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モテ男とデキ女の奥手な恋 関連
番外編後の隼人夫婦
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冬に長男を出産して数ヶ月後の春先、政人さん夫婦が家に遊びに来てくれた。彩乃さんは子どもが好きとあって、出産祝いにと可愛いベビー服を買ってきてくれた。
「どれも可愛くて。でも自分の子供じゃないから自重しなきゃって思いながら選んだの」
服は比較的シンプルで使いやすそうなものだ。ありがとうございます、とお礼を言うと、政人さんが笑っていた。
「これに行き着くまでに丸一日かかったからね」
「そ、そんなに?」
「兄さんもつき合ったんだ」
「一日ね」
政人さんは苦笑しながら言う。
「一人で下見に行った回数は知らないよ」
彩乃さんは顔を赤らめて政人さんを小さく睨みつけた。小柄なのでそんな動作も可愛らしい。
「だ、だっていろいろあるから楽しくて」
「恐ろしいよなぁ。これで自分の子供できたらどうなることやら」
「ええ、好きに買っていいでしょう?」
「お前の場合本気で給料全部使い切りそうで怖い」
政人さんが半眼を向けると、彩乃さんはうっと呻いて押し黙った。
「あんまりモノ増やすなよ。捨てるのがストレスだ」
「そうだけどぉ。だって可愛いんだもん」
二人の会話がおもしろくて、私は思わずくすくすと笑う。隼人くんも笑っていた。
「そういえば、結婚式の写真、まだ見てないや」
不意に隼人くんが言った。
「そんなん、見なくてもいいだろ。いたんだから」
「ええ。やっぱ違うじゃない、プロの写真だと。見てみたいな」
「あ、私も見たいです」
便乗すると、政人さんが苦笑した。
「じゃあまあ、今度ね」
わーいと手を叩きながら、ふと思い出す。
「そういえば、あれの写真もあるんですか?」
「あれって?」
「お姫様抱っこ」
口元に紅茶を運んでいた政人さんがむせた。
「あるよー」
にこり、というよりも、ほにゃり、と笑って彩乃さんが言う。その笑顔、可愛い。
年上の女性なのにきゅんきゅんしながら私も笑顔を返すと、政人さんが喉の調子を整えて眉を寄せた。
「どうしてあれがそんなに特別かなぁ」
「えー。やっぱ特別ですよ。ねぇ」
「ねぇ」
彩乃さんと私が互いに同意し合っていると、隼人くんが首を傾げた。
「俺、やらなかったけど」
「え、私はいいよ」
ぶんぶんと手を振って言う。
「あれは、彩乃さんみたいに可愛い人だからいいんだよ」
「なぁにそれ、年増女に言わないで。恥ずかしい」
「年増じゃないですよ。すっごく素敵でした。政人さんも軽々抱っこしてたし」
女同士言い合うと、
「香子ちゃんもしてもらえば?」
「しようか?」
政人さんの言葉に、隼人くんが笑顔で両手を差し出す。私は慌てて手と首を振った。顔が赤くなっているのがわかる。
「いい。いい。絶対、いい」
「何でそんな頑なに」
「だ、だって、身体壊れちゃうよ。私なんか抱っこしたら」
「そんなヤワじゃないだろ。ーーなあ」
政人さんが笑いながら隼人くんに言った。隼人くんも頷く。
「彩乃さんみたいに、軽くないですから、私」
「そんな重くないでしょ。できるよ」
政人さんはいたずらっぽい目を私に向けた。軽く両手を広げてみせる。
「試してみる?」
ーーうっわ。
微笑で両手を広げる政人さんの姿が、画になりすぎて見惚れる。フェロモンをモロに浴びた私は、口を開けたり閉めたりしてから、俯いた。
「兄さん」
隼人くんから何だかまがまがしいオーラを感じる。ああ、これがあれか、サリーが言ってたブリザードってやつか。思いながら一息つき、顔を上げた。政人さんが軽やかに笑っている。
「何でそんな楽しそうなのさ」
「いや、だって。今の反応。香子ちゃんにしては貴重だろ」
政人さんは机に肘をつき、私を横目で見た。
「可愛かったし」
ぶわ、とまた私の顔が赤くなる。
「にーいーさーん!」
机に手を置き、隼人くんが憤慨の面持ちで政人さんに迫った。
「ちょ、何だよ。本気になり過ぎだろ。妻を褒められたんだから、喜ぶところだろ」
「兄さんがやると、駄目!」
隼人くんが動揺しているのが物珍しいらしく、彩乃さんは面白そうに目を輝かせながら様子を見守っている。
隼人くんは次いで私に顔を向けた。
「香子ちゃんも、駄目!」
「だ、駄目って」
「あああ、もう!帰ってよ!兄さん今日は帰って!」
「ちょ、ちょっと隼人くん落ち着いてーー」
言い合っていたとき、寝ていた息子が起きてぐずぐず言い始めた。
彩乃さんが笑う。
「赤ちゃんて、よくわかってるわねぇ」
その笑顔はほがらかだ。
「落ち着いたら、抱っこさせてもらえるかしら」
「いいですよ、ぜひ」
ベビーベッドに眠る子供のところに向かいながら、女二人で話し合う。
隼人くんは不服げに嘆息して黙る。
その様子に、政人さんが笑った。
「どれも可愛くて。でも自分の子供じゃないから自重しなきゃって思いながら選んだの」
服は比較的シンプルで使いやすそうなものだ。ありがとうございます、とお礼を言うと、政人さんが笑っていた。
「これに行き着くまでに丸一日かかったからね」
「そ、そんなに?」
「兄さんもつき合ったんだ」
「一日ね」
政人さんは苦笑しながら言う。
「一人で下見に行った回数は知らないよ」
彩乃さんは顔を赤らめて政人さんを小さく睨みつけた。小柄なのでそんな動作も可愛らしい。
「だ、だっていろいろあるから楽しくて」
「恐ろしいよなぁ。これで自分の子供できたらどうなることやら」
「ええ、好きに買っていいでしょう?」
「お前の場合本気で給料全部使い切りそうで怖い」
政人さんが半眼を向けると、彩乃さんはうっと呻いて押し黙った。
「あんまりモノ増やすなよ。捨てるのがストレスだ」
「そうだけどぉ。だって可愛いんだもん」
二人の会話がおもしろくて、私は思わずくすくすと笑う。隼人くんも笑っていた。
「そういえば、結婚式の写真、まだ見てないや」
不意に隼人くんが言った。
「そんなん、見なくてもいいだろ。いたんだから」
「ええ。やっぱ違うじゃない、プロの写真だと。見てみたいな」
「あ、私も見たいです」
便乗すると、政人さんが苦笑した。
「じゃあまあ、今度ね」
わーいと手を叩きながら、ふと思い出す。
「そういえば、あれの写真もあるんですか?」
「あれって?」
「お姫様抱っこ」
口元に紅茶を運んでいた政人さんがむせた。
「あるよー」
にこり、というよりも、ほにゃり、と笑って彩乃さんが言う。その笑顔、可愛い。
年上の女性なのにきゅんきゅんしながら私も笑顔を返すと、政人さんが喉の調子を整えて眉を寄せた。
「どうしてあれがそんなに特別かなぁ」
「えー。やっぱ特別ですよ。ねぇ」
「ねぇ」
彩乃さんと私が互いに同意し合っていると、隼人くんが首を傾げた。
「俺、やらなかったけど」
「え、私はいいよ」
ぶんぶんと手を振って言う。
「あれは、彩乃さんみたいに可愛い人だからいいんだよ」
「なぁにそれ、年増女に言わないで。恥ずかしい」
「年増じゃないですよ。すっごく素敵でした。政人さんも軽々抱っこしてたし」
女同士言い合うと、
「香子ちゃんもしてもらえば?」
「しようか?」
政人さんの言葉に、隼人くんが笑顔で両手を差し出す。私は慌てて手と首を振った。顔が赤くなっているのがわかる。
「いい。いい。絶対、いい」
「何でそんな頑なに」
「だ、だって、身体壊れちゃうよ。私なんか抱っこしたら」
「そんなヤワじゃないだろ。ーーなあ」
政人さんが笑いながら隼人くんに言った。隼人くんも頷く。
「彩乃さんみたいに、軽くないですから、私」
「そんな重くないでしょ。できるよ」
政人さんはいたずらっぽい目を私に向けた。軽く両手を広げてみせる。
「試してみる?」
ーーうっわ。
微笑で両手を広げる政人さんの姿が、画になりすぎて見惚れる。フェロモンをモロに浴びた私は、口を開けたり閉めたりしてから、俯いた。
「兄さん」
隼人くんから何だかまがまがしいオーラを感じる。ああ、これがあれか、サリーが言ってたブリザードってやつか。思いながら一息つき、顔を上げた。政人さんが軽やかに笑っている。
「何でそんな楽しそうなのさ」
「いや、だって。今の反応。香子ちゃんにしては貴重だろ」
政人さんは机に肘をつき、私を横目で見た。
「可愛かったし」
ぶわ、とまた私の顔が赤くなる。
「にーいーさーん!」
机に手を置き、隼人くんが憤慨の面持ちで政人さんに迫った。
「ちょ、何だよ。本気になり過ぎだろ。妻を褒められたんだから、喜ぶところだろ」
「兄さんがやると、駄目!」
隼人くんが動揺しているのが物珍しいらしく、彩乃さんは面白そうに目を輝かせながら様子を見守っている。
隼人くんは次いで私に顔を向けた。
「香子ちゃんも、駄目!」
「だ、駄目って」
「あああ、もう!帰ってよ!兄さん今日は帰って!」
「ちょ、ちょっと隼人くん落ち着いてーー」
言い合っていたとき、寝ていた息子が起きてぐずぐず言い始めた。
彩乃さんが笑う。
「赤ちゃんて、よくわかってるわねぇ」
その笑顔はほがらかだ。
「落ち着いたら、抱っこさせてもらえるかしら」
「いいですよ、ぜひ」
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隼人くんは不服げに嘆息して黙る。
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