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座談会っぽい何か

第一回『ええ! ここまで言っちゃうの!? 男子禁制、禁断の本音ぶっちゃけ女子会議』

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「えー、第一回『ええ! ここまで言っちゃうの!? 男子禁制、禁断の本音ぶっちゃけ女子会議』始まりまーす」
「ちょっと、もうちょっとやる気出せないの? こっちは忙しい中旦那に子供預けてまでこんな格好して来てるってのに。てかなんか凄いんだけど、このドレス。なんというか、意地悪お嬢が着そうな真っ赤なドレスなんだけど。しかも羽根飾りのついた仮面付けてるし」
「仮面は一応素性隠す為って事らしいよ。私も付けてるし」
「あんたはいいわよ普通の……でもないわね、その格好。何、男装趣味にでも目覚めた?」
「違うっての! 用意されてたの! これが!」
「青の騎士服って、ちょっとどっかの誰かを思い起こさせるわねえ。そういやあんたもあいつも瞳の色、青だもんねえ」
「にやつくな。それに色同じって言ってもグレ……じゃない、彼とは少し色味が違いますー」
「私はちょっと楽しみですわ。仮面だなんて、仮装舞踏会以来ですのよ」
「え? 仮装舞踏会とかってあるんですか?」
「ええ、ありますとも。なんなら今度開催する折には招待しましてよ?」
「え……いやあそれはなんとも……あ、そうだ、本日司会を務めますのは私、経験値だけなら世界一、人生七回目の覆面Lです。そして本日のゲスト」
「えーと何々? 根回しならお任せ、商売上手の料理上手、しかしてその実態は推定魔王ことF……って何これ? 誰が書いたのこの台本」
「さあ……私も知らないよ? でも推定魔王って言ったらもう誰だかすぐわかって……って痛たたたた!」
「あんたの正体はとっくにわかってるんだから、今そんな事言えばこういう目にあうってわかってるわよねえ、ル」
「ストップストップ! 名前出しちゃだめ!」
「んじゃあこれ書いた人間呼んできなさいよ」
「だから私も知らないんだってば! さっき控え室に置いてあるの見つけたばっかりだよ」
「ふーん……まあそういう事にしておいてあげるわよ」
「本当ですー。もう。ああ、もうお一方の方も、自己紹介の方お願いします」
「私ね。えーと……華やかな姿に隠した腹黒さは父親譲り? 王都でもっとも怒らせてはいけない女性とは私の事、仮面の女王K、だそうですわよ。あら、腹黒って、何の事かしら?」
「いや……本当にこれ誰が書いたのかしら……にしてもお……じゃなかった仮面の女王で……陛下、お似合いですね、その衣装。黒い、ちょっと変わったデザインのドレスですが」
「ほほほ。そうでしょう? この日の為にあつらえたのよ」
「どうりでエセル達の目の下に隈があった訳だわ。にしても……所々こう、金具で止めてあって、全体的にほっそりしたシルエットで、普段とはまったく違いますね」
「何かおっしゃって?」
「いえ別に」
「ねえ、ちょっと」
「何?」
「あんた、あの仮面の女王とかと知り合いなの?」
「え? うんそう。あ、失礼な態度とっちゃだめよ? 身分高いんだから」
「ここでは無礼講だそうですわね?」
「……聞こえてましたでしょうか?」
「ええ、もちろん」
「すんごい地獄耳ね」
「だからそういう事言うなっての!」
「さあ、早く始めましょう! ところで参加者はこの三人だけなんですの?」
「ええまあ(他は体よく逃げました、とは言えませんて)」
「座談会とするには少ないんじゃない?」
「多分ね、あんたら二人だけで十分って上の人は考えたんだよ」
「「上の人って?」」
「上の人」

