今度こそ幸せになります! 拍手の中身

斎木リコ

文字の大きさ
31 / 33
座談会っぽい何か

おじさん混じりの男会議

しおりを挟む
「さて諸君! 準備はいいか?」
「待て。一体何の準備だ何の」
「細かい事を言うなレジナルド。お前公爵のくせにちっちゃいこと気にしすぎなんだよ」
「小さい事じゃないだろう!! 何なんだこの集まりは! 確か今日は新しく設立する学校の問題を話し合うと聞いているぞ」
「ああ、あれな。あれもやるがまずはこっちだ!」
「だからこっちってのは」
「閣下。これ以上陛下に詰め寄っても無駄だと思いますよ」
「ゴードン。いや、しかしな」
「いつぞやと同じです。相当召されてますよ、多分」
「……酒か」
「はい」
「公爵もゴードンも、そこで頭抱えるくらいならいい加減あの人止めてもらいたいんだが」
「その、私も努力はしたんだが……済まない公爵、ゴードン」
「ラッセル殿下が謝られる事はありませんよ」
「そうです殿下。お顔をお上げください」
「二人ともいい加減に」
「こら──!! お前ら──!! 俺を無視するな!!」
「やかましい酔っ払いだな」
「いっそ酔いつぶしますか?」
「それは明日に響くから却下だな。ぜひそうしたいのだが」
「うわははは。んじゃあそろそろ始めるぞー。男会議第二弾だ!」
「何だ? その男会議というのは」
「前回の酒盛りの名称だそうです。会議とは言っていますが、内容はお察しください」
「ただの飲み会にご大層に会議などと名付けた訳か。まったく。大体どこからそのおかしな名称を引っ張ってきたんだ」
「王女殿下が先日参加された女子会議なるものの向こうを張ると言う事で、男だけだから男会議だそうですよ」
「王女って、カレン姫か? 一体何やらかしたんだ? あの姫君は」
「さあ、詳しい内容までは。ただ勇者殿の婚約者であるルイザ嬢も参加したと聞いています」
「ほう、それでこちらも勇者殿がいると言う訳か。済まんな、勇者殿。このようなバカ騒ぎに付き合わせてしまって。あれに成り代わって謝罪するよ」
「いえ……それよりいい加減帰して欲しいのですが」
「そうしたいのはやまやまなんだが……」
「あのノリの陛下を躱すのは至難の業でしょうね」
「あいつは酔った時の記憶もほぼ綺麗に残しているからな。この場をしのげたとしても、忘れた頃にちくちくやり返しかねん。ある意味厄介な奴だ」
「ほら! ラッセルお前も飲め!」
「ええ? うわっぶ!」
「おい、何やってる!? お前自分の息子殺す気か!!」
「大丈夫ですか!? 殿下」
「これ、相当度数の高い酒だよな。確か殿下は」
「酒には弱い方なのに。殿下? 殿下! 気をしっかり持ってください!」

「んー? なんだ、ラッセルはもうつぶれたのかー?」
「お前は少し黙ってろ! 殿下の容態は?」
「勇者殿に治癒術を使用してもらいました」
「もうこのまま寝かせておいた方がいいかと」
「そうだな……まったく、あの酔っ払いをどうしてやろうか」
「今飲んでらっしゃる器の中身は水にでも変えておきましょうか」
「そうだな。気を引いておくから、入れ替えを頼めるか? ゴードン」
「お任せを」
「勇者殿には申し訳ないが、気を引くのを手伝っていただきたい」
「承知しました」
「おらー。そろそろ始めるぞー」
「やかましい、この酔っ払いめ。で? 一体何を話し合うというんだ」
「んふふー、実はな! カレンが 第二回目の女子会議に参加したそうなのだ」
「ほう。で?」
「だから俺たちも男会議の二回目をだな!」
「で?」
「いや、だからな?」
「やるんだろう? 会議とやらを。進めても構わんぞ」
「これ、どっちが立場上なんだ? ゴードン」
「この場に限っては閣下の方でしょうね。昔から酔っ払った陛下を諫められるのは閣下だけだと聞いていますから」
「もうそのまま公爵に引き取ってもらいたいものだ」
「さすがにそれは閣下の負担が大きいでしょう」
「そこ! 男二人で何やっとる!?」
「お前がバカな事しでかすから巻き添え食らってるんだろうが。いいからとっとと進めろ」
「お、おう。んーとな。カレンによると、女子会議の方は服装に関する事をあれこれ話したそうだぞ」
「「「服装?」」」
「ん。実際リンジーが何やら変わった服を着たとか何だとか」
「「リンジーが?」」
「リンジーと言うとあの神官の子か。変わったというと、一体何を着たんだ?」
「ふふふ。何やら裾の短い服を着たそうな」
「「裾が短い……」」
「何でも勇者殿の婚約者も後で着るとか言っていたと言うじゃないか。拝めたのか? その裾の短い服とやらは」
「裾が短い……裾が短い……という事は足が……」
「勇者殿? 大丈夫ですか? それにしてもよくリンジーがそのような服を着ましたね。法衣以外は拒否するかと思ったのですが」
「その場のノリとかカレンは言っていたがなあ」
「ノリ、ですか……」
「足……」

