50 / 63
第五十話 解呪の水
しおりを挟む
四十階の門の前で待つ事しばし。使い魔が無事、鍵を見つけてきました。
数を増やして今まで通ってきた階層をくまなく探させた結果でしょうか。
ちなみに、鍵は三十九階の端の方にあったようです。
「やっぱり迷宮というのは意地が悪いですね」
私が怒るのを、ニカ様とカルさんが笑いながら見ています。
使い魔が持ってきた鍵は、かなり大きなもので複雑な形状をしていました。それに、持ってみるとずっしりと重いです。
「大きな鍵ですね」
「これを見落としていたのね……」
「まあ、行っていない場所だったみたいだからなあ」
これからは、何もない場所でも探索するべきですね。
カルさんに鍵を渡し、開けてもらう事にしました。ちょっと重いですし、鍵穴の場所がちょうどカルさんの目の辺りなんです。
鍵穴に差し込んだ鍵を回そうとしますが、なかなか回りません。
「錆び付いているのかしら?」
「あ! あれを!」
門の上に、文字が浮かび上がりました。
『汝、開門を望む者よ。聖なる花の実から成る油を持て』
……これは、鍵以外にも何かを探せという事でしょうか。ニカ様が無言で私の肩を叩きます。探せという事ですね。
私は再び、使い魔を下の階層に飛ばしました。
聖なる花と言われても、どれがそうなのかよくわかりません。なので、使い魔には実がなっているもの全てを集めてくるよう、指示を出しました。
おかげで次から次へと色々な実が集まっています。
「こんなに実がなってたんですね、この迷宮」
「どれが聖なる花の実なのか、判別つかないわね……」
「いっそ、全部絞って片っ端から試してみようぜ」
遠回りな気もしますが、それが一番堅実かもしれません。
一番最初の実を魔法で搾ると、何とも青臭い汁が出て来ました。試しに鍵穴に近づけると、門自体が生き物のようにガシャガシャと動きます。
それはまるで、この青臭い汁を拒絶しているかのようです。
「これは……」
「なるほど。ベーサお嬢! 次行くぞ次!」
「はい!」
門が正解を教えてくれるようですから、後はこちらの労力の問題ですね。
山のような不正解の果てに、やっと門の反応がないものが見つかりました。
その実は、二十一階の水場にあった実のようです。
「何という、意地の悪い……」
「まあまあ、ベーサ。ともかく、これで門を開けられるのだから」
「ぐ……そ、そうですね」
ちなみに、二十一階にあったという聖なる花とは、水場にある低木に咲く花だったようです。
花と実は同時に木にあったんですって。使い魔が教えてくれました。
実の絞り汁である油を差すと、鍵はすーっと回って門が開きました。……鍵穴は錆びていたのに、門の蝶番は錆びていないんですね。さすが迷宮、不思議が一杯です。
門の向こうには小道が続き、小道の両脇を生け垣が囲っていました。蛇行する小道を進むと、その先には開けた場所があります。
「これは……」
思わずといった様子のニカ様の声が響きました。目の前には、明るい光が差し込む噴水と、その周囲を囲む生け垣、生け垣をさらに囲む小道からなる小さな庭園があります。
「今度こそ、当たりだといいんだけどな」
こここそが、古い文献に記されていたという解呪の水がある場所なのでしょうか。
今までも、多くの水場で水を採取、カルさんが飲むというのを繰り返しましたけど、どれも外れでした。
ですが、この噴水は今までの水場とは違うようです。水から、かすかな力を感じます。
解呪ではないかもしれませんが、何か力を持った水ではないでしょうか。
「カルさん」
「試してみる」
カルさんは、噴水に近づくと手で水を掬って一口飲みました。すると、背中に背負っている大剣が、一人でに落ちたではありませんか。
「これは……」
「ベーサ、箱から見つかった剣を、カルに渡して」
「はい!」
あの時、大剣に拒絶されたカルさんですが、今ならあの剣を手にできるのではないでしょうか。
魔法収納から出した大剣を、カルさんの前に差し出します。彼はそれにゆっくりと手を伸ばし……手に持てました!