「さて、じゃあ始めましょうか。とりあえず最初のお題は『勇者』だって」
「それって私らよりあんたの方が知ってるんじゃないの?」
「そうですわねえ」
「いや、知ってる知らない関係なく、それについて語ってくれって事でしょ!」
「ああ、なるほど」
「そういう事ですのね。でも本当に私、勇者様の事はあまり存じ上げませんのよ?」
「え? そうなんですか?」
「ええ。基本王宮での夜会等でお会いする事しかありませんでしたもの。おに……こほん、王子殿下ならばまた違うかも知れませんけど」
「へ? なんで王子様?」
「王子殿下は勇者一行と一緒に旅に出てたのよ」
「へー。それは知らなかったわー」
「公表はされていませんものね」
「……って事はもしかしなくても仮面の女王って」
「ストップ! ここでの素性の詮索はご遠慮ください、って書いてあるわよ!」
「ちっ」
「フェリ……じゃなかったF、舌打ちなんて行儀悪いわよ」
「はーいはいっと。ああ、勇者について、だったわよね。もちろん今代のでいいのよね?」
「別に先代でもその前でも構わないけど?」
「そんな古い人達知ってるわけないでしょ? 今代のグレ、じゃなかった勇者ねえ。正直あれが勇者になるとは本気で信じてなかったわよ」
「と言うと?」
「だって考えてもご覧なさいよ、あの他人に無関心、そのくせ誰かさんの事だけは粘着する、はっきり言っちゃえば顔だけ男よ? まあ腕前は確かだけど、如何せんあの性格だからね」
「否定は出来ないわねー」
「まあ、そうなんですのね」
「それが世界を救う勇者とか言われてもね。最初何の間違いかと思ったわー。まあどっかのお馬鹿さん連中は浮かれてたけど」
「え? そうなの?」
「あんたあの頃大変だったもんね。蹴散らしても蹴散らしても寄ってくる女共がわーきゃーうるさいったら。たまの帰省でぶち当たった私ですらそう思うんだもん、他の連中はもっと腹に据えかねてたんじゃないかしら」
「あんた本当にしょっちゅう実家帰ってるのね」
「それが何か? 近いんだしいいじゃない。あ、で勇者の事だったわよね。正直あいつの事だから、拒否するんじゃないかって思ってたんだけどねー」
「え? それは無理でしょう」
「無理を通すのが奴でしょうが」
「……何だろう、否定しきれない自分がいる」
「あんた残して旅に出るなんて、本来なら絶対にやらない奴だから。引き受けたって聞いた時には何か悪いものにでもあたったのかと思ったわよ」
「聞けば聞くほど、勇者様に愛されていますのね。ちょっぴりうらやましですわ」
「え? や、その」
「ああ、そういや帰ってから速攻あんたの所に行ったんだっけ」
「お熱い事ですわね~」
「その後結局あんたの部屋に転がり込んで今に至るんでしょ?」
「んまあ! それって事実婚って事なのかしら!?」
「いやいやいや、違います! 違いますから!」
「照れなくてもよろしくてよ。仲が良いのはいい事ですわ。その調子でしっかり勇者様を捕まえて離さないようにしてちょうだい」
「う、はい」
「勇者様は国の政治に関わる事はありませんけど、やはりその存在そのものが効力を発揮しますからね。我が国にいてもらわなくては困るんですの」
「……ねえ、やっぱり仮面の女王って」
「詮索禁止」
「これからは他国との関わりもまた形が変わってきますからね。そうした時に世界を救った英雄がいる国というのは、やはり強みになりますもの」
「そう言うの全面に押し出してしまっていいんですか?」
「ほほほ、外交は騙し会いのようなものでしてよ。その際に使えるものは何でも使うのは当たり前の事ではなくて?」
「はあ、なるほど」
「そうよねー。交渉ごとって、結構駆け引き大事よ?」
「あら、わかってらっしゃるわね」
「ええまあ、こっちはもっと小さい事ですけどね。商工会でこっちの意見相手にのませるとか、仕入れの値段とか」
「私のやることもあまり変わりませんわよ? ちょっと数が多かったりする程度で」
「まあ対人って所は同じかもね」
「え……それでいいんだ」
「「いいんです」」
「はい」

「で? 仮面の女王の勇者に関する事って?」
「そうですわねえ。勇者様を国に引き留めておく為に、結婚を申し込もうと思った事がある程度でしょうか」
「結婚! あのグレ、勇者と!? なんて冒険する人なのかしら……」
「勇者との結婚は冒険かい」
「あんたは違うわよ。そのままおとなしく嫁行ってね。でないと荒れた勇者の八つ当たりがこっちにまで来そうだから」
「ちょっと待て! 散々嫁行け言ったのはそういう意味だったの!?」
「そうよう。あんた自身だってまんざらじゃないでしょうが。言っておくけどグレアム逃したらあんた本当に嫁行きそびれるわよ」
「そ、そんなに何回も言わなくてもいいじゃない! それにまかり間違えば他の人と結婚って道だってあるかも知れないじゃん!」
「もしそうなったとしても、幸せになれる自信、ある?」
「う……」
「一応あんた達見てきた身だから言うのよ。まあ八つ当たりも勘弁って部分もあるけど」
「私の方からも言っておきますわね。絶対に勇者様と結婚してもらいますわよ。我が国に勇者様を引き留めておく為にも」
「逃げ場はないからね」
「楽しみですわね、二人の結婚式」
「仮面の女王様は勇者と結婚する気だったんでしょう? いいんですか?」
「先程も申しましたけど、国に引き留めておく手段の一つとしてそう思っていただけですの。勇者様個人に思う所はありませんわ」
「おおー。はっきり言いますねー。言っちゃあなんだけど、あれ、故郷では結構人気高かったんですよ?」
「王宮でも貴婦人方に大人気でしたわ。今もですわね。中には思い違いをした者もいたようですけど、今は一掃されましたから、安心なさいな」
「一掃?」
「ええ」
「気のせいかしら? あの笑顔がすんごいくせ者に感じるんだけど。目元は仮面で覆ってるから、わからないけどさ」
「うん、あんたのそれは気のせいじゃあないと私も思う」
「どうしたのかしら? 二人とも」
「「何でもないです」」
「この先も不心得者が出るかも知れませんけど、その度に排除していけば、他の者達も学習するでしょう」
「「そ、そうですねえ」」

「じゃあ最後はやっぱり真打ちって事で、あんたにとっての勇者は?」
「え? 私?」
「ああ、私も知りたいですわ」
「うーん、私にとっても勇者かあ……。ちょっと前まではこの世で一番信用出来ない存在だったかな」
「へ?」
「あら」
「ああ、今は違いますけど。これまでの勇者って、どうしても信用できなかったから」
「これまでって、先代だって私達が生まれるうんと前の人でしょうが」
「ははは、まあそうだね」
「とりあえずそれは置いておいて、どうして信用出来ない存在と思っていたんですの?」
「……誰一人約束を守ってくれなかったからです」
「本当にまるで見てきたように言うわねー」
「もう、いいでしょそこは。流す流す」
「約束って、どんな約束なのかしら」
「それも言わないといけないんですか?」
「「ぜひ」」
「……戻ってくるって言って、結局戻ってこなかったんです。しかも一人目はお姫様と結婚して二人目は途中で出会った聖女と深い仲になり、三人目にいたっては同行した女神官を孕ませて結婚ですよ」
「まあ」
「それ本当?」
「ここだけの話にしてね。多分どこにも出ていない話だから」
「それで、どうして今は違うんですの?」
「……最初が違うんだって、わかったんです。だから、もういいやって」
「「最初が違う?」」
「それについては話せませんからね。で、今代の勇者は約束守って戻って来たし、信用はしようかな、って」
「だから言ったじゃない。草の根分けても探し出すって。実際にはあんたが王都にいるってすぐわかったんだってね」
「ああ、それも裏があったけどねー。そしてそれも言えないからねー」
「ちぇー」
「じゃあ結果として、勇者様との結婚には何の支障もないと捉えていいんですのね?」
「あー、いや、それはちょっと」
「何、まだ何かあるの?」
「いや、まあ、あると言えばあるし、ないと言えばないというか」
「「はっきりしなさい!」」
「はい! 現時点で結婚はないと思われます!」
「「理由は!?」」
「まだ言えません!」
「ちょっと、そんなので納得出来ると思ってんの!?」
「そうですわ! 困りますわよ。勇者様を我が国に引き留めるよう、あなたにもちゃんと言い渡してありますわよね!?」
「事情が変わりました! それについては……済みません」
「……ねえ、これって題名が『第一回ええ! ここまで言っちゃうの!? 男子禁制、禁断の本音ぶっちゃけ女子会議』だったわよね?」
「それが何か?」
「そうですわね。そんな題名がついているんですもの、余所では言えない事も、ここでは無礼講と言う事で言えますわよね?」
「へ?」
「さあさあ、胸のうちをここでぶちまけてしまいなさいって」
「私達が全て聞いて差し上げますわ」
「いや、なんかそれは違うでしょ」
「「違わない違わない」」
「こんな時ばっかり息あわさないでー」
「泣いても容赦しないわよ。あんたの涙なんて見飽きるくらい見てるんだから」
「私はまだ見た事ありませんけど、そうね、あなたの涙なら見てもいいかもしれないわ」
「え? それどういう……」
「「さあさあ、それはいいから言ってしまいなさい」」
「う……その、全て終わったら、元いた場所に帰るからです」
「元いた場所って故郷に帰るって事?」

