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2章
102:迫られる選択
しおりを挟む運命とは時に残酷だ
どうしようもなくて
目を逸らしたり
諦めたり
逃げ出してしまうこともあるかもしれない
けれど
その運命に立ち向かう者達がいる
知恵を絞り、己の全てを出し切り、時には運に全てを委ねることもあるかもしれない
運命に挑んだ全ての者が報われる訳ではないけれど、その者達の物語は人々に語り継がれ
賞賛を受け、尊敬される
それ程までに、運命と対峙し、乗り越える事は難しい事なのだ
~~~~~~
結構な大技だったみたいだけどソウマが間に合ったみたいでよかった。二手に別れたのは正解だったね
指揮官っぽい人も消した。あの嫌な感じがあったから【魂葬】使ったけど、悪魔化はしなかった
そして、残ったのは目の前の1人
武器は斧、全身をスケイルメイルで固めている。顔はヘルムの為、見えない
戦っていてわかる。この人は、強い
豪快でいて、しっかりとコントロールされている斧使い。凄まじいパワー
簡単に倒せるような敵じゃない
だが感じる違和感
敵、のはずだ
だが、俺はこの人に会ったことがあるような気がする。感じる既視感、どこか覚えのある気配
確かめるか
相手が魔法を使ってくる様子はない
武器を打ち合い、弾かれた瞬間に風魔法で空気の塊を頭部へとぶつける
カランッ カラン
「なっ……なんで」
ヘルムの下にあったのは知った顔、けれどその表情はまるで見たことのないもの
いや、ある場面の人々に見られるものだ。目の前の現実に絶望し、生きる事を諦めた人の
だが、この人にそんなのは似合わない
強大な敵に立ち向かった、勇気ある人
いずれ共に冒険し、共に戦うことを約束した
昨日、新たなランクSS冒険者の候補に挙がったと聞いたのに。なんで此処にいて、魔王軍のような事をしているのか
「マルドロさん……」
ヘルムが吹き飛んだだけでダメージ自体は殆ど無いようだ。体勢を整え、斧を構え直し突撃してきた。繰り出される斧の連撃
思いもよらなかった事実に少し動揺しながらも、攻撃を両手に持つ剣で弾き、逸らし、反撃を繰り出す
俺の反撃も弾かれたり逸らされる
互いに攻撃を繰り出し、防ぐ
ふと、視界にある物が映った
ヘルムが取れて見えるようになった首元。そこには禍々しい力を放つ黒い首輪
隷属の首輪
邪神によって造られた最悪の産物の1つ。魔王軍が敵対する者達を奴隷とする時に用いる物だ。これの効果は邪神が造っただけあって強力だ。レベルが高ければ効かないということもあるそうだが、隷属の首輪には等級があり、等級が上がればレベルが高くとも隷属させられてしまうらしい
だが、あれさえどうにかしてしまえばマルドロさんを助けられる
けれど、俺には無効化する手段がない。隷属の首輪は基本的に光系統の属性魔法を使って無効化や破壊が可能だった筈だ。しかし、等級が上がるのに比例して光系統魔法の要求レベルが上がる
俺の感覚でしかないが、あの首輪の等級はかなり上。俺の【聖光魔法lv7】では足りない気がする
成功する可能性がない訳ではない
けれど、できない気がするのだ
こういう感覚は大体外れる事はない
ならば他の方法は無いのか。そういった事に有効なスキルは持っていないし、物理的にあの首輪を破壊しても意味は無いと本で読んだ
ならば、どうすればいい
一進一退の攻防の最中で思考を巡らせる
「殺せ」
短く、だが、いくつもの思いが篭った言葉が聞こえた
マルドロさんの顔を見る
表情に変化は無かった。空耳かと思ったが言葉が続けられた
「俺を、殺してくれ」
それは、この人から聞きたくなかった言葉
「マルドロさん、逃げるのか。守るべき人を残して。今から俺が助ける。あんたはあの2人の所に帰るべきだ」
この人には妻も娘も居る。いくら隷属させられ、意にそぐわない事をさせられ、罪を背負っても生きなければならない筈だ
俺はこの人に生きて欲しかったからこそ先程のように声をかけた
しかし、返答は弱々しいものだった
「2人は殺された」
「!」
殺された……?
「2人を人質に取られ、俺が隷属させられて直ぐだ。何もすることが出来なかった俺の前で犯し、壊し、殺された」
俺は2人が生きているものだと決めつけていた。だが、考えてみれば当然じゃないか。マルドロさんクラスの人が隷属されるなんて余程のことがない限りあり得ない。何かが有ったのだと簡単に思いつくじゃないか
ポタ
雫が地面に落ちた
「俺にはもう、何もないんだ。守るべき者も、帰る場所も」
「……」
言葉が出なかった
俺はどうすればいいんだ
「俺は罪を重ねている。隷属させられてから何人も殺してきた。もうこれ以上誰も殺したくないんだ。だがらクウガ、俺を殺してくれ」
なんで、生きる事を諦めちゃうんだよ
「泣きながらそんな事を言わないでくれよ。一緒に戦おうって、冒険しようって誘ってくれたのはあんたじゃないか。困ったことがあれば力を貸してくれるってそう言ってくれたじゃないか!」
気づいたらそう叫んでいた
この人は共に苦難を乗り越えた、戦友
俺の、守るべき者の1人なんだ
マルドロさんの表情が悲しげなものになる
「すまんな、もう俺にはその資格がないんだよ。復讐する気も起きないんだ。それに、俺はお前になら殺されてもいい。他の知らない奴なんかに殺されるより、お前に殺してほしいんだよ」
「生きていれば、新しい出会いや、いい事だって」
「お前になら分かるだろう。絶対に守ると誓った、誰よりも世界よりも大切な人を失ったんだ。あいつら以上の奴なんてもう、俺には考えられないんだよ」
何も言い返せない。もし、俺がラキアやソウマ、リンガ、他のみんなを守れなかった時、生きようとするだろうか。もし、万が一そうなった時。復讐に囚われるかもしれない。でも、復讐が終わったら? 俺は生きていると言えるだろうか
復讐は何ももたらさない事を知っている。復讐を果たしても居なくなった人たちは戻ってこないのだから
もしマルドロさんを助ける事が出来ても、このままでは彼は自分で死んでしまうだろう。けれど、俺に彼の考えを覆す方法がない
言葉を交わしているとはいえ、今は戦闘中。迷いが隙を生む
振り下ろしの斧に対して防御の姿勢を取ったときに、空いた胴を蹴られ、吹き飛ぶ
「ぐっ!」
吹き飛ばされながらも体勢を直し着地、距離が開く。マルドロさんはその開いた距離を詰めるのではなく、その場で体を右側へと捻りる。彼の誇る最強の技の構え
「クウガ!」
腹の底から出された大声。見えた表情に絶望は無い
「俺を、共に戦った友だと思ってくれているのなら、戦友だと思ってくれているのなら、殺せ! 殺してくれないのなら、お前は友なんかじゃなくて、裏切り者だ!」
それは、卑怯じゃないか
剣の柄を持つ手に力が入る
あの技は威力のみを求めた一撃
俺の今の速さならカウンターで彼を倒せる
こんな時でも冷静な戦力分析が出来る自分が嫌になる
両手に持つ剣を鞘に戻し、1本で居合の構えを取る
波も立たない水面のように、心を無に
そして、俺とマルドロさんは同時に前へ
両者が激突する瞬間、俺がスピードを上げ、マルドロさんが斧を振り上げるよりも速く横を駆け抜けた
ザシュッ!
マルドロさんの左脇腹から右脇へと斬線が走った
「クウガよ、俺のようにはなるんじゃねえぞ……ありがとうな」
彼は立ったまま、その生を終えた
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