爆走織姫はやさぐれ彦星と結ばれたい!

松田丹子(まつだにこ)

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第十一章 織姫は彦星にどうしても抱かれたい(ヒメ視点)

06 大小の手

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 トンネルの橙色の明かりが、次々現れては後ろに流れていく。前にいる車との車間距離もライトの具合もほとんど変わらず、ただひたすらまっすぐな道。
 こ、これは……キケン。
「眠ければ寝ててもいいぞ。中継所ついたら起こしてやるよ」
「だ、ダイジョウブデス」
 ついつい言葉がカタコトになる。が、回りに代わり映えする気配はない。
「み、光彦さん。音楽でも」
「ラジオはほとんど拾えないし、音楽再生機なんかないぞ」
「ぐっ……」
 私は喉の奥で呻いた。私も音楽を聞きながら過ごす習慣がないので、スマホにも特段入っていない。
「だからおとなしく寝てろって。俺は大丈夫だから」
 光彦さんは呆れたような顔で言った。その顔が橙色のライトで照らされている。
 朝なのに夕陽に照らされているような感覚に、身体も心も解け始めるのを感じる。まずい。眠っちゃまずい。起きてなくっちゃ。思うけど、まぶたがだんだん重くなってきた。
 でもでも、人に運転させといて、自分だけ眠るわけには。
「どうせ楽しみで眠れなかったとか言うんだろ。現地着いたら楽しめるようにしとけ」
 光彦さんは言って、それ以上は口を閉ざした。
 車が走っていく音、ときどきカタンカタンと言う音だけが耳に届いては子守唄のように私を眠りへ誘う。
 結局私は、知らない内に眠ってしまった。

 しばらくして、頬を撫でられる気配に目が覚めた。
 ぼんやりと目を開くと、光彦さんが微笑んでいる。
「起きたか?」
 ぅわ。
 小さく囁くような声がセクシーすぎて、脳天まで響く。
 ぼっと顔が赤くなった。
「よく眠ってたな」
「え、え、今何時ですか」
「十二時」
「えっ」
 一時間以上眠っていたらしい。
 私はきょろきょろと見回した。車がずらりと駐車しているが、まだ海中を出たわけではないらしい。
 光彦さんが言っていた中継地点か、と思い当たる。
 私はおずおずと光彦さんを見つめた。
「ここに着いたのは?」
「十一時過ぎかな。半にはなってなかったと思う」
「お、起きるまで待っててくれたんですか?」
「いや、俺も少し休んでた」
 光彦さんは言って、うーんと伸びをした。見ると、確かに運転席のシートが少し倒れているし、靴も脱いでいるらしい。
「長距離運転すると、足に来るよな」
 シートの上にあぐらをかくと、光彦さんは残っていたらしいコーヒーを飲み干した。
「さて。お前、おにぎり持って来たんだったか?」
「あ、はい。持ってきました」
 私は後部座席に手を伸ばした。けど、目的のかばんは遠くて届かない。
 光彦さんがひょいと後ろに伸ばした手でそれを掴んだ。
「これ?」
「あ、はい。そうです」
「どうする、ここで食う? ここ食堂かなんかあったと思うけど、行ってみる?」
「ほんとにおにぎりだけなんで、それだけ食べて、何かあるか見にいってみたいです」
 光彦さんは頷いた。私はかばんの中からおにぎりを取りだして差し出す。
「お前握ったの?」
「はい」
「小っさ」
 光彦さんは笑った。
「ちょっと、手貸して」
 言われて手を差し出すと、くるりと指先を上に向けられ、光彦さんの手と重ねられる。
 てのひらが始まる部分は同じ高さにあるのに、私の指先は光彦さんの第一間接よりも下にあった。
「なるほどなぁ」
 光彦さんが楽しそうに笑い、手を離す。そんな自然な表情が嬉しくて、私もついつい笑顔になる。
「さ、食って行くか。多分、海産物の加工品とかあると思うぞ」
「あ、ありそうですね。楽しみ」
 言いながら、私たちは小さいおにぎりを食べ始めた。
 光彦さんに至っては、二、三口で食べきってしまう大きさだったけど、ちょっと多めにつくってきたから、ほとんど彼に食べてもらうことになった。
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