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第四章 曇天をさらう暴風雨 (ヒメ/阿久津交互)
07 積年の想い
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ああ、そっか。
初めてまっすぐに私を見てくる阿久津さんの目を見返しながら、私は納得していた。
何でこんな急に、食事になんて誘ってくれたんだろうと思ってたけど……
これで最後にさせるためだったんだ。
ふわふわと浮き立っていた心が、静かに腹の底へ着陸していくような感覚。
ついうつむいてしまいそうになって、途中で止まった。
いやいや。待って。
食事に行ってくれるならと、進展を期待した。
それは確かで、だからこそこうして釘を刺されると、期待した分ショックも感じる。
でも、私の行動で得たものは、まだ連絡先までだったことを思い出す。この食事は、それこそ阿久津さんからのご褒美みたいなもの。ボーナスみたいなもの。
潔く身を引く気は、毛頭なかったはずだ。
今までだって、これからだって。
私は気を取り直して顔を引き上げ、阿久津さんの目を見つめる。
阿久津さんは眉を寄せた。
「嫌ですか?」
「……は?」
「毎朝、改札で挨拶するの、迷惑ですか?」
阿久津さんは明らかに戸惑ったようだった。
私は思わず、笑いそうになる。
嘘でも何でも、ここで頷ける人なら、私は諦めざるを得ない。
でも阿久津さんはそうできない人なのだろう。
「迷惑じゃないなら、これからも続けます。私、毎朝阿久津さんの顔見て、よしってやる気になって、出勤するのが今のリズムなんです」
両拳を小さく握って、私は笑う。阿久津さんは何か言いたげに口を開いたが、吐き出したのはため息だった。
ずるずると崩れるように机に肘を置き、額に手を当てる。息と共に、言葉を吐き出す。
「ーー何だそれ」
阿久津さんは何やら葛藤しているらしい。伏せられたその目に、苛立ちと切なさを見て取る。
阿久津さんは口を開いて閉じることを数度繰り返した。何かを言わなければと思いつつ、言葉にならないらしいと察して、じっと待つ。
私の気持ちは決まっている。迷惑がられていないのなら、もう会えなくなるなんて嫌だ。
だから、今は阿久津さんの言葉を待つ。
「……早めに終わりにしとけ」
阿久津さんは言った。その言葉はずいぶん気弱な響きを持って私の耳に届いた。
「時間が経てば経つほど、取り戻せなくなるぞ。……俺みたいに」
私は阿久津さんの顔をじっと見た。
直感的に、阿久津さんの想いを察する。
「アヤノさん……ですか?」
私の言葉を否定も肯定もせず、阿久津さんはジョッキを傾けた。
ごくり、ごくりと上下する喉仏。
私はやっぱり、その男らしさに見惚れていた。
初めてまっすぐに私を見てくる阿久津さんの目を見返しながら、私は納得していた。
何でこんな急に、食事になんて誘ってくれたんだろうと思ってたけど……
これで最後にさせるためだったんだ。
ふわふわと浮き立っていた心が、静かに腹の底へ着陸していくような感覚。
ついうつむいてしまいそうになって、途中で止まった。
いやいや。待って。
食事に行ってくれるならと、進展を期待した。
それは確かで、だからこそこうして釘を刺されると、期待した分ショックも感じる。
でも、私の行動で得たものは、まだ連絡先までだったことを思い出す。この食事は、それこそ阿久津さんからのご褒美みたいなもの。ボーナスみたいなもの。
潔く身を引く気は、毛頭なかったはずだ。
今までだって、これからだって。
私は気を取り直して顔を引き上げ、阿久津さんの目を見つめる。
阿久津さんは眉を寄せた。
「嫌ですか?」
「……は?」
「毎朝、改札で挨拶するの、迷惑ですか?」
阿久津さんは明らかに戸惑ったようだった。
私は思わず、笑いそうになる。
嘘でも何でも、ここで頷ける人なら、私は諦めざるを得ない。
でも阿久津さんはそうできない人なのだろう。
「迷惑じゃないなら、これからも続けます。私、毎朝阿久津さんの顔見て、よしってやる気になって、出勤するのが今のリズムなんです」
両拳を小さく握って、私は笑う。阿久津さんは何か言いたげに口を開いたが、吐き出したのはため息だった。
ずるずると崩れるように机に肘を置き、額に手を当てる。息と共に、言葉を吐き出す。
「ーー何だそれ」
阿久津さんは何やら葛藤しているらしい。伏せられたその目に、苛立ちと切なさを見て取る。
阿久津さんは口を開いて閉じることを数度繰り返した。何かを言わなければと思いつつ、言葉にならないらしいと察して、じっと待つ。
私の気持ちは決まっている。迷惑がられていないのなら、もう会えなくなるなんて嫌だ。
だから、今は阿久津さんの言葉を待つ。
「……早めに終わりにしとけ」
阿久津さんは言った。その言葉はずいぶん気弱な響きを持って私の耳に届いた。
「時間が経てば経つほど、取り戻せなくなるぞ。……俺みたいに」
私は阿久津さんの顔をじっと見た。
直感的に、阿久津さんの想いを察する。
「アヤノさん……ですか?」
私の言葉を否定も肯定もせず、阿久津さんはジョッキを傾けた。
ごくり、ごくりと上下する喉仏。
私はやっぱり、その男らしさに見惚れていた。
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