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 「えー、それでは、勉強会を始めます」

 彼女は突然椅子から立ち上がり、高々とそう宣言した。僕たち以外誰もいない教室に、その声は響いた。
 夏休みの時とは少し雰囲気が違く、特に清水の纏う空気が違かった。

 「涼、この問題はどうやって解くんだ?」

 「ねぇ涼、この問題どう解くの?」

 僕は二人の勉強に付き合うので精一杯であまり自分の勉強はできなかった。しかし、やはり人に教えている時に自分が理解していないと教えられないため、ちょうど良い復習になるし、ここは自分もあやふやだな、という場所がすぐに分かるから一石二鳥だ。

 集中して勉強をしていると、時間はあっという間に過ぎた。次の日の放課後、また三人で勉強会を行う。こんな日々が続いた。
 ある日、僕が清水に数学を教えている時、頭上から声がした。

 「お、珍しく清水がちゃんと勉強してる」

 僕は顔を上げて声の主を見ると、やはり悠だった。悠は近くの椅子を引き寄せて僕の隣に座った。そして、ふざけた口調で言う。

 「滝沢せんせ、二人の進歩はどうですか?」

 「うーん…僕は、清水がものすごく真面目に勉強しているのが意外すぎて驚いています。そして、二人とも大分理解しているようにみえるので今回のテストは良い点数をとれるだろうと期待しています」

 僕も悠の冗談に乗って先生のように言葉を返すと、悠も彼女も、清水も笑った。

 「じゃあ俺も涼に教えてもらおっかな?」

 「ダメだよ。悠も頭いいんだから先生にならないと」

 「なんかおもしろそうだからいいよー」

 そして悠も二人に勉強を教える事になった。悠が来てからは僕の忙しさも少し軽減された。少ししてから、ふと悠が疑問を口にした。

 「そういえば、なんで清水はこんなに必死になって勉強してるんだ?」

 「冬休みのため」

 清水が即答する。

 「冬休み?なんかやりたいことがあるの?」

 「そう。桜木のため…」

 「桜木?」

 悠が不思議そうに首を傾げたのを見て、僕はあぁと納得した。悠は彼女が引っ越す事を知らないのだ。

 「涼花は、春休みでまた引っ越しちゃうんだよ。だから、僕たちで涼花がやりたい事を冬休みのうちにたくさんやろうってなったんだ」

 「え、桜木引っ越しちゃうの!?来たばっかりなのに?」

 悠は驚いたように目を見開く。彼女はそんな悠を見て少し微笑んだ。

 「そうなの。いろいろ事情があってね。でも、定期的にはここに来たいなーって思ってるよ」

 「そっか…どんまい、清水」

 「え!?なんで俺にどんまい!?」

 なぜか清水がいたく動揺する。僕は何が何やらさっぱり分からなかったが、とりあえず彼女に教えてと頼まれた難しい問題を解いた。
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