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ネコになった僕
しおりを挟む気づいたらネコになっていたーー。
ネコになる前は……
おそらく人間の男子だったと思う。たぶん高校生。判っているのはこれだけ。家族がどうしたとか、住んでいた家はどこだとか、ネコになる前の僕がどんな顔だったとか、残念ながらまったく記憶にはない。
当然、名前も忘れてしまっている。たまたま通りかかったコンビニエンスストアのガラスに映る、毛むくじゃらの自分を見て、腰を抜かしてしまったのだ。
いつネコになったかって?
たぶん今日からだ。
ミャーミャー(お腹がへったよ)
ニャー(温かい家に帰りたいよ)
ニャー(お願い、誰か拾って)
僕は見知らぬ家の玄関前に座ると鳴いてみた。
「しっ! 野良ネコめ」
窓から顔を出した老人が拳を振りあげ、ものすごい剣幕で僕を追い払った。恐れをなした僕はその場を去った。
「あら嫌だ、野良ネコ。保健所に連絡しなきゃ」
道端で遭遇したご婦人がエコバッグから携帯電話をひっぱり出した。
マズイ捕まったらセンターの人が捕まえにくる。僕は背を低くしながら駆ける。側溝に潜り込み、まるで海兵隊の隊員のように匍匐前進しながら進む。家の軒先、裏道を通り抜け、気づいたら公園にたどり着いていた。
ベンチに美しい白いネコが気持ちよさそうに寝そべっていた。ふさふさとしたしっぽを、ゆらりゆらりと揺らしている。ニャーと言った言葉は“きみ可愛いじゃーん”って言っているような気がした。これってミュージカルのキャッツみたいだと僕は思った。
不意に毛が逆立つような奇妙な感覚を覚えた。背後から”うーっ”という、唸り声が聞こえてきた。白ネコがツンとすまし顔で立ち上がると、くるりとお尻を見せ、繁みに消えてしまった。僕は恐る恐る後ろを振り返る。
ゲームオーバー
キズだらけの爆弾おにぎりみたいな面のボスネコが(たぶんボスねこだと思う)“シャー”と雄叫びをあげ、僕を威嚇する。ついさっきネコになったばかりの僕は、早くもラスボスに出くわしてしまったようだ。縄張りを荒らしたよそ者に、ボスネコは敵意丸出しで牙をむきだした。背中の縞模様を山みたいにして、毛を逆立てながら『殺す』と言ってきた。震え上がった僕は一目散に逃げ出した。
ぽつりぽつりと雨が降ってきた。
雨宿りをしようと、駅前の人通りのある生け垣に隠れた。腹がへった。誰か拾ってくれないかな。どうせ拾ってくれるなら、優しいお母さんみたいな人がいい。そんなことを考えているうちに綺麗にお化粧をした女の人が改札を出てきた。
「ニャ~」といって僕は猫なで声で近づく。
「汚いネコ!」その女の人の声はどういうわけか野太かった。綺麗なお姉さんは、姉さん違いのおねえだったようだ。“おりゃー”とばかりに尖ったヒールで蹴とばされそうになった僕は、間一髪で生け垣に逃げ込んだ。ショックのあまりしばし呆然とし、世間はなんて冷たいのだろうと、その理不尽さに、僕はまるで幼児みたいにしくしくと泣くのだった。
降り出した雨はやがて本降りとなる。僕は生け垣の中でべそをかきながら、行き交う人々の靴を眺めていた。不意に水色のスニーカーが立ち止まった。
「ネコちゃんどうしたの?」
しゃがんだ女の人は、淡いピンクの口紅をつけたとびきりの美人だった。
「まぁそれに君はネコのくせに、こんなにも濡れ鼠になっちゃってーー」
ふっくらとした唇が微笑む。
『ミャー、ミャー』と、僕はすがるように鳴いた。
「まぁ可愛い」
白くつるつるの手が伸びてきて、気づいたら僕はいい匂いのする、柔らかな胸の中に抱かれていた。
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