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第3章 少女のSOSは、依頼となり、探偵を動かす。
89.都市伝説も怪談も、謎の部分は解き明かされない。なぜ、その話が広まったかを探ってはならない。人口に膾炙することを望んだ者がいるから。
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奈美と萃は、住宅地を通り抜けて、牡丹の庭中学校へ向かう。
奈美と萃の後方では、突発的な事象が多発していた。
塀の上の植木鉢が、突風で、尾行者の頭上や肩に直撃したり。
落ち葉が舞い上がって、通り過ぎる尾行者の目や鼻、口を塞いだりしている。
奈美と萃に向かって撒かれた水撒きの水は、霧のように細かい粒子になって、風に流される。
痛い思いは、たまにするが、どれも運が悪かっただけ。
撤退するほどではない障害は、尾行者達を立ち止まらせない。
標的は、たった二人。
新しい獲物になり得る少女二人。
人の出入りが閉ざされた牡丹の庭。
目撃者は、皆、共犯者だ。
奈美と萃を追いかける尾行者達は、中学校に近付くほどに、その数を増やしていく。
奈美と萃との距離を一定以上詰められないでいることに。
気付いた尾行者はいなかった。
奈美と萃は、牡丹の庭中学校の正門前に着いた。
正門にかかっていた鎖は、なくなっている。
牡丹の庭中学校の正門に鎖をかけていた人物は、用事を済ませたのだろう。
牡丹の庭中学校の正門の内側では。
モップ洗い場で溺死した、セーラー服の顔だけ土左衛門の幽霊がウロウロしていた。
セーラー服を着た顔土左衛門の幽霊は、奈美と萃の姿を認めると寄ってきた。
「自分だけ逃げた、自分だけ逃げた、私は逃げられなかったのに。」
セーラー服を着た顔土左衛門の幽霊は、正門越しに、奈美へ土左衛門の顔を寄せてくる。
奈美は、顔土左衛門に怯まず、正門を開けた。
「戻ってきた。戻ってきた。」
セーラー服を着た顔土左衛門は、奈美にまとわりつこうとする。
奈美は、顔土左衛門には我関せずを貫き、萃と一緒に牡丹の庭中学校の敷地内へと足を踏み入れた。
目的地へと迷わず歩き出す奈美と並んで歩く萃。
牡丹の庭中学校の敷地内に入った奈美と萃に続いて、尾行者達も次々に牡丹の庭中学校の敷地内へと入っていく。
奈美と萃の後についていく尾行者もいれば、校内に散っていく尾行者もいる。
奈美から目的地を聞いていなかった萃は、何も言わずに奈美と並んで歩いた。
砂利と土の色が変わるところで、奈美はピタリと足を止める。
奈美にならって、萃も足を止めた。
牡丹の庭中学校の名前の由来となった、牡丹の庭だった場所を見つめる奈美は、セーラー服を着た顔土左衛門に話しかけた。
「私達の後ろにいる大人は、あなたを助けなかった大人?」
セーラー服を着た顔土左衛門は奈美の声に反応した。
「私を助けなかった大人。」
顔土左衛門は、ぐるんと顔を上げた。
奈美と萃の後ろから包囲するように歩いてくる尾行者を見た顔土左衛門の反応から、奈美は次の質問を投げる。
「私達を取り囲む大人の中に、あなたを放って逃げた大人はいる?」
「いない。」
セーラー服を着た顔土左衛門は、喉を絞められているかのように、苦しそうに否定した。
「右、真正面、左。
あなたを逃さなかった大人は、いた?」
奈美の声に合わせて顔土左衛門は、右から左へとゆっくり顔を動かす。
奈美は、セーラー服を着た顔土左衛門の反応だけに集中した。
奈美の分の警戒は、萃が引き受けている。
奈美と萃への包囲網を狭めてくる尾行者。
尾行者達が、奈美の邪魔をしようとするならば、萃が防ぐ。
奈美と萃は、阿吽の呼吸で戦う覚悟を決めて、地獄の真っ只中に立っている。
「あああっ。あああっ。あいつ。あいつ。あいつ。」
セーラー服を着た顔土左衛門は、顔を何度も左右に振った。
セーラー服を着た顔土左衛門を逃さなかった大人は、奈美と萃の包囲網の中に三人いる。
奈美は、とっておきの質問を投げる。
「あなたを殺した大人は、もう、見つけた?」
「あれ、あれ、あれ、あれ。
嘘つき、嘘つき、嘘つき、嘘つき。」
セーラー服を着た顔土左衛門は、あれ、と嘘つき、を繰り返す。
「ここには、あなたに嘘をついた大人が四人いる?」
奈美が言葉を挟むと。
セーラー服を着た顔土左衛門は、早口でまくし立て始めた。
「息が、続くはずないのは、始める前から分かっていた。
モップを洗うためのモップ洗い場なんか、誰も掃除していない。
最後に一回、汚いことに耐える罰を一回受けたら、もう関わらないと言われたから。
汚れた場所で洗われることを我慢した。」
セーラー服を着た顔土左衛門の顔が膨らんだ。
「嘘つき、嘘つき、嘘つき、嘘つき。」
「嘘つきは、どんな嘘をあなたについた?」
奈美が問いかけると。
「息が続かなくなったら、片手を挙げて合図して、無理はしなくていい、形だけだから、とあれ達は言っていた。
私が片手を挙げたら終わりにすると、言ったのに、言ったのに。」
セーラー服を着た顔土左衛門は、顔を膨張させていく。
顔土左衛門の顔は、縦と横、同じ比率で膨らんでいく。
「相似形。」
奈美は、思わず呟いていた。
幽霊が見えない萃は、背後を警戒しつつも、奈美の隣で首を傾げている。
「私が手を挙げて、顔を上げようとしたら、モップで頭を押さえつけてきた。
何度も、何度も。」
セーラー服を着た顔土左衛門の顔は、最初の三倍になった。
「四人で。汚い、汚い、臭い、臭い、と言いながら。交代交代に。」
怒涛の勢いでまくし立てるセーラー服を着た顔土左衛門の言葉を聞くことに徹する奈美。
「息が続かなくなって、無我夢中で水から顔を上げようとしたら。」
顔土左衛門の三倍に膨らんだ顔が、ボコボコと歪んでいく。
「四人がモップで、モップ洗い場の水につけた私の顔を、底まで押しつけた。」
セーラー服を着た顔土左衛門の告白を聞いた奈美は、幽霊にアドバイスを与えた。
「セーラー服を着たあなたは、彷徨う少女。
彷徨う少女に追いかけられた大人は、家に帰れない。
あなたは家に帰れないのに、あなたが家に帰れない理由を作った大人は、牡丹の庭中学校を出たら家に帰れる。
あなたを逃さなかった大人と、あなたを殺した大人をどうするか、あなたはもう決めた?」
セーラー服を着た顔土左衛門の幽霊は、奈美の側からふっと消えた。
「「「ぎゃあああ。なんかいる!」」」
奈美と萃を包囲する尾行者のうちの七人が、突如、叫び声をあげる。
七人分の駆け出す足音とともに、来るな、という怒声が遠ざかる。
「怪談も都市伝説も、流布されて人口に膾炙する現象が起きるのは、理由がある。」
奈美と萃に迫っていた包囲網は、歯が抜けたかのように、七人分減った。
「利用者が、利用しやすいように。」
「謎は謎のままに。」
奈美と萃の後方では、突発的な事象が多発していた。
塀の上の植木鉢が、突風で、尾行者の頭上や肩に直撃したり。
落ち葉が舞い上がって、通り過ぎる尾行者の目や鼻、口を塞いだりしている。
奈美と萃に向かって撒かれた水撒きの水は、霧のように細かい粒子になって、風に流される。
痛い思いは、たまにするが、どれも運が悪かっただけ。
撤退するほどではない障害は、尾行者達を立ち止まらせない。
標的は、たった二人。
新しい獲物になり得る少女二人。
人の出入りが閉ざされた牡丹の庭。
目撃者は、皆、共犯者だ。
奈美と萃を追いかける尾行者達は、中学校に近付くほどに、その数を増やしていく。
奈美と萃との距離を一定以上詰められないでいることに。
気付いた尾行者はいなかった。
奈美と萃は、牡丹の庭中学校の正門前に着いた。
正門にかかっていた鎖は、なくなっている。
牡丹の庭中学校の正門に鎖をかけていた人物は、用事を済ませたのだろう。
牡丹の庭中学校の正門の内側では。
モップ洗い場で溺死した、セーラー服の顔だけ土左衛門の幽霊がウロウロしていた。
セーラー服を着た顔土左衛門の幽霊は、奈美と萃の姿を認めると寄ってきた。
「自分だけ逃げた、自分だけ逃げた、私は逃げられなかったのに。」
セーラー服を着た顔土左衛門の幽霊は、正門越しに、奈美へ土左衛門の顔を寄せてくる。
奈美は、顔土左衛門に怯まず、正門を開けた。
「戻ってきた。戻ってきた。」
セーラー服を着た顔土左衛門は、奈美にまとわりつこうとする。
奈美は、顔土左衛門には我関せずを貫き、萃と一緒に牡丹の庭中学校の敷地内へと足を踏み入れた。
目的地へと迷わず歩き出す奈美と並んで歩く萃。
牡丹の庭中学校の敷地内に入った奈美と萃に続いて、尾行者達も次々に牡丹の庭中学校の敷地内へと入っていく。
奈美と萃の後についていく尾行者もいれば、校内に散っていく尾行者もいる。
奈美から目的地を聞いていなかった萃は、何も言わずに奈美と並んで歩いた。
砂利と土の色が変わるところで、奈美はピタリと足を止める。
奈美にならって、萃も足を止めた。
牡丹の庭中学校の名前の由来となった、牡丹の庭だった場所を見つめる奈美は、セーラー服を着た顔土左衛門に話しかけた。
「私達の後ろにいる大人は、あなたを助けなかった大人?」
セーラー服を着た顔土左衛門は奈美の声に反応した。
「私を助けなかった大人。」
顔土左衛門は、ぐるんと顔を上げた。
奈美と萃の後ろから包囲するように歩いてくる尾行者を見た顔土左衛門の反応から、奈美は次の質問を投げる。
「私達を取り囲む大人の中に、あなたを放って逃げた大人はいる?」
「いない。」
セーラー服を着た顔土左衛門は、喉を絞められているかのように、苦しそうに否定した。
「右、真正面、左。
あなたを逃さなかった大人は、いた?」
奈美の声に合わせて顔土左衛門は、右から左へとゆっくり顔を動かす。
奈美は、セーラー服を着た顔土左衛門の反応だけに集中した。
奈美の分の警戒は、萃が引き受けている。
奈美と萃への包囲網を狭めてくる尾行者。
尾行者達が、奈美の邪魔をしようとするならば、萃が防ぐ。
奈美と萃は、阿吽の呼吸で戦う覚悟を決めて、地獄の真っ只中に立っている。
「あああっ。あああっ。あいつ。あいつ。あいつ。」
セーラー服を着た顔土左衛門は、顔を何度も左右に振った。
セーラー服を着た顔土左衛門を逃さなかった大人は、奈美と萃の包囲網の中に三人いる。
奈美は、とっておきの質問を投げる。
「あなたを殺した大人は、もう、見つけた?」
「あれ、あれ、あれ、あれ。
嘘つき、嘘つき、嘘つき、嘘つき。」
セーラー服を着た顔土左衛門は、あれ、と嘘つき、を繰り返す。
「ここには、あなたに嘘をついた大人が四人いる?」
奈美が言葉を挟むと。
セーラー服を着た顔土左衛門は、早口でまくし立て始めた。
「息が、続くはずないのは、始める前から分かっていた。
モップを洗うためのモップ洗い場なんか、誰も掃除していない。
最後に一回、汚いことに耐える罰を一回受けたら、もう関わらないと言われたから。
汚れた場所で洗われることを我慢した。」
セーラー服を着た顔土左衛門の顔が膨らんだ。
「嘘つき、嘘つき、嘘つき、嘘つき。」
「嘘つきは、どんな嘘をあなたについた?」
奈美が問いかけると。
「息が続かなくなったら、片手を挙げて合図して、無理はしなくていい、形だけだから、とあれ達は言っていた。
私が片手を挙げたら終わりにすると、言ったのに、言ったのに。」
セーラー服を着た顔土左衛門は、顔を膨張させていく。
顔土左衛門の顔は、縦と横、同じ比率で膨らんでいく。
「相似形。」
奈美は、思わず呟いていた。
幽霊が見えない萃は、背後を警戒しつつも、奈美の隣で首を傾げている。
「私が手を挙げて、顔を上げようとしたら、モップで頭を押さえつけてきた。
何度も、何度も。」
セーラー服を着た顔土左衛門の顔は、最初の三倍になった。
「四人で。汚い、汚い、臭い、臭い、と言いながら。交代交代に。」
怒涛の勢いでまくし立てるセーラー服を着た顔土左衛門の言葉を聞くことに徹する奈美。
「息が続かなくなって、無我夢中で水から顔を上げようとしたら。」
顔土左衛門の三倍に膨らんだ顔が、ボコボコと歪んでいく。
「四人がモップで、モップ洗い場の水につけた私の顔を、底まで押しつけた。」
セーラー服を着た顔土左衛門の告白を聞いた奈美は、幽霊にアドバイスを与えた。
「セーラー服を着たあなたは、彷徨う少女。
彷徨う少女に追いかけられた大人は、家に帰れない。
あなたは家に帰れないのに、あなたが家に帰れない理由を作った大人は、牡丹の庭中学校を出たら家に帰れる。
あなたを逃さなかった大人と、あなたを殺した大人をどうするか、あなたはもう決めた?」
セーラー服を着た顔土左衛門の幽霊は、奈美の側からふっと消えた。
「「「ぎゃあああ。なんかいる!」」」
奈美と萃を包囲する尾行者のうちの七人が、突如、叫び声をあげる。
七人分の駆け出す足音とともに、来るな、という怒声が遠ざかる。
「怪談も都市伝説も、流布されて人口に膾炙する現象が起きるのは、理由がある。」
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