爆走織姫はやさぐれ彦星と結ばれたい!

松田丹子(まつだにこ)

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第十二章 彦星は夜の訪れが怖い(阿久津視点)

02 二人で過ごす7月7日 その弐

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 アルコールはほどほどに、会話と食事を楽しんだ。ホテルに入ったときにはまだ暗くなりきっていなかった窓の外が、完全に夜の様相になってくる。
「次はデザートをお持ちします。お飲みものはどうなさいますか?」
「私は紅茶を……」
「コーヒーで」
「かしこまりました」
 ウェイターが部屋を出るとき、ちらりと目配せをした。にこりと笑顔が返ってきて、俺も微笑む。
「少し外見るか?」
「はい。あー、お腹いっぱい」
 部屋に二人きりになると、澤田はぴょこんと椅子から下りて、窓際に向かった。俺もその横に立つ。
「これで、天の川が見えれば最高なのに」
「そうだなぁ」
 明るい部屋から外を見ると、光の反射で夜景よりも自分たちの姿の方がよく見える。平均よりも高い身長の俺と平均よりも低い身長の澤田が並ぶと、親子みたいだ。ーー年齢的にも。
 つい苦笑しながら、窓の外を丸い目で見つめる澤田を見下ろした。色素の薄い髪がふんわりと肩にかかっている。その髪を指先ですくい、背中へ流す。
 澤田がちらりと俺を見上げて、照れ臭そうに微笑んだ。
 ちか、と一瞬電気が揺らぐ。
「あれ? 今ーー」
 驚く澤田の肩を、俺の手が包む。
 電気が消えた。
「え? え?」
 慌てる澤田を腕の中に収め、俺は喉の奥で笑った。
「外、この方がよく見えるだろ」
 腕の中で澤田が俺を見上げる。真ん丸い目に夜景のライトが反射していた。俺と視線が合うと、ほっとしたように笑った。
「もぅ。驚かして」
「喜ぶと思ってさ」
 言いながら、外を見る。
 心臓の高鳴りがうるさいくらいだった。
 背中から抱き抱えられた形の澤田が、俺の胸に背中を預ける。
 早鐘を刻む鼓動が彼女にも気付かれてしまうのではないかと心配になったが、それでもいいか、とも思った。
 いまさら、格好つける必要もない。
 そう思いながらも、しっかりこの日を演出しようとしている自分がいじましいが。
「天の川の代わりだよ」
「え?」
 静かに夜景を眺めながら言ったとき、澤田がまた丸い目を丸くした。
「空の星は見えないけど、これが今日の天の川。……てのはどう?」
 言いながら、抱きしめる腕に力を込め、頬に頬を寄せる。
「ーーヒメ」
 耳元で囁くと、澤田がふるりと震えた。
 腕の中で反転して、俺の首に抱き着く。
「……どうした?」
 抱き留めて優しく問い掛けると、俺の肩に顔をすりつけるように首を振った。
「……もー」
 上擦った声で、澤田が言う。
「もー、やだぁ」
 言って少しだけ離れると、くしゃりと笑った。
「素敵すぎて、ドキドキしちゃう。心臓が出てきそう」
 ほら、と言って俺の手をとり、胸の膨らみの少し上に添える。
「分かんねぇよ」
「えー? ドキドキいってるでしょ」
「俺もいってるから、分かんねぇ」
 澤田は目をぱちぱちさせた。
 次いで、声をあげて笑う。
「そうなんだ、よかった。私ひとり、ドキドキしてるのかと思った」
 話していると、コンコンとドアをノックする音がした。
「お願いします」
 俺が答えると、澤田は俺の肘に手を添えて俺の顔を見上げ、そして開いたドアを見る。
 ケーキの上に、小さな花火。
 暗い部屋の中で、ちかちかとまたたくそれが、机の上に置かれる。
 ウェイターは一度お辞儀をしてまた部屋を去った。
「うわぁ」
 澤田が嬉しそうに笑って、机に近づいた。
 俺もその横に寄り添う。
「何か書いてある。何て書いてあるんですか?」
 皿に描かれた文字を見て、澤田が俺を見上げた。
「Need you」
 耳元に口を寄せて囁く。
 机の上についた澤田の左手を掬い上げ、その薬指にリングをはめ込んだ。
「俺の家族になってくれ」
 できるだけ静かに、そして一気に言う。
 ためらうと、つっかえてしまいそうだった。
 澤田は花火に照らされた丸い目で俺を見上げ、自分の薬指にはまった指輪を見て、また俺を見上げた。
 そして、くしゃりと笑う。
「喜んで!」
 言うや、首元に飛びついてきた。
 俺は慌ててその身体を抱き留める。
 花火はちょうど燃えきって、小さな瞬きは止まった。
 ゆっくりとその背中を撫で、目と目を合わせて笑い合う。
 柔らかい髪に手を差し込んで引き寄せ、唇を重ねた。
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