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第七章 織り姫危機一髪。(ヒメ/阿久津交互)
16 リラックスタイム
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【ホテル街で大立ち回り演じたって?】
翌朝、マーシーから届いたメッセージに、俺は渋面になった。
誰から聞いた。なんて、言わずにも分かる。どうせジョーかヨーコさんだろう。
【ジョーが正義の味方のように現れてくれたよ】
返すと、電話が来る。
「……もしもし」
『ああ、でもまあ、話せるなら大丈夫だな』
第一声がそれかよ、とつっこみたくなったが、俺は黙る。この男が実は俺以上に喧嘩の経験があることを、何かの弾みに聞き知っている。
『久々だったろ、喧嘩も』
「中学以来だよ」
『だよなぁ』
マーシーが笑う横から、子どもの声が聞こえる。「おとーさん、だれー?」「ジョー兄ちゃん? 隼人お兄ちゃん?」俺は思わず微笑んで目を閉じた。夫婦の面差しが入り混ざった二人の少年の姿がまぶたに思い浮かぶ。
平和だなぁ。
昨夜の大立ち回りなど嘘のようだ。ネオンライトのドギツイ明かりも、居酒屋から聞こえる喧騒も。今、一人で静かに自分の家にいることが不思議な気がする。
『ま、大事無いならよかった。もし病院に同伴必要ならと思って連絡したんだ。朝起きたら起き上がれないとか、有り得るかと思ってさ』
「あーそうかよ。独り身の心配ご苦労さん」
『そうふて腐れるなよ』
マーシーは笑ってから、不意に声のトーンを落とした。
『ぼちぼち、独り身を卒業するのもいいんじゃないの?』
俺は眉を寄せる。
「どういう意味だよ」
『大した意味はないよ。頭から否定せず、前向きに考えてみたら、ってだけ』
マーシーの周りで、子どもたちが騒ぐ。「おとーさん、公園行くんじゃないのー? 約束したよ」「やくそく、やくそくー!」それを宥めて、マーシーが苦笑する気配がする。
『ゆっくり話せなくて悪いな。また会社で』
「ああ。まあ家族サービスがんばって」
『そうする。あ、その件で一つアドバイス』
「何だよ」
『子育て、体力要るから鍛えとけよ。もう四十じゃなくてまだ四十だろ。細っこい男二人相手に負けるようじゃまだまだだな』
冗談めかして言って、マーシーはじゃあなと一方的に電話を切ろうとした。
「あ、ちょっと待った」
『何だ?』
「橘女史に言付けたいんだけど」
マーシーに言付けると、笑って了解と返ってきた。
電話を切ると、嘆息する。
「ったく。どうして俺に子どもって話になるんだよ」
俺はスマホをベッドに放って毒づいた。
ベッドに落ちたスマホを見ながら、ふと思い出す。
澤田の友達という男の顔を。
ベッドに横たわり、スマホを眺める。
伝えただろうか。自分の気持ちを。
目を閉じると、俺を見上げる澤田を思い出した。
涙で潤んだ目、安堵と喜びの笑顔。
同時に、シャツにしがみつく柔らかな温もり。
腹部に押し付けられた二つの膨らみ。
「ーーく、っそ」
俺は慌ててスマホを手に取る。待て俺。落ち着け。いや落ち着いてる。俺は落ち着いている。朝だから元気になっただけだ。ただの生理現象だ。昨夜久々に張り切るつもりだったムスコが覚醒しただけで、決して昨夜の澤田を思い出して欲情した訳ではない。断じて、ない。
自分に言い聞かせながらスマホをタップし、オカズになりそうな素材を探し出そうとする。
全く澤田を感じさせない女を拾いだそうと苦心するうちに、すっかり気持ちは萎えていた。
翌朝、マーシーから届いたメッセージに、俺は渋面になった。
誰から聞いた。なんて、言わずにも分かる。どうせジョーかヨーコさんだろう。
【ジョーが正義の味方のように現れてくれたよ】
返すと、電話が来る。
「……もしもし」
『ああ、でもまあ、話せるなら大丈夫だな』
第一声がそれかよ、とつっこみたくなったが、俺は黙る。この男が実は俺以上に喧嘩の経験があることを、何かの弾みに聞き知っている。
『久々だったろ、喧嘩も』
「中学以来だよ」
『だよなぁ』
マーシーが笑う横から、子どもの声が聞こえる。「おとーさん、だれー?」「ジョー兄ちゃん? 隼人お兄ちゃん?」俺は思わず微笑んで目を閉じた。夫婦の面差しが入り混ざった二人の少年の姿がまぶたに思い浮かぶ。
平和だなぁ。
昨夜の大立ち回りなど嘘のようだ。ネオンライトのドギツイ明かりも、居酒屋から聞こえる喧騒も。今、一人で静かに自分の家にいることが不思議な気がする。
『ま、大事無いならよかった。もし病院に同伴必要ならと思って連絡したんだ。朝起きたら起き上がれないとか、有り得るかと思ってさ』
「あーそうかよ。独り身の心配ご苦労さん」
『そうふて腐れるなよ』
マーシーは笑ってから、不意に声のトーンを落とした。
『ぼちぼち、独り身を卒業するのもいいんじゃないの?』
俺は眉を寄せる。
「どういう意味だよ」
『大した意味はないよ。頭から否定せず、前向きに考えてみたら、ってだけ』
マーシーの周りで、子どもたちが騒ぐ。「おとーさん、公園行くんじゃないのー? 約束したよ」「やくそく、やくそくー!」それを宥めて、マーシーが苦笑する気配がする。
『ゆっくり話せなくて悪いな。また会社で』
「ああ。まあ家族サービスがんばって」
『そうする。あ、その件で一つアドバイス』
「何だよ」
『子育て、体力要るから鍛えとけよ。もう四十じゃなくてまだ四十だろ。細っこい男二人相手に負けるようじゃまだまだだな』
冗談めかして言って、マーシーはじゃあなと一方的に電話を切ろうとした。
「あ、ちょっと待った」
『何だ?』
「橘女史に言付けたいんだけど」
マーシーに言付けると、笑って了解と返ってきた。
電話を切ると、嘆息する。
「ったく。どうして俺に子どもって話になるんだよ」
俺はスマホをベッドに放って毒づいた。
ベッドに落ちたスマホを見ながら、ふと思い出す。
澤田の友達という男の顔を。
ベッドに横たわり、スマホを眺める。
伝えただろうか。自分の気持ちを。
目を閉じると、俺を見上げる澤田を思い出した。
涙で潤んだ目、安堵と喜びの笑顔。
同時に、シャツにしがみつく柔らかな温もり。
腹部に押し付けられた二つの膨らみ。
「ーーく、っそ」
俺は慌ててスマホを手に取る。待て俺。落ち着け。いや落ち着いてる。俺は落ち着いている。朝だから元気になっただけだ。ただの生理現象だ。昨夜久々に張り切るつもりだったムスコが覚醒しただけで、決して昨夜の澤田を思い出して欲情した訳ではない。断じて、ない。
自分に言い聞かせながらスマホをタップし、オカズになりそうな素材を探し出そうとする。
全く澤田を感じさせない女を拾いだそうと苦心するうちに、すっかり気持ちは萎えていた。
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