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第三十九話 協会支部長

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「さて、では話を聞かせもらいましょうか」

 あの後、職員の方は本当に協会長……いえ、実際には蒼穹の塔支部支部長ですね。その方に話を通したらしく、私達は揃って三階にある部屋に通されました。

 そこで知ったのですが、ここの支部長は女性だったんですね。初老の、落ち着いた上品な方です。

 ですが、さすがは探索者を相手にする方。目は鋭いですよ。

「下でも言ったんだが、二十一階から三十階までの地図を買ってほしい。もちろん、そこで手に入れた品もだ」
「……まずは、品物の方を確認させてもらいましょうか」

 目の前のローテーブルに出せばいいんでしょうか。カルさんを見ると、軽く頷くので、魔法収納から出していきます。

 ですが、途中で止められました。

「待った! あなた、一体どこからこれを?」
「? 魔法収納からですが」
「魔法収納!?」

 支部長が、とても驚いています。

 確かにサヌザンドでも持っている人は少ないですけれど、そんなに驚く程のものですか?

 ニカ様を窺いますが、私と同じように戸惑ってらっしゃいます。

「あの、確認しますが、あなたは魔法収納をお持ちだと?」
「ええ」
「いつ、どこで購入されたんですか!?」
「え?」

 購入? 首を傾げる私に、今度は支部長が戸惑っている様子です。どういう事でしょうか?



 あの後、収集がつかないからというカルさんからの申し出により、まずは迷宮産の品と地図を確かめてもらう事になりました。

 知らなかったのですが、協会には、迷宮産の品がどこの何階から産出したものか、調べる道具があるそうです。凄いですね。

「つっても、誰がどうやって作ってるのか、誰も知らねえっていうぜ」
「え? そんな事、あり得るんですか?」
「あり得るから、協会にはそういう道具があるのさ」

 何だかはぐらかされた気分です。ともかく、預けた品が迷宮の二十一階上から産出したとその道具で証明されれば、地図の方も信じてもらえるのだとか。

 考えてみれば、そうですよね。これが二十一階以上の地図です、と言って持ち込んでも、それが本物かどうか確かめる術がなかったら、協会は欺され放題です。

 迷宮産の品に関しては、まず鑑定用に一階層につき一つの品を提出しています。そちらの鑑定が終わり本物と認められたら、地図やその他の品を買い取ってもらえるようです。

 二十一階から三十階までは森でしたから、倒した魔物は殆ど虫です。倒した後に出た品も、虫の足や羽根、目玉、触覚、何故か牙などばかり。

 少しだけ鳥型もいたようで、鳥の羽やくちばしなどもありました。何はともあれ、収納の中身を少しは軽くしたいものです。

 支部長の部屋でお茶を出していただき、全員で待っていると、廊下の方が騒がしいです。

 やがて、扉が乱暴に開けられました。

「きょ、支部長! 結果が出ました!!」
「落ち着きなさい。それと、入室する前には確認をと、何度も教えたでしょう?」
「も、申し訳ございません! でも、結果が出たんです!!」

 興奮した様子の男性職員が、手に持った書類を支部長に渡します。そちらに目を通した支部長が、その目を見開きました。

「本物なのね……」
「はい! 今まで二十階で停滞したいた蒼穹の塔の探索が、一挙に三十階まで上がりました!」

 何やら二人で盛り上がっています。協会側としては嬉しさが先に立っているのでしょうけれど、私達の事、忘れてませんか?



 ひとしきり騒いだ後、我に返った支部長に謝罪されました。

「お見苦しいところをお目にかけてしまって……」
「いえ……」

 なんとも言えない空気が、部屋に漂っています。

「それで、階層の確認が取れました。改めて品物と地図を買い取りたいのですが、よろしいですか?」

 ニカ様とカルさんを確認します。地図を作ったのはほぼ私という事で、この場での決定権は私が持つ事になったんです。

「はい。お願いします」

 魔法収納に入っている、残りの品を全て出して査定してもらう事になりました。

 量が多かったので、運んでもらうのに苦労しました。いえ、私が大変だった訳ではないのですけど。

「さて、では査定結果を待つ間に、二十一階以上の話を聞かせてもらいましょうか」

 ここからは、カルさんに変わってもらい、二十階へ上るところから説明してもらいました。

「階段に……」
「ああ、それと話は逸れるが、十八階の拠点地、ありゃどうにかならねえのか?」
「どうにか……とは?」
「二つの組の連中に占有されちまってて、他の奴らが行ったところで使えそうにねえぞ」
「そう……」

 貴重な拠点地、探索者の皆で使ってほしいものです。二十一階まで行ってしまえば、各階層に複数の拠点地がありますけれど。

 そこに行くまでが大変ですものね。

「正直、迷宮の中の事まで協会は管理しきれないのよ。十八階にしてもそう。現状どうなっているのか、知りようもない」
「協会がそれじゃあな。せめて職員を常駐させるとかしねえと」
「無茶言わないで。協会職員だからといって、探索者を相手に戦える者達ばかりじゃないのよ」

 そうですよね。普段迷宮の魔物を倒している探索者達は、ある意味戦い慣れています。

 そんな人達を相手に、協会職員だからと襲撃されない保証はありません。何せ迷宮の中は自己責任ですから。

「まあ、俺ら以外にあの連中を全員倒せる組が出てくるか、もしくは連中が自滅するのを待つ以外ないかもな。探索は捗らねえけど」
「それはそれで困るのよ……」

 支部長の苦い表情には、どうにかしたいという思いが滲んでいます。

「いっそ、国の軍隊に応援を頼んだらどうかしら」
「え?」

 ニカ様の突然の提案に、支部長もカルさんも驚いた顔です。いえ、私も驚きましたけど。

「それは、軍に探索者になれと?」
「いいえ、いくつか重要な拠点地の警戒だけ、軍に任せるの。対人戦なら、多分探索者よりも腕は上でしょう。彼等が治安維持という名目で拠点地を確保していれば、いくら幅を利かせた組の人達でも、拠点地の占有は難しいと思うわ」

 なるほど。言い方は悪いかもしれませんが、軍を番犬代わりに使うという訳ですね。

 確か、オーギアンでは迷宮探索は国策だったはず。ならば、国に忠誠を誓っている軍は、国の為に迷宮の拠点地を守るべきだと。

 何やら考え込んでいた支部長は、少し席を外すと言って部屋を後にしました。

「どうなるだろうな?」
「判断は、国の上層部がするでしょう。十八階がどうなろうが、私達にはあまり関係はないわ」
「そりゃそうかもしれねえけどよ……」
「あの状態を、一探索者がどうにかしようなんて思わない事よ、カル。そして、今回支部長が上申する内容が通る通らないによって、この国が迷宮をどう考えているかがわかるわ」

 ニカ様の言葉に、カルさんはそれ以上何も言えません。

 国が軍を出すまではいかないにしても、代替案を出してくればそれなりに大事にしているのでしょう。

 ですが、全てを探索者に丸投げするのであれば……そういう事です。
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