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秋の章
14 天狗の弟子と化け狸
しおりを挟む夏休みが終わり、二学期に入った。
高校の授業が終わると、タルトは早速前岳山へ修行に向かった。
慣れた足取りで山を登っていく。
静かな山を無心で登るこの時間がタルトは好きだ。
山の木々たちがタルトを歓迎するかのように、風で葉を揺らし心地よい音を鳴らした。
師匠である天狗の三岳坊は今日も庵にはいないようだ。
最近三岳坊はもっぱら釣りにはまっていて、庵よりも近くの渓流で釣り糸を垂らしていることが多い。
渓流に行くと、古狸と一緒に釣りをしている三岳坊を見つけた。
「師匠、修行に来たぞー」
と声をかけると、
「タルトか、今日は修行相手に化け狸の田左衛門殿の孫たちが来てるから、相手してやりなさい」
と言う。
三岳坊の横で釣り糸を垂らしていた古狸が
「タルト殿、拙者は化け狸の田左衛門と申す。孫たち相手に一つ稽古をつけてはくれんだろうか」
と言うなり、ポン!ポン!ポン!と音がして、目の前に三匹の狸が現れた。
そのうち一匹が前に出て、
「我ら後岳山の化け狸三兄弟、太郎丸、次郎丸、三郎丸である!本日はお手合わせを願いたく参った!」
と堂々とした名乗りを挙げた。
「うん、いいよ、やろう」
タルトは河原の開けたスペースに移動すると、いつも通り自然体で白樫の杖を構える。狸三兄弟は小学生くらいの人間に化けると、皆で竹刀を構えて臨戦態勢に入った。
「いやあ、さすがは三岳坊様のお弟子さんじゃ、お強いですなあ」
と田左衛門は感心した様子だ。
数分後には、化け狸三兄弟はみな完全に地面に伸びてしまっていた。
「おーい、お前ら大丈夫かー?」
とタルトが一匹ずつ声をかけて回っている。
「タルトは我が手塩にかけて育てた弟子だからな。特別なのですよ。それにしても田左衛門殿のお孫さんたちも小さいのに立派なものだ、今後の成長に期待ですな」
と三岳坊は言った。
目を覚ました化け狸三兄弟は、すっかりタルトに懐いてしまった。
「姉者、もう一度この太郎丸と稽古をいかがでしょう!」
「いやいや、次郎丸に先ほどの立ち会いのアドバイスをいただきたい!」
「三郎丸も他の妖術を試したいのだ!」
とワイワイ盛り上がっている。
タルトは呆れた表情で、
「はいはい、順番ね」
と言うと、一人ずつ相手にして行った。
タルトと三兄弟との稽古が一通り終わったところで、三岳坊が声をかけてきた。
「そろそろ飯にするぞー、三兄弟も食べていきなさい」
気づけば空もだいぶ暗くなってきている。
稽古でよく体を動かし、ちょうど空腹になってきたタルトと三兄弟は、早速三岳坊の庵へ向かった。
庵では田左衛門と三岳坊がキノコ鍋を作っていた。
山で採れたてのキノコが溢れんばかりに豪快に大鍋に入れられ、グツグツと煮込まれている。
味噌と出汁の香りがする湯気が部屋中に広がっていき、食欲が刺激される。
刻んだ長ネギと小松菜が添えられ、見た目にも美味しそうだ。
頃合いを見て、タルトがお椀を用意し鍋から取り分けていく。
田左衛門と三岳坊は互いに持ち寄った日本酒を注ぎ合い始めた。
椀が皆に行き渡ると、三兄弟は元気よく挨拶し、美味しそうに食べ始めた。
三兄弟に続いてタルトも早速キノコ鍋を食べ始めた。
濃厚な味噌のスープと、山の香りを凝縮したキノコの旨味が、稽古で疲れた体に染み渡っていくのを感じる。
三兄弟は我先にとキノコ鍋をかきこみ、
誰が一番多く食べられるか勝負しているようだ。
田左衛門と三岳坊はちびりちびりと日本酒を飲みながら、キノコの旨味をゆっくりと楽しんでいる様子だ。
お互いに楽しそうに採ったキノコや日本酒のうんちくを語り合っている。
いつのまにか秋の訪れを感じる前岳山では、皆で囲炉裏の鍋を囲む穏やかな時間が流れていた。
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