47 / 114
第七章 織り姫危機一髪。(ヒメ/阿久津交互)
07 運命の悪戯
しおりを挟む
小児科での仕事を終えた後、少しだけ時間を潰してから、私は津田ちゃんと待ち合わせしているS駅に向かった。
S駅はオフィス街だけど、主要駅で人も多い。また何かトラブルに巻き込まれることのないよう、今日は肌の露出が少ない服を選んだ。
今朝の占いもイマイチだった。
人災あり、信じるべき人を信じなさい。
信じるべき人って誰よ、と思わず眉を寄せる。
占いの言葉って、ときどき何を意味しているのか分からない。
ラッキーアイテムは旧友だった。これは津田ちゃんに会うからオッケー、と一人頷いたことを思い出す。
駅に着いたのは約束の十分前だったけど、出張が早めに終わった津田ちゃんはもう着いていたようだ。改札口を出て互いを認めるなり、手をあげて微笑んだ。
「久しぶり。元気だった?」
ありきたりと分かりながら、私は浮き立つ声で言う。
仲がよかった友人を前にして、気分が上がるのは当然のことだ。
「うん。そっちは?」
「元気元気」
両拳を握り、顔の脇に掲げて見せる。津田ちゃんは学生時代と変わらないにこにこ笑顔でしばらく私を見た後、改札と逆側を指差した。
「行こうか」
「うん」
「お店、適当に選んだけどよかった?」
「うん、むしろ都内に勤めてるの私なのに、ごめんね。探してくれてありがとう」
私が言うと、津田ちゃんはにこりと笑った。
癒されるんだよね、この笑顔。あんまり話すタイプじゃないんだけど、津田ちゃんはいつもにこにこしていて、たまにちょっとずれたことを言ってみんなを笑わせて和ませてくれたりもした。
一家に一台……とまでは言わないけど、同じ場にいると落ち着く人だ。
「お腹空いちゃった。津田ちゃんも?」
「うん、俺も空いた」
「いっぱい食べよー」
「そうだね」
ゆるい会話を交わしながら、津田ちゃんの隣を歩いていく。津田ちゃんの身長は平均的だろうけど、私が小さいから気遣かってくれているのがわかる。でもそれも厭味なくて、これまたありがたい。
「津田ちゃんのスーツ姿、新鮮。卒業式では着てたけど」
「ああ、そうだよね。就活のときはあんまり会わなかったしね」
「うん」
にこにこの津田ちゃんの隣で、私もにこにこ歩く。人通りが多いのを懸命に避けながら歩いていたつもりだったけど、電話しながら歩くサラリーマンとうまくすれ違えずにぶつかった。
「あ、すみません」
「失礼」
反射的に言って、互いの目が合う。
「ーーえ」
「あれ。お前」
阿久津さんだった。
阿久津さんは私の隣に立つ津田ちゃんを見て、また私の顔を見る。
私の顔から血の気が引いた。
「ち、違うんです。阿久津さん、彼はーー」
「ああ、そう」
阿久津さんの反応は淡々としていた。
「行ってらっしゃい」
無表情に言うと、電話を耳元に当て、また歩き出す。
「美郷。遅れて悪いな。今から行く」
みさと?
って、女の人の名前?
どういうこと? どういうこと? どういうことー!?
混乱状態の私を置いて、阿久津さんは足早に過ぎ去った。
一度も振り向くことなく。
「……ヒメちゃん、大丈夫?」
胸も頭もぐるぐるぐちゃぐちゃで、唖然と立ち尽くす私に、津田ちゃんが恐る恐る、声をかけてくる。
大丈夫じゃない。と、答えたかったけど、私は泣きそうな顔に無理矢理笑顔を浮かべた。
「な、何でもない。大丈夫ぅ」
大丈夫じゃない。
全然、大丈夫じゃない。
本当だったら今からでも走って行って、後ろから抱き着いて、弁解して、行かないでって追いすがって、それでーー
人災あり。
占いの言葉が脳裏をかすめた。
信じるべき人を信じなさい。
もう見えなくなった背中を、それでもまだ探そうと目が泳いでいたけど、ゆっくりとうつむく。
「……ヒメちゃん?」
私は一つ、息を吐いた。
信じなきゃ。信じるんだ。信じるべき人。信じたい人。
「ごめんね、行こっか」
私は笑って、また歩き出す。
「お腹空いたぁ。お店、何屋さん?」
津田ちゃんはちょっと困惑した顔をした後、また足を進め始める。
「スペイン料理だよ。パエリアとか、好き?」
「あ、いいねぇ。アヒージョとか。食べるぞぉ」
私は笑った。後ろ髪を引かれる想いを、ガッツポーズでごまかした。
S駅はオフィス街だけど、主要駅で人も多い。また何かトラブルに巻き込まれることのないよう、今日は肌の露出が少ない服を選んだ。
今朝の占いもイマイチだった。
人災あり、信じるべき人を信じなさい。
信じるべき人って誰よ、と思わず眉を寄せる。
占いの言葉って、ときどき何を意味しているのか分からない。
ラッキーアイテムは旧友だった。これは津田ちゃんに会うからオッケー、と一人頷いたことを思い出す。
駅に着いたのは約束の十分前だったけど、出張が早めに終わった津田ちゃんはもう着いていたようだ。改札口を出て互いを認めるなり、手をあげて微笑んだ。
「久しぶり。元気だった?」
ありきたりと分かりながら、私は浮き立つ声で言う。
仲がよかった友人を前にして、気分が上がるのは当然のことだ。
「うん。そっちは?」
「元気元気」
両拳を握り、顔の脇に掲げて見せる。津田ちゃんは学生時代と変わらないにこにこ笑顔でしばらく私を見た後、改札と逆側を指差した。
「行こうか」
「うん」
「お店、適当に選んだけどよかった?」
「うん、むしろ都内に勤めてるの私なのに、ごめんね。探してくれてありがとう」
私が言うと、津田ちゃんはにこりと笑った。
癒されるんだよね、この笑顔。あんまり話すタイプじゃないんだけど、津田ちゃんはいつもにこにこしていて、たまにちょっとずれたことを言ってみんなを笑わせて和ませてくれたりもした。
一家に一台……とまでは言わないけど、同じ場にいると落ち着く人だ。
「お腹空いちゃった。津田ちゃんも?」
「うん、俺も空いた」
「いっぱい食べよー」
「そうだね」
ゆるい会話を交わしながら、津田ちゃんの隣を歩いていく。津田ちゃんの身長は平均的だろうけど、私が小さいから気遣かってくれているのがわかる。でもそれも厭味なくて、これまたありがたい。
「津田ちゃんのスーツ姿、新鮮。卒業式では着てたけど」
「ああ、そうだよね。就活のときはあんまり会わなかったしね」
「うん」
にこにこの津田ちゃんの隣で、私もにこにこ歩く。人通りが多いのを懸命に避けながら歩いていたつもりだったけど、電話しながら歩くサラリーマンとうまくすれ違えずにぶつかった。
「あ、すみません」
「失礼」
反射的に言って、互いの目が合う。
「ーーえ」
「あれ。お前」
阿久津さんだった。
阿久津さんは私の隣に立つ津田ちゃんを見て、また私の顔を見る。
私の顔から血の気が引いた。
「ち、違うんです。阿久津さん、彼はーー」
「ああ、そう」
阿久津さんの反応は淡々としていた。
「行ってらっしゃい」
無表情に言うと、電話を耳元に当て、また歩き出す。
「美郷。遅れて悪いな。今から行く」
みさと?
って、女の人の名前?
どういうこと? どういうこと? どういうことー!?