「違うけど違わない」
「どういう意味ですの?」
「私自身が生まれたのはここでも、私の魂が生まれたのはこことは違う世界なんだそうです。で、あれこれありまして、勇者との間に恋が芽生えるのはその違う世界の存在だから、というのが関わってます。ぶっちゃけ私の中から勇者の力を抜きだして、彼らに与えてるそうです、女神が」
「まあ」
「本当に?」
「信じなくていいよ。私自身信じたくない内容だし。で、その力と私の魂は引き合う性質を持っているんだって。もうわかるよね?」
「つまり勇者があんたと恋仲になったのは、その力と魂の引き合いのせいだ、と?」
「そういうこと。で、全てが終わったら私はその魂の生まれた世界に帰る事にしたの」
「「どうして?」」
「どうしてって……元々いるべき世界だから」
「でもあんたはここで生まれてここで育ったじゃないの」
「そうですわ。既に我が国の国民ですのよ。それを勝手に元の世界に帰るなどと。勇者様だって悲しまれるでしょう」
「……それだって、持って生まれた力のせいだもの。それがなくなれば感情だって消えるかも知れないじゃない。ううん、ちょっと封印されただけで忘れたわよ。その程度なんだから」
「いまいちよくわからないけど、他人はどうあれグレアムに関しちゃあんたの読みは甘いのよ」
「ちょ、名前出てる出てる」
「もういいわよ。どうせバレてるんだから。何度も言うけどね、あいつの執着を甘く見るんじゃないわよ。あんたがその、別の世界? とやらに行ったら絶対あいつもそっちに行くわよ。賭けてもいいわ」
「いや、それ無理だから」
「無理を押して道理をひっこませるのが奴だっての!」
「思うのですけど、持って生まれた力とやらは、そんなに簡単に消えるものなのかしら?」
「え? でも女神がそんなような事言って」
「本当に、勇者様から力を抜き去ると仰ったんですのね?」
「ちょっと違う、かも。でも、魔王を消滅させられれば、この先勇者の力を持って生まれてくる者はいなくなるって」
「この先なんてどうでもいいのよ。今はあんたと奴の事!」
「もしあなたが元の世界とやらに行き、勇者様がこの世界に残されたら、勇者様は世を儚まれるでしょうね」
「え?」
「あー、そっちの世界とやらに行けなかったら、確実その力ふるって世界壊しかねないね」
「ええ?」
「大体何故元いた世界だからと帰らなくてはなりませんの? このままこの世界にいるわけにはいかない理由でもありますか?」
「そ、れは」
「大方この思いは本物じゃなかったんだわー、とか思ってるんでしょ? 持って生まれた力が見せた幻想なのよーとか」
「ぐ」
「あのね、大体の恋愛なんてもんは、思い込みから始まるもんなのよ! その後それを本物にしていくのは、当人達の努力次第なの! あんたが奴の事嫌いで、振っても振ってもしつこくまとわりつく、なんていうんなら私もその別の世界に行った方がいいわーってなるけど、そうじゃないでしょ」
「勇者様の力が生まれついてのもので、それを一生持ち続けるのであれば、何も悩む必要などありませんでしょ? まさしく女神様によって結ばれた運命の相手ではありませんか」
「運命の相手!? いや、さすがにそこまでは」
「お黙りなさい。いいですか? この広い世界で本当に一生を添い遂げられる相手と出会える事、それ自体が幸運と思いなさい。しかも女神様の保証付きのようなものではありませんか。これを幸運と言わずしてなんと言うのです」
「いや、えーと」
「あんまり深く考えない方がいいんじゃない? いいじゃない、生まれた時から決まった相手でした、で。あいつの事だから、あんたの事一生大事にしてくれるわよ。心配しなくていいって」
「いや、うーん」
「何、まだ何か心配ごとがあるの?」
「いや、これ、座談会だったよね? いいの? こんな内容になっちゃって」
「……いいんじゃない?」
「……構わないと思いますわ」
「いいのかなあ……あ、いけない、もうこんな時間。えー、こんなぐだぐだですが、これにて『第一回ええ! ここまで言っちゃうの!? 男子禁制、禁断の本音ぶっちゃけ女子会議』を終了したいと思います」
「お疲れー」
「楽しかったですわ。またこういった機会があるといいのですけど」
「今度は男性陣でやらせて、それを覗いてみたいね」
「あら、いい案ですわね。早速帰ったら企画を練らなくては」
「え? まさかこれ、王、じゃなかった仮面の女王様の発案だったんですか!?」
「あら、それは秘密、ですわよ」


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