言霊の手記

かざみはら まなか

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第3章 少女のSOSは、依頼となり、探偵を動かす。

114.コトリバコのテリトリーは?

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コトリバコを壊すときに注意して置くことは一つ。

コトリバコに、触らないこと。

コトリバコのテリトリー内で、コトリバコよりも優位に立ち、優位性を保ったまま、コトリバコを破壊する。

コトリバコは、その名の通り、箱だ。

箱の形態を保てなくすれば、奈美と萃の勝ち。

生前の姿に戻ったセーラー服の少女の幽霊は、血を流し始めた。

一体、二体、三体。

血を流す幽霊は増える。

廊下の床にたらたらと血が溜まっていく。

萃は、不思議に思いながら、廊下に広がる血溜まりを見ている。

実体を持っていなくても幽霊は血を流せるのか。

実体のない幽霊から、実体のある幽霊に変化したのか。

どっちだろう?

見ているだけでは区別がつかない。

萃は、奈美に聞いてみた。

「幽霊が血を流して、血溜まりが出来た場合。

血は実体として残る?」

奈美は、萃の疑問に答える。

「残らない。

私達の目の前で起きている現象は、幽霊の当たり前じゃない。」

「私達が遭遇したのは、特殊な事例?」

うん、と奈美は頷く。

「生前にコトリバコの材料になっていること。

コトリバコのテリトリー内にいること。

この二つが合わさったから、幽霊になってから生前の姿を取り戻して、血を流すことが可能になった。」

奈美の説明を聞いた萃は、ううーん、と考える。

「コトリバコは、テリトリー内に磁場でも作っている?」

萃の感覚が、奈美の説明だけでは飲み込めないと言っている。

磁場、とは違うような、と、奈美は萃への説明を付け足す。

「牡丹の庭中学校の校門は、神社の鳥居のように、土地を中と外に分けている。」

「牡丹の庭中学校の敷地内に、コトリバコは禁域を作った?」

奈美の説明を聞いた萃は、思い当たる単語を言ってみる。

禁域、という単語を聞いた奈美が、今度は、うーんと考え込む。

「禁域は何か違う。霊場かもしれない。」

萃は、驚く。

萃の想定に、霊場はなかった。

幽霊が集まりやすい場所。

コトリバコが人を呪い殺すことを良しとする場所。

ここを霊場と呼んでもいいのか?

すぐに頷けずにいる萃。

「呪いを撒き散らすコトリバコが霊場を作った?」

奈美に確認しながらも、萃は、考えとしまう。

霊場なんて、呪い殺す道具が作れるものだろうか?

「コトリバコの材料になった女子生徒の思いが、強い祈りになったから、霊場になったのかもしれない。」

「死に赴く女子生徒達の祈りには、後輩を助けたいという強い思いが込められていたから。」

「うん。」

女子生徒の祈りは、コトリバコのテリトリーを霊場に変えたかもしれない。

納得した萃は、コトリバコと戦う作戦の打ち合わせをすることにした。

「コトリバコを壊すことは、コトリバコによって作られた霊場を壊すことになるけれど。

コトリバコとは、どう向き合う?」

萃は、幽霊とも、コトリバコとも、戦う手段が思いつかない。

「霊場だから、萃のやり方も通用する。」

奈美は、きっぱりと言う。

「私達がいる場所は、霊場で、幽霊屋敷のように幽霊が支配する建物とは異なるから?」

「うん。霊場だから、幽霊を祓うというよりも、力で押し切ることになる。」

「コトリバコと力比べをするのは、力で押し切るから?」

「うん。」

なるほど、と萃は思う。

奈美は、最初から、コトリバコと力比べをすると言っていた。

幽霊屋敷とは違う何かを奈美は感じ取っていたのだろう。

「力と言っても、どんな力比べ?」

奈美の視線は、コトリバコとコトリバコの材料になった女子生徒の幽霊がいる場所よりも、奥、廊下の先の方に向いている。

「コトリバコのテリトリーにいるのは、私達とコトリバコの材料になった女子生徒の幽霊だけじゃない。」

「コトリバコの材料になった女子生徒の幽霊と、女子生徒の赤ん坊の幽霊と、私達以外に、何がここにいる?」

他の幽霊が主張してこないので、萃の目には、何も映らない。

「コトリバコに触れて亡くなった女子生徒の幽霊。」

奈美の答えを聞いて、そういえばいた、と萃は思い出した。

「コトリバコと縁が出来ているから、コトリバコのテリトリーに呼ばれた幽霊?」

「うん。コトリバコの材料になった女子生徒の幽霊と、コトリバコに触れて亡くなった幽霊は、混ざっていない。」

コトリバコの材料になった女子生徒は、奈美と萃の近く。

コトリバコに触れて亡くなった女子生徒の幽霊は、奈美と萃の近くにいないと奈美に言われても。

幽霊が見えない萃は、廊下の先に見えない幽霊がいるのかという認識で終わっている。

「誰が先輩か、誰が後輩かが、幽霊同士では分からない?」

幽霊がいるという前提で、萃は奈美に質問する。

「先輩、後輩が分かりにくい、というよりも。

幽霊になる前の意識の違いが、交わらなくさせているんだと思う。」

幽霊となった先輩と後輩の意識の違うところは何か、を考える萃。

「コトリバコの材料になる覚悟の有無?」

「覚悟の有無というよりも、考え方が天と地ほど違うせい。」

考え方が違うのは、道具を作った人と、そこにある道具を使うだけの人との差かもしれない。

「どのくらい違う?」

「コトリバコの材料になった女子生徒は、コトリバコの材料になることを矜持にして死んでいった。」

うん、と萃は頷く。

「コトリバコに触れて寿命を短くした女子生徒の場合は?」

「恨みつらみ。」

「他には?」

「恨みつらみのみ。」
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