混乱状態の私を置いて、阿久津さんは足早に過ぎ去った。
一度も振り向くことなく。
「……ヒメちゃん、大丈夫?」
胸も頭もぐるぐるぐちゃぐちゃで、唖然と立ち尽くす私に、津田ちゃんが恐る恐る、声をかけてくる。
大丈夫じゃない。と、答えたかったけど、私は泣きそうな顔に無理矢理笑顔を浮かべた。
「な、何でもない。大丈夫ぅ」
大丈夫じゃない。
全然、大丈夫じゃない。
本当だったら今からでも走って行って、後ろから抱き着いて、弁解して、行かないでって追いすがって、それでーー
人災あり。
占いの言葉が脳裏をかすめた。
信じるべき人を信じなさい。
もう見えなくなった背中を、それでもまだ探そうと目が泳いでいたけど、ゆっくりとうつむく。
「……ヒメちゃん?」
私は一つ、息を吐いた。
信じなきゃ。信じるんだ。信じるべき人。信じたい人。
「ごめんね、行こっか」
私は笑って、また歩き出す。
「お腹空いたぁ。お店、何屋さん?」
津田ちゃんはちょっと困惑した顔をした後、また足を進め始める。
「スペイン料理だよ。パエリアとか、好き?」
「あ、いいねぇ。アヒージョとか。食べるぞぉ」
私は笑った。後ろ髪を引かれる想いを、ガッツポーズでごまかした。
0
あなたにおすすめの小説
叱られた冷淡御曹司は甘々御曹司へと成長する
花里 美佐
恋愛
冷淡財閥御曹司VS失業中の華道家
結婚に興味のない財閥御曹司は見合いを断り続けてきた。ある日、祖母の師匠である華道家の孫娘を紹介された。面と向かって彼の失礼な態度を指摘した彼女に興味を抱いた彼は、自分の財閥で花を活ける仕事を紹介する。
愛を知った財閥御曹司は彼女のために冷淡さをかなぐり捨て、甘く変貌していく。
ズボラ上司の甘い罠
松田丹子(まつだにこ)
恋愛
小松春菜の上司、小野田は、無精髭に瓶底眼鏡、乱れた髪にゆるいネクタイ。
仕事はできる人なのに、あまりにももったいない!
かと思えば、イメチェンして来た課長はタイプど真ん中。
やばい。見惚れる。一体これで仕事になるのか?
上司の魅力から逃れようとしながら逃れきれず溺愛される、自分に自信のないフツーの女子の話。になる予定。
溺婚
明日葉
恋愛
香月絢佳、37歳、独身。晩婚化が進んでいるとはいえ、さすがにもう、無理かなぁ、と残念には思うが焦る気にもならず。まあ、恋愛体質じゃないし、と。
以前階段落ちから助けてくれたイケメンに、馴染みの店で再会するものの、この状況では向こうの印象がよろしいはずもないしと期待もしなかったのだが。
イケメン、天羽疾矢はどうやら絢佳に惹かれてしまったようで。
「歳も歳だし、とりあえず試してみたら?こわいの?」と、挑発されればつい、売り言葉に買い言葉。
何がどうしてこうなった?
平凡に生きたい、でもま、老後に1人は嫌だなぁ、くらいに構えた恋愛偏差値最底辺の絢佳と、こう見えて仕事人間のイケメン疾矢。振り回しているのは果たしてどっちで、振り回されてるのは、果たしてどっち?
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
明日のために、昨日にサヨナラ(goodbye,hello)
松田丹子(まつだにこ)
恋愛
スパダリな父、優しい長兄、愛想のいい次兄、チャラい従兄に囲まれて、男に抱く理想が高くなってしまった女子高生、橘礼奈。
平凡な自分に見合うフツーな高校生活をエンジョイしようと…思っているはずなのに、幼い頃から抱いていた淡い想いを自覚せざるを得なくなり……
恋愛、家族愛、友情、部活に進路……
緩やかでほんのり甘い青春模様。
*関連作品は下記の通りです。単体でお読みいただけるようにしているつもりです(が、ひたすらキャラクターが多いのであまりオススメできません…)
★展開の都合上、礼奈の誕生日は親世代の作品と齟齬があります。一種のパラレルワールドとしてご了承いただければ幸いです。
*関連作品
『神崎くんは残念なイケメン』(香子視点)
『モテ男とデキ女の奥手な恋』(政人視点)
上記二作を読めばキャラクターは押さえられると思います。
(以降、時系列順『物狂ほしや色と情』、『期待ハズレな吉田さん、自由人な前田くん』、『さくやこの』、『爆走織姫はやさぐれ彦星と結ばれたい』、『色ハくれなゐ 情ハ愛』、『初恋旅行に出かけます』)
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜
瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。
まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。
息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。
あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。
夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで……
夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる