爆走織姫はやさぐれ彦星と結ばれたい!

松田丹子(まつだにこ)

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第十章 つぶらな瞳にとらわれて(阿久津視点)

03 プレゼントの選び方 その弐

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 クリスマスまであと十日を切った頃、俺は大変消耗していた。
 極力気にしないようにしているのだが、どうしてもクリスマス関係の広告が目に入る。イルミネーションもいちいち胸をえぐった。
 俺って意外とセンシティブだったんだなぁ。
 と他人事のように思おうにも、クリスマスが近づくにつれ膨れ上がる罪悪感と、自分への苛立ちに苛まれる。
 そんな俺に気づいたのか、マーシーが飲みに行こうと言い出した。
「いいのかよ、お前。子どももいるくせに」
「長く飲むつもりじゃねぇよ。夕飯食うだけ、ってくらいで思っとけ」
 そんな会話を交わしていると、またジョーがひょこりと顔を出した。
「あ、いっすね。俺もセンパイ達に相談したいことがあるんすよ!」
 マーシーと俺はとたんに嫌な顔をした。

 マーシーが、夕飯だけ、と宣言したこともあり、乾杯のビールは素通りした。マーシーとジョーが好きなハイボールを頼むと、俺も便乗する。
「珍しいな」
「たまにはな」
 言いながら、甘い香りを楽しみつつ喉に流し込むと、ジョーが大まじめな顔をして俺たちを見た。
「で、相談したいことなんですけど」
 俺とマーシーはちらりと視線を交わした。互いの視線からは、ジョーの話を聞くのは気が向かないと思っていることが分かるが、だから何を言うわけでもな。
「ヨーコさんへのクリスマスプレゼント、何がいいかと思って」
 あー、やっぱりな。
 隣のマーシーもそう思っているのがはっきりわかった。
「もう結婚して三年だろ。好きに贈れば」
「だってせっかくだから喜ばせたいじゃないですかー」
「今まで何あげたの」
「ええとね」
 ジョーは愛妻の姿を思い浮かべているのだろう。とろんとした目をしながら、妻の好きな芸術家の画集や、集めている作家のサイン本、書きやすい万年筆などを挙げる。
 意外と硬派なものあげんだな。
 思いながら黙って聞いていたのだが、マーシーはふぅんと気のない相槌をうつや、
「それと?」
「えっ」
 ジョーはうろたえて赤くなる。
「お、お見通しっすか? やだなぁマーシーってば」
「お前がそれだけで終わりにするとは到底思えない」
 ああ、そういうことか。
 俺は思わず目をそらす。どうせ何かを想像したら、またジョーが負のオーラを放って俺を脅すに違いない。
「で? その他には?」
「だ、駄目ですよ。内緒です。俺だけの楽しみなんですから。ーーっていってもその一回しか着てくれないけどーーでも、一度見ればもうこっちのもんですからね、何度でも楽しめますから」
 拳を握って恍惚とした表情をするジョーを、マーシーは呆れながら見ている。
「で、俺たちに相談したいのは、どっちのプレゼントのことなの?」
 問われたジョーは我に返ったようにはっとした。
「うわ、そっか。どっちにしろやめときます」
「ああ、そうして」
「うん、それがいい」
 俺とマーシーは内心ほっと胸を撫で下ろした。
「で、阿久津はどうなのよ」
 次いで振られて、俺は目をそらす。
「なんか最近憔悴してるなーと思ってな。今までクリスマスなんて関係ないって顔してた癖に」
「関係ねぇよ、今年だって」
 言うや、ずきりと胸が痛む。
 くっそ。俺はこんなにお人よしだったのか?
「ヒメちゃんくらいの歳の子って、好きですよねぇ。そういうイベント」
 ジョーが丸い目をくりくりと動かしながら言った。俺は舌打ちする。
 二人には、澤田とのつき合いがどうなったかなどいちいち報告していない。
「何で澤田の話になんだよ」
 俺がむすっとしたまま言うと、
「ふぅん」
 マーシーがにやにやして俺を見ていた。
 俺はそれをにらみ返す。
「……マーシー。お前、なんか知ってることでもあんの?」
「いやぁ。別にぃ」
 ご機嫌に返されて、俺はますます不機嫌になった。

 酒は各自一杯で切り上げて、三人で店を出た。
 駅だけでなく街並も、色とりどりのイルミネーションが期間限定で輝いている。男三人で歩くにはいまいち落ち着かない街並みだ。
「そういや、この頃なんじゃなかったっすか?」
 不意にジョーが言った。
 マーシーが何がだ、と問う。
「アーヤとマーシーが急接近したの」
 マーシーが一瞬動揺し、わざとらしく咳ばらいをした。
 俺はそれを見ながら笑う。
「クリスマスねぇ。定番だな」
「うるせぇよ。別にクリスマスにどうこうなった訳じゃねぇ」
「はいはい」
 マーシーがにらみ返して来るが、照れていてすごみも何もない。
 平和なこった。
 俺はまた笑う。
 八年前の今頃か。マーシーたちが距離を縮めたのは。
 俺はポケットに手をつっこみ、ジョーを小突くマーシーの横顔を見やる。
「あー、寒」
 ジョーが首元をすくめて言った。その息が白くなびく。
「早く帰ってあったまりたい」
「ヨーコさんでか?」
「当然でしょ」
 あっさり返す後輩を、今度は俺が小突いた。
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