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第9章 オレはケレメイン大公国の大公妃殿下です。
461.オレは、ミーレ長官に交代と、退出を伝えましたが、ミーレ長官は、従いません。ミーレ長官についていた部下の姿が、見当たりません。
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「ミーレ長官。交代だ。部屋を出ろ。」
オレは、語気が強くならないように注意しながら話す。
ミーレ長官は、言葉を発さず、一向に部屋を出ようとしない。
部屋の中にいるはずのドリアン王国の侯爵子息も、言葉を発さない。
部屋の中にいるはず、というのは。
オレと女神様の立っている角度から、ドリアン王国の侯爵子息が見えないから。
扉を開けて、見えない場所に誰かがいると分かる部屋に、足を踏み入れる気は、オレにはない。
何かを企んでいるとしか思えない人が待っているなら、向こうがしびれを切らすまで、待たせておく。
ドリアン王国の侯爵子息は待たせるとしても。
ミーレ長官は、どうしたものか?
様子がおかしい人に、おかしいぞ、と指摘するのも、刺激するのも、止めたほうがいい。
信頼関係が出来上がっていない間柄では、特に。
オレが、ミーレ長官に顔がヤバいから休んでこい!と伝えて、ミーレ長官が、分かりました、と素直に受け入れてくれるだけの信頼関係が、オレとミーレ長官の間にはない。
オレは、ミーレ長官を信用しているけれど、ミーレ長官からオレへの信用度合いは、なくはないけれど、オレより低い。
ミーレ長官と接してきて、分かってきたことがいくつかある。
礼儀正しく振る舞うこと。
自分自身が権力を使うこと。
権力者に従うこと。
ミーレ長官は、どれも、そつなくできる。
ただし、そこに、ミーレ長官の心があるかは、不明。
周りに振り回されてきて、自分自身以外の意図で動かされてきたミーレ長官の人生の中で、ミーレ長官が身についた生き方。
ミーレ長官の心の機微を見せられる相手は、限られている。
ミーレ長官が、お母さんの客死事件の追求を止めない姿を見せているミーレ長官の奥様や息子さんは、ミーレ長官が、心を許している数少ない相手だった。
でも。
ミーレ長官の奥様は、ケレメイン大公国に来たタイミングで、亡くなったお母さんのことばかりを追って、生きている妻子を忘れることがないように、と、ミーレ長官に釘をさしている。
ミーレ長官の奥様は、ミーレ長官に釘をさして、話し合いをしたことで、ミーレ長官が、変わったと信用している。
ミーレ長官の奥様と息子さんの立場からすれば、ミーレ長官が生きている家族に向き合うようになってくれたことは、喜ばしいから、態度が変わったミーレ長官の内面には言及しない。
オレの推測だけど。
ミーレ長官の奥様の指摘によって態度を改めたミーレ長官は、家族に対しても、内面を見せなくなったんじゃないかな。
ミーレ長官は、家族との関係を破綻させて、居場所を失ってしまわないように、本心を家族から隠した。
オレは、そんな気がしている。
我慢強い人の中には、我慢することが常態化していて、我慢すること、我慢しないことの加減がわからなくなって、我慢するのが当たり前だから、我慢し続けている人がいる。
我慢し続けているうちに、限界がきて壊れてしまう人もいる。
覆い隠した心の内側に、我慢し続けた感情が蓄積して、ヘドロ化してしまう人もいる。
感情がヘドロ化してしまうと、ヘドロを一掃するまで、ヘドロ化した部分が広がり続ける。
ヘドロ化した感情は、表面上見えなくされているだけ。
勝手に消えない。
無くならない。
心の内側にためこんだヘドロは、本人の我慢強さが、外に出すまいとする。
ミーレ長官は、本心を隠して、我慢して、表面を繕うことで生きてこれた。
感情の発露する場所をなくしていたミーレ長官。
顔は認識していても、交流したことはなかったドリアン王国の侯爵子息と、ミーレ長官が出会ったことが、ドリアン王国の狙い通りなら。
ドリアン王国の侯爵子息は、ミーレ長官の隠された本心を揺さぶっていると思う。
同時に。
ミーレ長官には、ミーレ長官の本心を理解して、寄り添う人がいないことを突きつけていないかな?
ドリアン王国の侯爵子息は、ミーレ長官に寄り添うとは言わないと思う。
ドリアン王国のやり方を侯爵子息が踏襲しているなら、ミーレ長官に寄り添うことで味方に引き入れることはしない。
ドリアン王国のこれまでのやり方から予想すると、ドリアン王国の侯爵子息は、ミーレ長官に、苦しい現実を突きつけて、判断を狂わせる方法をとったと思う。
ミーレ長官は、今、オレの前で、心の内側に溜め込んでいたヘドロにまみれている。
ミーレ長官の奥様と息子さんに捨て台詞を吐いたドリアン王国のスパイが、ミーレ長官の奥様と息子さんに接触した時点で。
ミーレ長官は、この状態に出来上がっていたのかな?
ミーレ長官が、狙われていると考えもしなかったオレの失策。
事態は、想定していた以上に悪化している。
この場を立ち去って、カズラくんがいる安全圏に逃げたい。
でも。
今のミーレ長官に背中を向けたら、ミーレ長官と信頼関係を築く機会は、永遠に失われてしまう気がする。
今のミーレ長官を突き放してはいけない。
ミーレ長官を突き放す姿勢を見せたら、ダメだ。
オレは、冷静に周りを観察するように努めた。
ドリアン王国の侯爵子息がいる部屋の周囲には、ミーレ長官の部下が、一人も見当たらない。
ミーレ長官か、ドリアン王国か。
どちらが、ミーレ長官の部下を遠ざけたのかな?
ミーレ長官についていた部下は今どこにいる?
