爆走織姫はやさぐれ彦星と結ばれたい!

松田丹子(まつだにこ)

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第四章 曇天をさらう暴風雨 (ヒメ/阿久津交互)

06 決断

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 適当な集合場所を指定して、終業後澤田と落ち合った。会社の最寄り駅では誰に見られるか分からないので、二駅隣にした。
 俺が着く頃には、もう澤田は改札前で、緊張気味に立っていた。
 遠目から見ても小さくて、少女じみた容姿をしている。
 それを見て、思わずまたため息が漏れた。
 いや、ほんと、どうなの? これ。
 自分で自分に問い掛けてみる。正直、あいつの容姿がもう少し人並みにーーじゃない、年相応だったら、俺もまた違う気持ちだったんじゃなかろうか。
 うん、多分そうだ。
 でも一方で、別に拒否反応を感じるような容姿な訳ではない。
 いや、抱けるかと言われればちょっと考えさせてくれと言いたいが、それは彼女に女としての魅力がないとかそういう意味ではなく、多分あれだ。新しい扉を開く前のためらいみたいなやつで、もし戻って来られなかったらと思うと踏み出せない、という意味だ。
 極力ゆっくりと近づいていくと、澤田がはっとして顔を上げた。小動物的なくるりと大きな目が俺をとらえ、ふにゃりと歪む。
 なんとなく和みそうになって、俺は自分を叱咤した。
 ここで和んでどうする。
「お疲れ」
 何と言おうか考えたが、結局ぶっきらぼうに声をかけると、澤田はより一層晴れやかな笑顔を浮かべた。
「はいっ。お疲れさまです!」
 なんだこの動物。尻尾ついてんじゃねぇの。
 俺は翻弄されそうな心に無を唱えつつ目を反らした。
「食えないもんあるのか?」
「ないですっ。何でも食べられますっ」
 ああそうだよな。俺みたいなのがいいって言うくらいだからゲテモノも行けそうだよな。
 心中呟いて自己憐憫に浸る。一体何やってんだろう俺。とっとと飯食って帰ろう。まあペット連れだとでも思えばいい。
「行くぞ」
「はいっ」
 こぼれるような幼い笑顔が無邪気すぎて、まぶしすぎて、直視できない。
 俺は返事を耳にして、足を運び始めた。

 自炊の習慣があまりないからということもあるが、店を開拓するのは割と好きな方だ。
 飲み会の幹事を任されることが多かったこともあるが、まあ半分は趣味。くつろげて、飯がうまい飲み屋は、行動圏内の各駅に2、3くらい把握している。
 いかにも女が好きそうなダイニングバーもあったが、あえて賑やかな居酒屋にした。とはいえ炭火焼きの串屋はさすがに避けてやる。服に臭いがついたら嫌かもしれないから。
 家庭的な料理が中心の店の暖簾をくぐり、奥のテーブル席に案内された。
「あれ、阿久津さん女の子連れ? ずいぶんかわいい子連れてるじゃない。いいの? こんな味気ないところ連れて来ちゃって」
 おかみさんがおしぼり持参で声をかけて来る。俺は苦笑を返した。
 必要だと思えば、それなりのところに連れて行くくらいの配慮はある。
「いいの。俺、生一つ。お前は?」
「えっ、えと、一緒でいいです」
「あら。ビールなんて飲めるの? いや、さすがに未成年とは思わないけどさ」
 澤田は萎縮したようにおかみさんを見上げた。
「ええと、一杯ならどうにか」
 おかみさんは噴き出す。
「素直でいい子だわね」
「つまみも今日のおススメいくつかお願いしていい?」
「了解」
 おかみさんは返事をして、奥へ引っ込んでいく。俺はおしぼりで手を拭いた。
 澤田も自分の前のおしぼりで手を拭く。何となく落ち着かない風なのは俺の前だからか、場所に慣れていないからか。
 多分後者だろう、と推測しつつ、俺は黙ってビールを待った。
「はい、先に生二つとお通し」
「ありがとう」
「あ、ありがとうございます」
 俺がジョッキを手にすると、澤田もジョッキを両手で掲げた。不釣り合いな大きさに笑いそうになる。
「お疲れさまです」
「お疲れ」
 ガチン、と色気のない音がして、ジョッキが合わさる。俺はいつも通り一気にジョッキを傾けた。
 ぐび、ぐび、と冷えたそれを飲み込む。まだ残暑厳しい折だ。ビールがうまい。
 半ばを飲み干して机に置くと、何やらキラキラとした澤田の目に気づいた。
「なんだよ」
 つい、半眼を投げると、澤田は紅潮させた頬をほころばせる。
「な、何でもないですっ」
 いや何でもなくないだろその顔。
 あああもう。訳分かんねぇ。
 何がこいつを喜ばせているのか分かんねぇ。
 呆れて目を反らし、机横に立ててある割り箸を二膳手にする。一膳を澤田へ渡し、自分のそれは割ってお通しを口にした。
 礼を言って俺から箸を受け取った澤田は、ちらちらと俺を見ながら箸を割る。
「あっ」
 小さな声に目を上げると、いびつに割れた箸に顔を歪めている様が見えた。
「……どうした」
「いや、なんか……」
 澤田はただでさえ情けない眉尻をさらに情けなく下げて俺を見る。
「綺麗に割れるとテンション上がるけど、こうなっちゃうとテンション下がりません?」
 言われて澤田の顔と不格好な割れ方の箸を見比べた。
「テンションねぇ」
 やっぱりこいつは若いんだ、と思う。いちいちそんなことでテンションが上下していたら面倒でやってられない。
が、昔はそういう気持ちもあったように思う。
 分かりきっていたことだが、半ば決意にも似た感覚が腹に落ちた。
「二ヶ月くらいになるか」
「え?」
「お前が最初に声かけてきてから」
 澤田はじっと俺の顔を見て来た。俺はその目を見ずにビールをあおる。
「まあ、よくがんばったんじゃないの。今日はその根性に免じて俺が奢るよ」
 とん、と極力音を立てずにジョッキを置いた。
 まっすぐに澤田を見返す。
「だから、もうやめとけ。俺は」
 一瞬、目が揺らぎかけた。が、ここで目を反らしてはいけないと気づき、また澤田の目を見る。
「お前に興味はない。今までも、多分、これからも」
 澤田はぽかんとした表情で、俺を見ていた。
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