「これで、俺の呪いは解けたのか……」
「そうなんじゃないかしら?」
「おめでとうございます! カルさん」
「ああ……ああ……ありがとう!」
カルさんは、新しく手に入れた大剣を手に、その場でくずおれ泣き出してしまいます。でも、ニカ様も私も止めません。
どのくらい、あの大剣に呪われていたのかは知りませんが、月の光を浴びないようにするのは、それなりに大変な事だったでしょう。
カルさんから外れた大剣を見ると、何やら振るえているようです。
「カルさん、こちらの剣、どうしますか?」
「俺はいらねえ。何ならお嬢にやるよ」
えー? いりませんよ、狼になってしまう剣なんて。でも、口には出来ません。
ふと、解呪の水が溢れる噴水に目がとまりました。
「迷宮のものは、迷宮に返すべきではないでしょうか?」
「ベーサ、あなた……まさか、あの剣を噴水に放り込むつもり?」
「あ、もちろん水を採取してからですよ」
大きめの瓶を出し、噴水の水を汲んでから、魔法で呪われた方の大剣を持ち上げ、噴水に静かに浸けました。
これで誰もこの呪われた剣を手にしなくて済む。その程度の考えからだったのですが……
「あら、まあ」
「まさか、こうなるとはね」
「はは、これでもう、誰も呪われなくて済むな」
なんと、剣は噴水に浸かった途端、煙を上げて消えてしまったのです。確かに、これでもう呪われる人はいなくなりますね。呪いの大剣そのものが消えてしまったのですから。
数を増やして今まで通ってきた階層をくまなく探させた結果でしょうか。
ちなみに、鍵は三十九階の端の方にあったようです。
「やっぱり迷宮というのは意地が悪いですね」
私が怒るのを、ニカ様とカルさんが笑いながら見ています。
使い魔が持ってきた鍵は、かなり大きなもので複雑な形状をしていました。それに、持ってみるとずっしりと重いです。
「大きな鍵ですね」
「これを見落としていたのね……」
「まあ、行っていない場所だったみたいだからなあ」
これからは、何もない場所でも探索するべきですね。
カルさんに鍵を渡し、開けてもらう事にしました。ちょっと重いですし、鍵穴の場所がちょうどカルさんの目の辺りなんです。
鍵穴に差し込んだ鍵を回そうとしますが、なかなか回りません。
「錆び付いているのかしら?」
「あ! あれを!」
門の上に、文字が浮かび上がりました。
『汝、開門を望む者よ。聖なる花の実から成る油を持て』
……これは、鍵以外にも何かを探せという事でしょうか。ニカ様が無言で私の肩を叩きます。探せという事ですね。
私は再び、使い魔を下の階層に飛ばしました。
聖なる花と言われても、どれがそうなのかよくわかりません。なので、使い魔には実がなっているもの全てを集めてくるよう、指示を出しました。
おかげで次から次へと色々な実が集まっています。
「こんなに実がなってたんですね、この迷宮」
「どれが聖なる花の実なのか、判別つかないわね……」
「いっそ、全部絞って片っ端から試してみようぜ」
遠回りな気もしますが、それが一番堅実かもしれません。
一番最初の実を魔法で搾ると、何とも青臭い汁が出て来ました。試しに鍵穴に近づけると、門自体が生き物のようにガシャガシャと動きます。
それはまるで、この青臭い汁を拒絶しているかのようです。
「これは……」
「なるほど。ベーサお嬢! 次行くぞ次!」
「はい!」
門が正解を教えてくれるようですから、後はこちらの労力の問題ですね。
山のような不正解の果てに、やっと門の反応がないものが見つかりました。
その実は、二十一階の水場にあった実のようです。
「何という、意地の悪い……」
「まあまあ、ベーサ。ともかく、これで門を開けられるのだから」
「ぐ……そ、そうですね」
ちなみに、二十一階にあったという聖なる花とは、水場にある低木に咲く花だったようです。
花と実は同時に木にあったんですって。使い魔が教えてくれました。
実の絞り汁である油を差すと、鍵はすーっと回って門が開きました。……鍵穴は錆びていたのに、門の蝶番は錆びていないんですね。さすが迷宮、不思議が一杯です。
門の向こうには小道が続き、小道の両脇を生け垣が囲っていました。蛇行する小道を進むと、その先には開けた場所があります。
「これは……」
思わずといった様子のニカ様の声が響きました。目の前には、明るい光が差し込む噴水と、その周囲を囲む生け垣、生け垣をさらに囲む小道からなる小さな庭園があります。
「今度こそ、当たりだといいんだけどな」
こここそが、古い文献に記されていたという解呪の水がある場所なのでしょうか。
今までも、多くの水場で水を採取、カルさんが飲むというのを繰り返しましたけど、どれも外れでした。
ですが、この噴水は今までの水場とは違うようです。水から、かすかな力を感じます。
解呪ではないかもしれませんが、何か力を持った水ではないでしょうか。
「カルさん」
「試してみる」
カルさんは、噴水に近づくと手で水を掬って一口飲みました。すると、背中に背負っている大剣が、一人でに落ちたではありませんか。
「これは……」
「ベーサ、箱から見つかった剣を、カルに渡して」
「はい!」
あの時、大剣に拒絶されたカルさんですが、今ならあの剣を手にできるのではないでしょうか。
魔法収納から出した大剣を、カルさんの前に差し出します。彼はそれにゆっくりと手を伸ばし……手に持てました!
「これで、俺の呪いは解けたのか……」
「そうなんじゃないかしら?」
「おめでとうございます! カルさん」
「ああ……ああ……ありがとう!」
カルさんは、新しく手に入れた大剣を手に、その場でくずおれ泣き出してしまいます。でも、ニカ様も私も止めません。
どのくらい、あの大剣に呪われていたのかは知りませんが、月の光を浴びないようにするのは、それなりに大変な事だったでしょう。
カルさんから外れた大剣を見ると、何やら振るえているようです。
「カルさん、こちらの剣、どうしますか?」
「俺はいらねえ。何ならお嬢にやるよ」
えー? いりませんよ、狼になってしまう剣なんて。でも、口には出来ません。
ふと、解呪の水が溢れる噴水に目がとまりました。
「迷宮のものは、迷宮に返すべきではないでしょうか?」
「ベーサ、あなた……まさか、あの剣を噴水に放り込むつもり?」
「あ、もちろん水を採取してからですよ」
大きめの瓶を出し、噴水の水を汲んでから、魔法で呪われた方の大剣を持ち上げ、噴水に静かに浸けました。
これで誰もこの呪われた剣を手にしなくて済む。その程度の考えからだったのですが……
「あら、まあ」
「まさか、こうなるとはね」
「はは、これでもう、誰も呪われなくて済むな」
なんと、剣は噴水に浸かった途端、煙を上げて消えてしまったのです。確かに、これでもう呪われる人はいなくなりますね。呪いの大剣そのものが消えてしまったのですから。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
92
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる