爆走織姫はやさぐれ彦星と結ばれたい!

松田丹子(まつだにこ)

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第七章 織り姫危機一髪。(ヒメ/阿久津交互)

07 運命の悪戯

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 小児科での仕事を終えた後、少しだけ時間を潰してから、私は津田ちゃんと待ち合わせしているS駅に向かった。
 S駅はオフィス街だけど、主要駅で人も多い。また何かトラブルに巻き込まれることのないよう、今日は肌の露出が少ない服を選んだ。
 今朝の占いもイマイチだった。
 人災あり、信じるべき人を信じなさい。
 信じるべき人って誰よ、と思わず眉を寄せる。
 占いの言葉って、ときどき何を意味しているのか分からない。
 ラッキーアイテムは旧友だった。これは津田ちゃんに会うからオッケー、と一人頷いたことを思い出す。
 駅に着いたのは約束の十分前だったけど、出張が早めに終わった津田ちゃんはもう着いていたようだ。改札口を出て互いを認めるなり、手をあげて微笑んだ。
「久しぶり。元気だった?」
 ありきたりと分かりながら、私は浮き立つ声で言う。
 仲がよかった友人を前にして、気分が上がるのは当然のことだ。
「うん。そっちは?」
「元気元気」
 両拳を握り、顔の脇に掲げて見せる。津田ちゃんは学生時代と変わらないにこにこ笑顔でしばらく私を見た後、改札と逆側を指差した。
「行こうか」
「うん」
「お店、適当に選んだけどよかった?」
「うん、むしろ都内に勤めてるの私なのに、ごめんね。探してくれてありがとう」
 私が言うと、津田ちゃんはにこりと笑った。
 癒されるんだよね、この笑顔。あんまり話すタイプじゃないんだけど、津田ちゃんはいつもにこにこしていて、たまにちょっとずれたことを言ってみんなを笑わせて和ませてくれたりもした。
 一家に一台……とまでは言わないけど、同じ場にいると落ち着く人だ。
「お腹空いちゃった。津田ちゃんも?」
「うん、俺も空いた」
「いっぱい食べよー」
「そうだね」
 ゆるい会話を交わしながら、津田ちゃんの隣を歩いていく。津田ちゃんの身長は平均的だろうけど、私が小さいから気遣かってくれているのがわかる。でもそれも厭味なくて、これまたありがたい。
「津田ちゃんのスーツ姿、新鮮。卒業式では着てたけど」
「ああ、そうだよね。就活のときはあんまり会わなかったしね」
「うん」
 にこにこの津田ちゃんの隣で、私もにこにこ歩く。人通りが多いのを懸命に避けながら歩いていたつもりだったけど、電話しながら歩くサラリーマンとうまくすれ違えずにぶつかった。
「あ、すみません」
「失礼」
 反射的に言って、互いの目が合う。
「ーーえ」
「あれ。お前」
 阿久津さんだった。
 阿久津さんは私の隣に立つ津田ちゃんを見て、また私の顔を見る。
 私の顔から血の気が引いた。
「ち、違うんです。阿久津さん、彼はーー」
「ああ、そう」
 阿久津さんの反応は淡々としていた。
「行ってらっしゃい」
 無表情に言うと、電話を耳元に当て、また歩き出す。
「美郷。遅れて悪いな。今から行く」
 みさと?
 って、女の人の名前?
 どういうこと? どういうこと? どういうことー!?
 混乱状態の私を置いて、阿久津さんは足早に過ぎ去った。
 一度も振り向くことなく。
「……ヒメちゃん、大丈夫?」
 胸も頭もぐるぐるぐちゃぐちゃで、唖然と立ち尽くす私に、津田ちゃんが恐る恐る、声をかけてくる。
 大丈夫じゃない。と、答えたかったけど、私は泣きそうな顔に無理矢理笑顔を浮かべた。
「な、何でもない。大丈夫ぅ」
 大丈夫じゃない。
 全然、大丈夫じゃない。
 本当だったら今からでも走って行って、後ろから抱き着いて、弁解して、行かないでって追いすがって、それでーー
 人災あり。
 占いの言葉が脳裏をかすめた。
 信じるべき人を信じなさい。
 もう見えなくなった背中を、それでもまだ探そうと目が泳いでいたけど、ゆっくりとうつむく。
「……ヒメちゃん?」
 私は一つ、息を吐いた。
 信じなきゃ。信じるんだ。信じるべき人。信じたい人。
「ごめんね、行こっか」
 私は笑って、また歩き出す。
「お腹空いたぁ。お店、何屋さん?」
 津田ちゃんはちょっと困惑した顔をした後、また足を進め始める。
「スペイン料理だよ。パエリアとか、好き?」
「あ、いいねぇ。アヒージョとか。食べるぞぉ」
 私は笑った。後ろ髪を引かれる想いを、ガッツポーズでごまかした。
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