後も生きていられるか、を考えると。
まだトランクから出さない方がいいかもしれない。」
奈美の考えを聞いた萃は、確かに、と賛成した。
「トランクに閉じ込めていたはずなのに、トランクの外にいれば。
見つかりしだい、その場で始末されてもおかしくない。」
「どの程度閉じ込めたままでもいいかを見誤らなければ、トランクは今開けない方がいい。」
音がするトランクを確認した奈美は、トランクをタンタンと叩いて、気付いていると中の人に匂わせた。
中から聞こえる音は、トランク内で体をぶつけて出している。
まだ、動けるようだ。
奈美と萃は、人入りトランクの車から離れて、他の二台の車も確認する。
二台とも、フロントガラスに黒いフィルムが貼られている。
「車として使用していないんじゃない?」
「人の保管用かもしれない。」
他の二台の車の窓ガラスも叩いてみる。
「反応がない。」
「幽霊は?」
「昨日、今日の幽霊ではない幽霊はいる。」
「この車もトランクに幽霊が?」
「この車は、後部座席に幽霊が座っている。」
奈美と萃は、幽霊に騒ぐことなく語り合う。
「後部座席にいるなら、口を割らせてから始末したのかもしれない。」
「口を割らせたのでないなら、何かにサインさせるために後部座席におしこめた。」
奈美と萃は、殺人現場になったであろう車から離れた。
「後部座席の幽霊について具体的だったのは、サインさせられる様子を幽霊が示唆してきたから?」
「ペンを持ちながら、こんなやつらに取られるために、汗水垂らして働いて金を貯めてきたわけじゃない、とずっと言っている。」
「幽霊は、書類にサインさせて、使う権利を譲らせようとされている様子を見せてきた?」
「幽霊がしていることが幽霊の思い込みじゃなかったら。
後部座席に乗っている幽霊は、車の持ち主だったかもしれない。」
萃は、後部座席の幽霊の末路を想像できてしまった。
「車を譲ることを強要され、車を譲らされた後に殺された?」
「被害者兼証人を口封じ。」
「後部座席に幽霊が乗っている車の今の持ち主は、奪い取ったものの、車としては使用していない。
団地外に出さないから、車を持っていることさえ、気付かれない?」
「車検関係は、話の通じるところに話を通しているかもしれない。」
「幽霊の個人情報は、他にある?」
「後部座席の幽霊は、車を取られる悔しさと怒りのみで、周りを見ていない。」
「助けてもらえない状況で、追い詰められているという生前の自覚があるから、幽霊になっても外を見ない?」
「うん。外に目を向けさせるには、犯人を連れてくるぐらいの刺激がいる。」
「犯人が分かったら、車に連れていく?」
「時間と手に余裕があれば、連れて行く。
犯人は、まだ牡丹の庭にいるかもしれないけれど、いないかもしれない。」
牡丹の庭には、人を殺しても、人を殺したことを何とも思わないで生活している人が複数いる可能性がある。
奈美は、ぐるりと団地を見回す。
「階段なんだけど、使用されていないように見えない?」
車での連れ去りは、一瞬だからだ。
フロントガラスを含む全ての窓に真っ黒なフィルムを貼った車なんて。
探偵をしていないときは、奈美も萃も近付かない。
今、二人が、怪しすぎる車のトランクに手が届く位置まで近付いてきたのは、理由がある。
怪しすぎて、近寄る気にならなかった車の車体が急に揺れたのだ。
地震でもないのに。
黒いフィルムが貼られているので、車の中は見えない。
奈美と萃は、フロントガラス、運転席横のガラス、助手席横のガラス、後部座席の横のガラス、トランクの上のリアウィンドウの順に、ガラスをコツコツと叩いて、反応を待った。
リアウィンドウを叩いたときに、トランクの内側から何かがぶつかる音がした。
「トランクの中にいる何かは、まだ、生きている。」
生き物がトランクの中で動いている、と奈美は言った。
「トランクの中に幽霊はいない?」
萃が、念の為に聞いてみると。
「幽霊もいる。」
奈美には、トランクの中の中の幽霊が見えている。
「その幽霊は、新入り?」
「今日デビューの幽霊ではない。」
今日、車のトランクで亡くなった幽霊ではないのなら、車のトランクにいる幽霊は、いつ幽霊になったのだろう?
「トランクで亡くなった人がいるということ?」
「トランク内で亡くなったかどうかは不明。」
いずれにしても、と萃は頭を切り替えた。
「トランクを工具でこじ開けるには、どこかで調達しないといけないから、今は開けられない。」
「トランクから出した後も生きていられるか、を考えると。
まだトランクから出さない方がいいかもしれない。」
奈美の考えを聞いた萃は、確かに、と賛成した。
「トランクに閉じ込めていたはずなのに、トランクの外にいれば。
見つかりしだい、その場で始末されてもおかしくない。」
「どの程度閉じ込めたままでもいいかを見誤らなければ、トランクは今開けない方がいい。」
音がするトランクを確認した奈美は、トランクをタンタンと叩いて、気付いていると中の人に匂わせた。
中から聞こえる音は、トランク内で体をぶつけて出している。
まだ、動けるようだ。
奈美と萃は、人入りトランクの車から離れて、他の二台の車も確認する。
二台とも、フロントガラスに黒いフィルムが貼られている。
「車として使用していないんじゃない?」
「人の保管用かもしれない。」
他の二台の車の窓ガラスも叩いてみる。
「反応がない。」
「幽霊は?」
「昨日、今日の幽霊ではない幽霊はいる。」
「この車もトランクに幽霊が?」
「この車は、後部座席に幽霊が座っている。」
奈美と萃は、幽霊に騒ぐことなく語り合う。
「後部座席にいるなら、口を割らせてから始末したのかもしれない。」
「口を割らせたのでないなら、何かにサインさせるために後部座席におしこめた。」
奈美と萃は、殺人現場になったであろう車から離れた。
「後部座席の幽霊について具体的だったのは、サインさせられる様子を幽霊が示唆してきたから?」
「ペンを持ちながら、こんなやつらに取られるために、汗水垂らして働いて金を貯めてきたわけじゃない、とずっと言っている。」
「幽霊は、書類にサインさせて、使う権利を譲らせようとされている様子を見せてきた?」
「幽霊がしていることが幽霊の思い込みじゃなかったら。
後部座席に乗っている幽霊は、車の持ち主だったかもしれない。」
萃は、後部座席の幽霊の末路を想像できてしまった。
「車を譲ることを強要され、車を譲らされた後に殺された?」
「被害者兼証人を口封じ。」
「後部座席に幽霊が乗っている車の今の持ち主は、奪い取ったものの、車としては使用していない。
団地外に出さないから、車を持っていることさえ、気付かれない?」
「車検関係は、話の通じるところに話を通しているかもしれない。」
「幽霊の個人情報は、他にある?」
「後部座席の幽霊は、車を取られる悔しさと怒りのみで、周りを見ていない。」
「助けてもらえない状況で、追い詰められているという生前の自覚があるから、幽霊になっても外を見ない?」
「うん。外に目を向けさせるには、犯人を連れてくるぐらいの刺激がいる。」
「犯人が分かったら、車に連れていく?」
「時間と手に余裕があれば、連れて行く。
犯人は、まだ牡丹の庭にいるかもしれないけれど、いないかもしれない。」
牡丹の庭には、人を殺しても、人を殺したことを何とも思わないで生活している人が複数いる可能性がある。
奈美は、ぐるりと団地を見回す。
「階段なんだけど、使用されていないように見えない?」
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