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安田夫婦関連
ジョーの災難2/4
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その一週間後、終業時間の直前にデスクの電話が鳴った。俺が出ると、若い女性が取引先の社名を名乗る。
『安田さん、いらっしゃいますか?』
先日、ジョーが疲れきって帰ってきた打合せを思い出し、やや弾んだ電話口でのテンションに薄々事態を掴む。
ジョーは今年32だか33。細くても筋肉質な長身に、変わらない短髪と愛嬌のある目。婚活などという一見健気な言葉でハンターと化している女にとっては有望株だろう。
それに、名取さんが肩が凝るから指輪はしないと言い張ったため、二人は結婚指輪をしていない。いくら結婚していると主張したところで、冗談だと思うだけだろう。
もう帰ったと言おうかと一瞬後輩の横顔を見やったが、そうは言っても新規の顧客になる予定の取引先である。まあ互いに大人なんだし、うまくやるだろうと小さく嘆息して、俺はジョーに取り次いだ。
相手の名前を告げた瞬間、ジョーの表情があからさまに歪む。
「もしもし」
『あ、安田さん、こんばんは!よかったぁ、今日いたんですね!』
「ええまあ、仕事してますから。でももう帰ります。愛妻に夕飯作らないといけないんで」
『うふふ、またそんなこと言って。ね、たまには飲みに行きませんか?今、いつもの二人で安田さんの会社の近くにいるんです、出張だったんで。いいお店も教えて欲しいし……ね、お願いします』
「あー、無理です。店だけ教えますから、自分で行ってください」
淡々と答える声は無駄に明るいが、全く感情がこもっていない。俺は取り次いだことを内心後悔した。これで相手に気分を害されても困る。
『そんなこと言わずに……実は今もうロビーにいるんですよ』
ジョーの身体に殺気を感じて俺はわずかに身を引く。さすがの俺でも女にそこまでの殺気は立てない。ジョーがフェミニストだからではなく、興味のない人間にはどこまででもドライになる男だからだ。
はー、とジョーは息を吐き出した。受話器の通話口を押さえ、俺を見る。
にっこり笑ったその目は、全く、笑っていない。
「マーシーもつき合ってもらいますよ」
言うなり俺の答えを聞かず、ジョーはまた受話器を耳に当てた。
「あ、もしもし?じゃあ、あと5分したら降りますから。僕よりいい男連れていくんで、楽しみに待っててください」
その目は同意を求めるように俺を見ている。
おいおいおいおい!
「ジョー!」
相手に聞こえないようにたしなめようとしたが、ジョーはあっさり電話を切ってまたにこりとした。
「俺、トイレ行ってきますから、その間に帰る準備しといてくださいね」
呆然とした俺を置いて、ジョーはデスクを立った。
一人残されて額を押さえると、何とも言えない脱力感にさいなまれる。
こうなったら仕方ない。
俺はデスクの受話器を手に取り、内線番号を押した。
「あーーすみません名取さん。ちょっとお願いなんですけど……」
『安田さん、いらっしゃいますか?』
先日、ジョーが疲れきって帰ってきた打合せを思い出し、やや弾んだ電話口でのテンションに薄々事態を掴む。
ジョーは今年32だか33。細くても筋肉質な長身に、変わらない短髪と愛嬌のある目。婚活などという一見健気な言葉でハンターと化している女にとっては有望株だろう。
それに、名取さんが肩が凝るから指輪はしないと言い張ったため、二人は結婚指輪をしていない。いくら結婚していると主張したところで、冗談だと思うだけだろう。
もう帰ったと言おうかと一瞬後輩の横顔を見やったが、そうは言っても新規の顧客になる予定の取引先である。まあ互いに大人なんだし、うまくやるだろうと小さく嘆息して、俺はジョーに取り次いだ。
相手の名前を告げた瞬間、ジョーの表情があからさまに歪む。
「もしもし」
『あ、安田さん、こんばんは!よかったぁ、今日いたんですね!』
「ええまあ、仕事してますから。でももう帰ります。愛妻に夕飯作らないといけないんで」
『うふふ、またそんなこと言って。ね、たまには飲みに行きませんか?今、いつもの二人で安田さんの会社の近くにいるんです、出張だったんで。いいお店も教えて欲しいし……ね、お願いします』
「あー、無理です。店だけ教えますから、自分で行ってください」
淡々と答える声は無駄に明るいが、全く感情がこもっていない。俺は取り次いだことを内心後悔した。これで相手に気分を害されても困る。
『そんなこと言わずに……実は今もうロビーにいるんですよ』
ジョーの身体に殺気を感じて俺はわずかに身を引く。さすがの俺でも女にそこまでの殺気は立てない。ジョーがフェミニストだからではなく、興味のない人間にはどこまででもドライになる男だからだ。
はー、とジョーは息を吐き出した。受話器の通話口を押さえ、俺を見る。
にっこり笑ったその目は、全く、笑っていない。
「マーシーもつき合ってもらいますよ」
言うなり俺の答えを聞かず、ジョーはまた受話器を耳に当てた。
「あ、もしもし?じゃあ、あと5分したら降りますから。僕よりいい男連れていくんで、楽しみに待っててください」
その目は同意を求めるように俺を見ている。
おいおいおいおい!
「ジョー!」
相手に聞こえないようにたしなめようとしたが、ジョーはあっさり電話を切ってまたにこりとした。
「俺、トイレ行ってきますから、その間に帰る準備しといてくださいね」
呆然とした俺を置いて、ジョーはデスクを立った。
一人残されて額を押さえると、何とも言えない脱力感にさいなまれる。
こうなったら仕方ない。
俺はデスクの受話器を手に取り、内線番号を押した。
「あーーすみません名取さん。ちょっとお願いなんですけど……」
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