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ネコの妖精マチルダ
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「今度のハロウィンパーティー、エミちゃんはシンデレラでしょう、モモちゃんは白雪姫。私、どうしようかな」
モモちゃんとアズリンが部屋にやってきていた。
「アズリン、オーロラ姫なんかどう?」とモモちゃん。
「ほら私、姫っていうキャラじゃないじゃん」
「言われてみれば確かに」
「いっそのこと、王子様なんかどうかな?」エミちゃんは携帯から“薔薇のベル王子”の画像を見せた。
クールなイメージのアズリンは王子が似合うと思う。エミちゃんの膝にいる僕は一緒になって覗き込んだ。
「なるほど王子様もいいかも。凛太朗もそう思う?」
ニャーと僕は返事をする。
「おお凛太朗、賢い。それにアズリン、ジェンヌみたいになりそうで、カッコイイよ」モモちゃんは目を輝かせながら言った。
「ありがとう。でもさぁ、学園クイーン候補は断然エミちゃんだと思うな」
「まさか」
「マジだよ。ねぇ、モモちゃん」
「うんうん、もしかしたら湊先輩から告白されちゃうかもよ?」
僕はモモちゃんの言葉にドキリとした。
「告白? まさか」エミちゃんはころころと笑う。
「湊先輩、前々からエミちゃん推《お》しだもん。いっそうのこと、キングとクイーンでつき合っちゃいなよ」
アズリンの言葉に僕の胸はぎゅっと締め付けられた。
それから十日後ーー。
ハロウィンパーティーの用意をしていたエミちゃんは、朝から忙しそうにしていた。化粧道具をかき集め、水色のドレスをキャリーバッグに詰めると、僕の好物の高級缶詰を二缶も開けた。
「凛太朗、今夜は遅くなるの。たぶん午前様になっちゃうかな。だから、私が帰ってくるまでいい子で待っていてね」
エミちゃんは迎えに来た仲間たちとテンション高くきゃきゃと言いながら出ていった。
ぽつんと一匹残された僕は、いいようもない寂しさに襲われた。今の僕はネコなんだもの。それに恋敵は人間の男だ。それも完璧なる湊先輩に敵うはずがない。高級缶詰を前にしてもさっぱり食欲はわかなかった。うなだれた視線の先に、床に落ちたハロウィンパーティーのチラシを見つけた。
創造大学第35回学園祭
『前夜祭』のご案内
今年の前夜祭はハロウィンパーティーを開催します
メインイベントは『学園クイーンとキングの総選挙!』
皆様奮ってご参加ください。
あんなに美人なのだから、きっとエミちゃんはクイーンだ。それなら、やはり湊先輩がキングの可能性が大だ。誰が見たってお似合いの二人。モモちゃんの言った湊先輩からの告白がにわかに現実味を帯びてきた。悔しくなった僕はチラシに飛びかかる。爪を立て、ビリビリに引き裂いた。散り散りになった紙片に、僕の気持ちは引き裂かれたように痛んだ。情けなさに、ぽろぽろと涙が流れ落ちるのだった。
とっぷりと日が暮れた。すっかりいじけた僕はネコの詩を口ずさむ。
君のいない空の下に眠る
草が生える瓦の上で
君のいない春に眠る
錆びついた洗濯機の上で
君のいないうたた寝は、
放置された車のボンネットの上
君のいない寂しさから
バス停の朽ちたベンチの上で眠る
君のいない夜に眠る
崩れた煉瓦塀の上で
君のいないアパートの一室
君の膝の上を思いながら僕は眠る
『あらまぁ君、何をそんなに感傷的になっちゃって、どうしちゃったのかしらん♪』
どからともなく声がする。僕は目だけをキョロキョロとさせた。すると、不思議ことに高級缶詰に貼ってあるラベルの白いネコ魔女がキラキラと輝きだした。ポンと音がして、煙とともに二本足で立つペルシャ猫が現れた。
『坊やったら、なぜしくしく泣いているのん?』エコーがかかったような声に、僕はあっけに取られて口をパクパクさせた。