「それはそうと、お前その後はどうなんだ?」
「その後、と言いますと?」
「女だ女! 勇者殿にだって婚約者がいるんだぞ? 何でお前にはいないんだ」
「そう言われましても……」
「確かにな。選り好みの最中か?」
「閣下まで」
「ゴードンの好みは首筋の綺麗な女性だったな」
「勇者殿……あなたもですか?」
「さあさあ! 白状するのだ!」
「はあ。白状も何も、今の所誰もいませんよ」
「ほう? どこだかの伯爵令嬢と噂になっていたと思ったが?」
「単なる噂です」
「討伐の際に立ち寄った国で王女に言い寄られたと聞いたが?」
「勇者殿の間違いでしょう。私よりは彼の方が凄かったですよ、色々と」
「ゴードン……」
「何か?」

「私の事より、あの後きちんと王妃様には謝罪なさったんですか?」
「ブフッ!!」
「うわ!! 汚いな!」
「吹くような事があったんですね?」
「い、いや、な、何もないぞ!」
「嘘吐け。謝罪に行ったら酒が抜けるまで近寄るなと怒られたんだよ」
「「ああ」」
「ああ、って何だ、ああって。二人して! お前、女は怒らせると怖いんだぞ!?」
「それは当然でしょう」
「ルイザも怖いし母さんも怒らせると怖い」
「大体女性を怒らせる男の方が悪い」
「な……なんだよ、お前ら、みんなして。お前らは女を怒らせた事ないのか?」
「あってたまるか」
「怒らせないように対処しますので」
「怒らせる事はあるけど大体許してもらえる。謝るし」
「……何で俺だけ」
「お前以前にも酔っ払って彼女の部屋に乱入しただろう。あの後彼女は熱出したそうじゃないか。もう少し自分の妻はいたわってやれ」
「おま! 何でそんな事知ってるんだ!?」
「うちの情報網を甘く見るな」
「陛下……そんな事なさったんですか?」
「怒られて当然でしょう」
「夫婦なんだぞ!? ちょっとくらいいいだろう!? ここ最近忙しくて顔も見られなかったし!」
「それはお前の都合であって彼女の都合ではないだろうが」
「少自重なさった方がよろしいかと」
「いいなあ……俺も早く結婚したい……」

