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「お久しぶりでーす」
もうそろそろ昼休みに入ろうと言う頃、春菜たちのオフィスを尋ねて来たのは春菜の同期の五十嵐大地だった。黒い短髪に黒い眼鏡、すらっとした体駆だが惜しむらくは身長が平均以下なところ、とこれは本人談。
たまたまお手洗いから戻ってきたところだった春菜は首を傾げて歩み寄った。
「イガちゃん。どうしたの」
「今日こっちで研修だから、課長に挨拶。俺、ハルと入れ代わり異動だったのよ」
知らなかったっけ?と首を傾げた五十嵐は、ああそうだと春菜の肩をたたいた。
「そういや、いのっちと結菜が結婚すんの、知ってる?」
「ええ!?知らない!いつの間に!?」
猪木賢太と高田結菜は二人の同期だ。同期は十名、男女比は半々で、すでに女子一人が結婚している。
「式は春先に、身内だけですんだって。でも同期で何かお祝いしようぜって、みんなで話してんの。今日、夜その打ち合わせも兼ねて何人か集まるよ。ハルも来る?」
「行く行く!誰来るの?花梨ちゃんも誘っていい?」
「ああ、そうだな。声かけといて」
二人でわいわいと盛り上がっている姿に、小野田が苦笑している。
「五十嵐くん。僕に挨拶に来たんじゃないの?」
「え?あ、すいませ……」
聞き慣れた声に振り向きかけた五十嵐が、デスクにいる小野田の姿に動きを止める。
「って誰っすかこの人」
「いいわーイガちゃん。なかなかいい反応だわ」
「気持ちは分かるよ」
笑うのは日高と三原だ。五十嵐は小野田とその他のメンバーを代わる代わる見比べていたが、しばらくするとはー、と止めていた息を吐き出した。
「変われば変わるもんっすねー」
「イガちゃん、すごい失礼じゃない?」
「それ、こまっちゃんが言う?」
春菜のツッコミに三原が笑う。春菜は気まずく思って視線を反らした。
「いやー、モトがいいとこんなに違うんですね。俺みたいなニワカには太刀打ちできないな」
感心しながら五十嵐は小野田の姿を眺める。五十嵐もこざっぱりとしていて好青年然としているのだが、小野田の前では霞む。
「ハル、タイプでしょ」
振り返ってあっさりと言った五十嵐の後頭部を、春菜は何のためらいもなくたたいた。
「用が済んだらとっとと帰れ」
「えー。俺にも楽しませてよー。麗しの小野田課長」
拳を握って言うが、頬が紅潮しているのは隠しようもない。すっかりからかう気満々の五十嵐は楽しげに笑っている。
春菜は下唇を噛み、五十嵐の背中を押して方向転換させた。
「かーえーれー!」
「へいへい」
ぐいぐいとそのままドアに連行すると、五十嵐は諦めたように押されていき、ドアノブに手をかけると振り返った。
「ハル」
「な、何よ」
いきなりの真剣な面持ちに、春菜が戸惑うと、五十嵐は声をひそめて言った。
「襲うなよ」
「いーがーらーしー!!」
春菜が振りかぶった手首をあっけなくつかんで、五十嵐は楽しげに笑うと、
「じゃ、またあとで連絡する」
ひらりと手を振って去って行った。
嵐の後のように急に戻って来るオフィスの静けさが、春菜には気まずい。
「そうかぁ」
何故か感心したように頷いたのは日高だった。
「女子に襲われる、っていう想定はしていなかった」
そんなんせんでいいです。
春菜は喉元まででかかった言葉を飲み込みながら、極力気配を消してデスクに戻る。日高はそれを気にもせず、
「ああいや、こまっちゃんが襲うかどうかは置いといてね。課長、気をつけてくださいね」
「日高さん、何の心配をしてるの」
比較的本気なトーンでのたまう日高に、小野田は苦笑を返した。
もうそろそろ昼休みに入ろうと言う頃、春菜たちのオフィスを尋ねて来たのは春菜の同期の五十嵐大地だった。黒い短髪に黒い眼鏡、すらっとした体駆だが惜しむらくは身長が平均以下なところ、とこれは本人談。
たまたまお手洗いから戻ってきたところだった春菜は首を傾げて歩み寄った。
「イガちゃん。どうしたの」
「今日こっちで研修だから、課長に挨拶。俺、ハルと入れ代わり異動だったのよ」
知らなかったっけ?と首を傾げた五十嵐は、ああそうだと春菜の肩をたたいた。
「そういや、いのっちと結菜が結婚すんの、知ってる?」
「ええ!?知らない!いつの間に!?」
猪木賢太と高田結菜は二人の同期だ。同期は十名、男女比は半々で、すでに女子一人が結婚している。
「式は春先に、身内だけですんだって。でも同期で何かお祝いしようぜって、みんなで話してんの。今日、夜その打ち合わせも兼ねて何人か集まるよ。ハルも来る?」
「行く行く!誰来るの?花梨ちゃんも誘っていい?」
「ああ、そうだな。声かけといて」
二人でわいわいと盛り上がっている姿に、小野田が苦笑している。
「五十嵐くん。僕に挨拶に来たんじゃないの?」
「え?あ、すいませ……」
聞き慣れた声に振り向きかけた五十嵐が、デスクにいる小野田の姿に動きを止める。
「って誰っすかこの人」
「いいわーイガちゃん。なかなかいい反応だわ」
「気持ちは分かるよ」
笑うのは日高と三原だ。五十嵐は小野田とその他のメンバーを代わる代わる見比べていたが、しばらくするとはー、と止めていた息を吐き出した。
「変われば変わるもんっすねー」
「イガちゃん、すごい失礼じゃない?」
「それ、こまっちゃんが言う?」
春菜のツッコミに三原が笑う。春菜は気まずく思って視線を反らした。
「いやー、モトがいいとこんなに違うんですね。俺みたいなニワカには太刀打ちできないな」
感心しながら五十嵐は小野田の姿を眺める。五十嵐もこざっぱりとしていて好青年然としているのだが、小野田の前では霞む。
「ハル、タイプでしょ」
振り返ってあっさりと言った五十嵐の後頭部を、春菜は何のためらいもなくたたいた。
「用が済んだらとっとと帰れ」
「えー。俺にも楽しませてよー。麗しの小野田課長」
拳を握って言うが、頬が紅潮しているのは隠しようもない。すっかりからかう気満々の五十嵐は楽しげに笑っている。
春菜は下唇を噛み、五十嵐の背中を押して方向転換させた。
「かーえーれー!」
「へいへい」
ぐいぐいとそのままドアに連行すると、五十嵐は諦めたように押されていき、ドアノブに手をかけると振り返った。
「ハル」
「な、何よ」
いきなりの真剣な面持ちに、春菜が戸惑うと、五十嵐は声をひそめて言った。
「襲うなよ」
「いーがーらーしー!!」
春菜が振りかぶった手首をあっけなくつかんで、五十嵐は楽しげに笑うと、
「じゃ、またあとで連絡する」
ひらりと手を振って去って行った。
嵐の後のように急に戻って来るオフィスの静けさが、春菜には気まずい。
「そうかぁ」
何故か感心したように頷いたのは日高だった。
「女子に襲われる、っていう想定はしていなかった」
そんなんせんでいいです。
春菜は喉元まででかかった言葉を飲み込みながら、極力気配を消してデスクに戻る。日高はそれを気にもせず、
「ああいや、こまっちゃんが襲うかどうかは置いといてね。課長、気をつけてくださいね」
「日高さん、何の心配をしてるの」
比較的本気なトーンでのたまう日高に、小野田は苦笑を返した。
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