「もしかしたら、好きになった娘を、ボスネコに取られちゃったとかん?」
「はい……まぁそんなところです。かくかくしかじかなのです」僕はこれまでの経緯《いきさつ》をかいつまんで話をする。「ところで、あなたは誰ですか?」
『私はネコの妖精、マチルダよ。高級缶詰の特典としてお困りネコの願いを叶えちゃうのん。でも君はノンノン真のネコとはいいがたいけれど、この際、細かいことはいいわぁ。君の願いを叶えてあげるぅ☆~』
マチルダが持っていた杖をふると、パチパチとはじけるキャンディみたいな音がした。
これは夢なのだろうか? このときの僕はふわふわとしていてまるで現実感がなくなっていた。けれど、たとえこれが夢であっても、エミちゃんが他の男のものになるのは耐えられない。だったら、今が夢だっていいじゃないか。僕がネコになってしまったのだって、きっと長い長い夢の、途中の出来事なのかもしれない。僕は文字通り藁にもすがる気持ちで叫んだ。
「それなら僕を人間の王子様にしてください!」
『いいわよ』
へっ? あまりにも簡単にいうものだから、僕は拍子抜けした。「ホントに? できるんですか?』
『もちろん。ただし、君はまだお子様だから、十時を過ぎたら元のネコに戻ってしまうけど、それでもいいかしらん?』
「ええ?? それはさすがに早すぎやしませんか? せめて十二時まではいいでしょう?」
『ああぁ……そうね、これはよい子の決まりみたいなものだから、仕方ないの。でも外見はネコだけど中身は人間みたいだから、三十分伸ばしてあげる。それでもよかったらどうぞ。さぁ、どうする?」
なにがなんでもエミちゃんを奪還したい僕は、制限時間つきで人間の姿に戻してもらうことにした。
杖からパチパチと弾けた音がする。
「ブブバディデビビ☆」とマチルダが呪文を唱えると、僕は真っ白い夜会服に身を包んだ王子様に変身した。
『君、思っていた以上にイケメンくんに仕上がったわね。さぁ、時間があまりないから急ぎなさい、場所はどこかしらん?』
「会場は……」
パンフレットを引き裂いた自分を呪いながら、四つん這いになった僕は必至で紙片をかき集めるのだった。
モモちゃんとアズリンが部屋にやってきていた。
「アズリン、オーロラ姫なんかどう?」とモモちゃん。
「ほら私、姫っていうキャラじゃないじゃん」
「言われてみれば確かに」
「いっそのこと、王子様なんかどうかな?」エミちゃんは携帯から“薔薇のベル王子”の画像を見せた。
クールなイメージのアズリンは王子が似合うと思う。エミちゃんの膝にいる僕は一緒になって覗き込んだ。
「なるほど王子様もいいかも。凛太朗もそう思う?」
ニャーと僕は返事をする。
「おお凛太朗、賢い。それにアズリン、ジェンヌみたいになりそうで、カッコイイよ」モモちゃんは目を輝かせながら言った。
「ありがとう。でもさぁ、学園クイーン候補は断然エミちゃんだと思うな」
「まさか」
「マジだよ。ねぇ、モモちゃん」
「うんうん、もしかしたら湊先輩から告白されちゃうかもよ?」
僕はモモちゃんの言葉にドキリとした。
「告白? まさか」エミちゃんはころころと笑う。
「湊先輩、前々からエミちゃん推《お》しだもん。いっそうのこと、キングとクイーンでつき合っちゃいなよ」
アズリンの言葉に僕の胸はぎゅっと締め付けられた。
それから十日後ーー。
ハロウィンパーティーの用意をしていたエミちゃんは、朝から忙しそうにしていた。化粧道具をかき集め、水色のドレスをキャリーバッグに詰めると、僕の好物の高級缶詰を二缶も開けた。
「凛太朗、今夜は遅くなるの。たぶん午前様になっちゃうかな。だから、私が帰ってくるまでいい子で待っていてね」
エミちゃんは迎えに来た仲間たちとテンション高くきゃきゃと言いながら出ていった。