「それにしても、閣下は王妃様ともお親しいんですね」
「ん? まあ私の妻が王妃様とは仲が良かったからな。以前同じ神殿で学んだ事があるそうだ」
「ああ。そういえば閣下の奥方は王妃様の故国の伯爵家の出だとか」
「まあな」
「そうそう! 妃について一緒に来た侍女の伯爵令嬢に一目惚れしてさあ! 地位を利用してぱくっといっちゃったんだよなあ!」
「いい加減にせんか!!」
「ごふっ!!」
「……よろしいんですか? 閣下」
「構わん。覚えていようとも、いや、かえって覚えていればその事を逆手にとってこちらからねちねちといじめてくれる」
「これが一国の国王とその側近とか、どうなってるんだこの国」
「まったくだな。勇者殿には毎度お恥ずかしい場面ばかり見せるな」
「いえ……もう慣れました」
「いや、本当に済まん……」
「さて、陛下は静かになりましたし、殿下も眠ってらっしゃいますから、このままお開きにしますか?」
「そうだな。うるさいのが目を覚ます前に退散するか」
「その前に、公爵、先程の話、本当ですか?」
「ん? 先程の話?」
「奥方とのなれそめ話です」
「それを今ここで言えと?」
「そういえば私も初耳です。陛下の方はしばらく大丈夫そうですし、いかがですか? でないと私も勇者殿も先程陛下が仰った内容で覚えてしまいかねません」
「お前……まあいい。妻が王妃様の侍女としてこの国に来たのは本当の事だ。当時私には親の決めた許嫁がいたにはいたんだがな。相手も私の事を嫌い抜いていたから、ごく自然に婚約は解消状態だったんだ」
「それで奥方を権力尽くで」
「違う! 元々あまり丈夫ではなくてな。それを理由に一生結婚する気はなかったそうだ。だから侍女として自国の王女の嫁ぎ先にまで渡ってきたんだと笑っていたよ」
「確か奥方はダイアン殿をお産みになった時に」
「産後の肥立ちが悪くてな。それでも私に一人娘を残してくれた。それだけで十分だ」
「肝心な事言ってませんよ公爵。口説いたんですか? それとも押し倒したんですか?」
「……」
「え? 閣下、まさか」
「いや、その……何と言えばいいのか」
「口説きながら押し倒したとか!?」
「押し倒して口説いたとか!?」
「いい加減そこから離れろお前達! その、お、押し倒されたんだ」
「「はあ!?」」
「確かに妻は結婚する気もなく侍女となった人だったんだが、体の弱い王女、今の王妃様だな、が結婚したのだから、自分も出来るかも知れない、と希望を持ったんだそうだ。で、私が彼女に一目惚れして口説こうとした途端」
「押し倒された、と」
「その場合相手は閣下でなくとも良かったとか?」
「ばかを言うな! 彼女も私に惚れてくれたんだよ! で、まあその。即日話をまとめて、父は役に立たないから祖父に話を通して彼女の家に結婚を申し込んで、一月後には婚礼を挙げていたな」
「早!」
「何か急ぐ訳でもあったんですか?」
「思い立ったらどちらも間を置くのを嫌がっただけだよ。その頃私の元許嫁が狙っていた男に逃げられて、この際だからと私に復縁を迫っていた事もあったし」
「なるほど」
「そういう事ですか」
「で、婚礼から二年の後にダイアンが生まれて、妻はそのまま帰らぬ人になった」
「実質結婚生活は二年ですか」
「まあな。でも何よりも大事な二年だった」
「ちなみに奥方はどんな方だったんですか?」
「ん? 丈夫ではなかったが、芯の強い人だったよ。ただこれと思い込むと突っ走る癖があってな……その辺りはダイアンが継いでしまったらしい」
「「ああ」」
「顔立ちもダイアンは母親似でな。最近は私でも驚く程似たような仕草をする事がある。あの子の中に彼女は生きているんだなあ、と実感させられるよ」
「それで再婚もなさらないんですね」
「公爵ほどならいくらでも話はあるでしょうしね」
「うちは元々一途な家系なんだよ。祖父も父も愛人一人持たなかった。もちろん私もな。さて、そろそろ本当にお開きにしようか」
「そうですね」
「勇者殿はこれから城外へ出るのか? 確か今住んでいるのは商業区だったな」
「いえ、今日は王女殿下の所にルイザが呼ばれているので、このまま城に留まる事になるかと」
「ああ……そうか。まったくバーナビーのやつ。娘まで使うか」
「とにかくこれで彼女の元に帰る事が出来ますから、もういいです」
「私も今日はこれで」
「ああ、二人ともご苦労だったな。まったく、太平な顔で寝やがって。今度こんなばか騒ぎ仕掛けたら、お前の恥ずかしい話を二人に暴露するからな」


※男会議第二段。半分以上公爵に乗っ取られた形です。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

今度こそ幸せになります! 小話集

斎木リコ
ファンタジー
『今度こそ幸せになります!』の小話集です。

もしかして寝てる間にざまぁしました?

ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。 内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。 しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。 私、寝てる間に何かしました?

偽りの婚姻

迷い人
ファンタジー
ルーペンス国とその南国に位置する国々との長きに渡る戦争が終わりをつげ、終戦協定が結ばれた祝いの席。 終戦の祝賀会の場で『パーシヴァル・フォン・ヘルムート伯爵』は、10年前に結婚して以来1度も会話をしていない妻『シヴィル』を、祝賀会の会場で探していた。 夫が多大な功績をたてた場で、祝わぬ妻などいるはずがない。 パーシヴァルは妻を探す。 妻の実家から受けた援助を返済し、離婚を申し立てるために。 だが、妻と思っていた相手との間に、婚姻の事実はなかった。 婚姻の事実がないのなら、借金を返す相手がいないのなら、自由になればいいという者もいるが、パーシヴァルは妻と思っていた女性シヴィルを探しそして思いを伝えようとしたのだが……

婚約破棄を目撃したら国家運営が破綻しました

ダイスケ
ファンタジー
「もう遅い」テンプレが流行っているので書いてみました。 王子の婚約破棄と醜聞を目撃した魔術師ビギナは王国から追放されてしまいます。 しかし王国首脳陣も本人も自覚はなかったのですが、彼女は王国の国家運営を左右する存在であったのです。

【完結】婚約者と仕事を失いましたが、すべて隣国でバージョンアップするようです。

鋼雅 暁
ファンタジー
聖女として働いていたアリサ。ある日突然、王子から婚約破棄を告げられる。 さらに、偽聖女と決めつけられる始末。 しかし、これ幸いと王都を出たアリサは辺境の地でのんびり暮らすことに。しかしアリサは自覚のない「魔力の塊」であったらしく、それに気付かずアリサを放り出した王国は傾き、アリサの魔力に気付いた隣国は皇太子を派遣し……捨てる国あれば拾う国あり!? 他サイトにも重複掲載中です。

(完結)嘘つき聖女と呼ばれて

青空一夏
ファンタジー
私、アータムは夢のなかで女神様から祝福を受けたが妹のアスペンも受けたと言う。 両親はアスペンを聖女様だと決めつけて、私を無視した。 妹は私を引き立て役に使うと言い出し両親も賛成して…… ゆるふわ設定ご都合主義です。

【完結】私の結婚支度金で借金を支払うそうですけど…?

まりぃべる
ファンタジー
私の両親は典型的貴族。見栄っ張り。 うちは伯爵領を賜っているけれど、借金がたまりにたまって…。その日暮らしていけるのが不思議な位。 私、マーガレットは、今年16歳。 この度、結婚の申し込みが舞い込みました。 私の結婚支度金でたまった借金を返すってウキウキしながら言うけれど…。 支度、はしなくてよろしいのでしょうか。 ☆世界観は、小説の中での世界観となっています。現実とは違う所もありますので、よろしくお願いします。

薄幸ヒロインが倍返しの指輪を手に入れました

佐崎咲
ファンタジー
義母と義妹に虐げられてきた伯爵家の長女スフィーナ。 ある日、亡くなった実母の遺品である指輪を見つけた。 それからというもの、義母にお茶をぶちまけられたら、今度は倍量のスープが義母に浴びせられる。 義妹に食事をとられると、義妹は強い空腹を感じ食べても満足できなくなる、というような倍返しが起きた。 指輪が入れられていた木箱には、実母が書いた紙きれが共に入っていた。 どうやら母は異世界から転移してきたものらしい。 異世界でも強く生きていけるようにと、女神の加護が宿った指輪を賜ったというのだ。 かくしてスフィーナは義母と義妹に意図せず倍返ししつつ、やがて母の死の真相と、父の長い間をかけた企みを知っていく。 (※黒幕については推理的な要素はありませんと小声で言っておきます)

処理中です...