ミーレ長官についていた部下からの報告が上がってこなかったのは、ミーレ長官が止めていたのかな?
それとも?
オレは、語気が強くならないように注意しながら話す。
ミーレ長官は、言葉を発さず、一向に部屋を出ようとしない。
部屋の中にいるはずのドリアン王国の侯爵子息も、言葉を発さない。
部屋の中にいるはず、というのは。
オレと女神様の立っている角度から、ドリアン王国の侯爵子息が見えないから。
扉を開けて、見えない場所に誰かがいると分かる部屋に、足を踏み入れる気は、オレにはない。
何かを企んでいるとしか思えない人が待っているなら、向こうがしびれを切らすまで、待たせておく。
ドリアン王国の侯爵子息は待たせるとしても。
ミーレ長官は、どうしたものか?
様子がおかしい人に、おかしいぞ、と指摘するのも、刺激するのも、止めたほうがいい。
信頼関係が出来上がっていない間柄では、特に。
オレが、ミーレ長官に顔がヤバいから休んでこい!と伝えて、ミーレ長官が、分かりました、と素直に受け入れてくれるだけの信頼関係が、オレとミーレ長官の間にはない。
オレは、ミーレ長官を信用しているけれど、ミーレ長官からオレへの信用度合いは、なくはないけれど、オレより低い。
ミーレ長官と接してきて、分かってきたことがいくつかある。
礼儀正しく振る舞うこと。
自分自身が権力を使うこと。
権力者に従うこと。
ミーレ長官は、どれも、そつなくできる。
ただし、そこに、ミーレ長官の心があるかは、不明。
周りに振り回されてきて、自分自身以外の意図で動かされてきたミーレ長官の人生の中で、ミーレ長官が身についた生き方。
ミーレ長官の心の機微を見せられる相手は、限られている。
ミーレ長官が、お母さんの客死事件の追求を止めない姿を見せているミーレ長官の奥様や息子さんは、ミーレ長官が、心を許している数少ない相手だった。
でも。
ミーレ長官の奥様は、ケレメイン大公国に来たタイミングで、亡くなったお母さんのことばかりを追って、生きている妻子を忘れることがないように、と、ミーレ長官に釘をさしている。
ミーレ長官の奥様は、ミーレ長官に釘をさして、話し合いをしたことで、ミーレ長官が、変わったと信用している。
ミーレ長官の奥様と息子さんの立場からすれば、ミーレ長官が生きている家族に向き合うようになってくれたことは、喜ばしいから、態度が変わったミーレ長官の内面には言及しない。
オレの推測だけど。
ミーレ長官の奥様の指摘によって態度を改めたミーレ長官は、家族に対しても、内面を見せなくなったんじゃないかな。
ミーレ長官は、家族との関係を破綻させて、居場所を失ってしまわないように、本心を家族から隠した。
オレは、そんな気がしている。
我慢強い人の中には、我慢することが常態化していて、我慢すること、我慢しないことの加減がわからなくなって、我慢するのが当たり前だから、我慢し続けている人がいる。
我慢し続けているうちに、限界がきて壊れてしまう人もいる。
覆い隠した心の内側に、我慢し続けた感情が蓄積して、ヘドロ化してしまう人もいる。
感情がヘドロ化してしまうと、ヘドロを一掃するまで、ヘドロ化した部分が広がり続ける。
ヘドロ化した感情は、表面上見えなくされているだけ。
勝手に消えない。
無くならない。
心の内側にためこんだヘドロは、本人の我慢強さが、外に出すまいとする。
ミーレ長官は、本心を隠して、我慢して、表面を繕うことで生きてこれた。
感情の発露する場所をなくしていたミーレ長官。
顔は認識していても、交流したことはなかったドリアン王国の侯爵子息と、ミーレ長官が出会ったことが、ドリアン王国の狙い通りなら。
ドリアン王国の侯爵子息は、ミーレ長官の隠された本心を揺さぶっていると思う。
同時に。
ミーレ長官には、ミーレ長官の本心を理解して、寄り添う人がいないことを突きつけていないかな?
ドリアン王国の侯爵子息は、ミーレ長官に寄り添うとは言わないと思う。
ドリアン王国のやり方を侯爵子息が踏襲しているなら、ミーレ長官に寄り添うことで味方に引き入れることはしない。
ドリアン王国のこれまでのやり方から予想すると、ドリアン王国の侯爵子息は、ミーレ長官に、苦しい現実を突きつけて、判断を狂わせる方法をとったと思う。
ミーレ長官は、今、オレの前で、心の内側に溜め込んでいたヘドロにまみれている。
ミーレ長官の奥様と息子さんに捨て台詞を吐いたドリアン王国のスパイが、ミーレ長官の奥様と息子さんに接触した時点で。
ミーレ長官は、この状態に出来上がっていたのかな?
ミーレ長官が、狙われていると考えもしなかったオレの失策。
事態は、想定していた以上に悪化している。
この場を立ち去って、カズラくんがいる安全圏に逃げたい。
でも。
今のミーレ長官に背中を向けたら、ミーレ長官と信頼関係を築く機会は、永遠に失われてしまう気がする。
今のミーレ長官を突き放してはいけない。
ミーレ長官を突き放す姿勢を見せたら、ダメだ。
オレは、冷静に周りを観察するように努めた。
ドリアン王国の侯爵子息がいる部屋の周囲には、ミーレ長官の部下が、一人も見当たらない。
ミーレ長官か、ドリアン王国か。
どちらが、ミーレ長官の部下を遠ざけたのかな?
ミーレ長官についていた部下は今どこにいる?
ミーレ長官についていた部下からの報告が上がってこなかったのは、ミーレ長官が止めていたのかな?
それとも?
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