ぽつんと一匹残された僕は、いいようもない寂しさに襲われた。今の僕はネコなんだもの。それに恋敵は人間の男だ。それも完璧なる湊先輩に敵うはずがない。高級缶詰を前にしてもさっぱり食欲はわかなかった。うなだれた視線の先に、床に落ちたハロウィンパーティーのチラシを見つけた。
創造大学第35回学園祭
『前夜祭』のご案内
今年の前夜祭はハロウィンパーティーを開催します
メインイベントは『学園クイーンとキングの総選挙!』
皆様奮ってご参加ください。
あんなに美人なのだから、きっとエミちゃんはクイーンだ。それなら、やはり湊先輩がキングの可能性が大だ。誰が見たってお似合いの二人。モモちゃんの言った湊先輩からの告白がにわかに現実味を帯びてきた。悔しくなった僕はチラシに飛びかかる。爪を立て、ビリビリに引き裂いた。散り散りになった紙片に、僕の気持ちは引き裂かれたように痛んだ。情けなさに、ぽろぽろと涙が流れ落ちるのだった。
とっぷりと日が暮れた。すっかりいじけた僕はネコの詩を口ずさむ。
君のいない空の下に眠る
草が生える瓦の上で
君のいない春に眠る
錆びついた洗濯機の上で
君のいないうたた寝は、
放置された車のボンネットの上
君のいない寂しさから
バス停の朽ちたベンチの上で眠る
君のいない夜に眠る
崩れた煉瓦塀の上で
君のいないアパートの一室
君の膝の上を思いながら僕は眠る
『あらまぁ君、何をそんなに感傷的になっちゃって、どうしちゃったのかしらん♪』
どからともなく声がする。僕は目だけをキョロキョロとさせた。すると、不思議ことに高級缶詰に貼ってあるラベルの白いネコ魔女がキラキラと輝きだした。ポンと音がして、煙とともに二本足で立つペルシャ猫が現れた。
『坊やったら、なぜしくしく泣いているのん?』エコーがかかったような声に、僕はあっけに取られて口をパクパクさせた。
「もしかしたら、好きになった娘を、ボスネコに取られちゃったとかん?」
「はい……まぁそんなところです。かくかくしかじかなのです」僕はこれまでの経緯《いきさつ》をかいつまんで話をする。「ところで、あなたは誰ですか?」
『私はネコの妖精、マチルダよ。高級缶詰の特典としてお困りネコの願いを叶えちゃうのん。でも君はノンノン真のネコとはいいがたいけれど、この際、細かいことはいいわぁ。君の願いを叶えてあげるぅ☆~』
マチルダが持っていた杖をふると、パチパチとはじけるキャンディみたいな音がした。
これは夢なのだろうか? このときの僕はふわふわとしていてまるで現実感がなくなっていた。けれど、たとえこれが夢であっても、エミちゃんが他の男のものになるのは耐えられない。だったら、今が夢だっていいじゃないか。僕がネコになってしまったのだって、きっと長い長い夢の、途中の出来事なのかもしれない。僕は文字通り藁にもすがる気持ちで叫んだ。
「それなら僕を人間の王子様にしてください!」
『いいわよ』
へっ? あまりにも簡単にいうものだから、僕は拍子抜けした。「ホントに? できるんですか?』
『もちろん。ただし、君はまだお子様だから、十時を過ぎたら元のネコに戻ってしまうけど、それでもいいかしらん?』
「ええ?? それはさすがに早すぎやしませんか? せめて十二時まではいいでしょう?」
『ああぁ……そうね、これはよい子の決まりみたいなものだから、仕方ないの。でも外見はネコだけど中身は人間みたいだから、三十分伸ばしてあげる。それでもよかったらどうぞ。さぁ、どうする?」
なにがなんでもエミちゃんを奪還したい僕は、制限時間つきで人間の姿に戻してもらうことにした。
杖からパチパチと弾けた音がする。
「ブブバディデビビ☆」とマチルダが呪文を唱えると、僕は真っ白い夜会服に身を包んだ王子様に変身した。
『君、思っていた以上にイケメンくんに仕上がったわね。さぁ、時間があまりないから急ぎなさい、場所はどこかしらん?』
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