爆走織姫はやさぐれ彦星と結ばれたい!

松田丹子(まつだにこ)

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第十三章 マイスイートホーム(ヒメ視点)

09 七夕の贈り物(終)

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 それから五年後。
 私は3歳の男の子と2歳の女の子のママになった。
 必然的に、光彦さんも二児のパパになった。
 45になった光彦さんは、釣り上がっていた目尻がだんだん下がってきたような気がする。
 歳かな、なんて本人は言ってるけど、多分パパになったからじゃないかな、と私は思う。
 自覚はないらしいけど、子どもたちに見せる光彦さんの顔はデレデレだ。
 私が嫉妬しちゃうくらい。
 やっぱり、結婚後すぐ子作りしなくてよかった。なんて、自分の功績を讃える。
 阿久津の両親も、澤田の両親も、孫たちをすっかり甘やかして可愛がってくれていて、ありがた迷惑なときもあるけど、こういうのが幸せっていうのかな、なんて、毎日子どもたちを追いかけながら思っている。

幸彦ゆきひこ、それ瑞姫みずきが遊んでたんでしょ。取らないの」
「やだー! これするの!」
「もー。じゃあ、瑞姫に一つ貸してあげて」
「これ」
「はい、お兄ちゃんがこれどうぞって。ありがとうは?」
「ありぁと」
 子どもの遊びにつきあっていた私は、ふと時計を見て腰を上げた。
「パパ、今日ははやく帰ってくるって言ってたけど、どうかしらね」
 言いながら、台所に向かう。
 実は光彦さんに報告しなきゃいけないことがあって、反応を楽しみにしている。
 夕飯を作りながら、子どもたちの様子を見て、喧嘩を始めたら慌てて火を止め仲裁に行って、また料理に戻って。
 毎日ばたばただけど、どんなに疲れていても話を聞いてくれる光彦さんのおかげで、爆発しないで済んでいる。
 玄関で鍵が開く音がした。
「あっ、誰来た?」
「パパー!!」
 子どもたちが、ぱたぱたと玄関へ向かう。
 帰ってきた光彦さんは、靴も脱がずに駆け寄ってくる二人を抱きしめると、目を上げて私に笑った。
「ただいま」
「おかえりなさい。ほんとに早かったね」
「出張後直帰だったからな」
 言いながら靴を脱ぐ。子どもたちが、まだ文章になりきらない言葉で、本人なりに今日の出来事を報告している。
 光彦さんは相槌を打ってそれに答えながら、ジャケットを脱いで玄関先に引っ掛けると、私に手を伸ばした。
 行きと帰りのハグは、我が家の約束事にしている。
 ケンカ中でもご機嫌斜めでも遅刻寸前でも、必ず七秒のハグ。
 ぎゅ、と抱きしめられて、抱きしめ返す。
「おかえり」
「ただいま」
 目を閉じて、改めて言って、温もりを感じる。子どもたちが脚の周りに抱き着いてきて引っ張る。ぐいぐい引っ張られて引きはがされ、二人で笑った。
「力が強くなったなぁ」
「そうだよー。もう、ママ負けそう」
「弱いからな、ヒメは」
「ママはゆきがまもるー!」
 今お気に入りのポーズを取る息子の頭を、光彦さんが笑って撫でた。

 * * *

 子どもたちを寝かしつけて、寝室から戻ってくると、光彦さんが机上に資料を広げていた。
「仕事?」
「ああ、うん。……ちょっと確認しただけ」
「大丈夫だったの、はやく帰ってきて」
「一日はやく帰って来たくらいで回らないんじゃ、それこそまずいだろ」
 確かにそれもそうだけど。と思いながら、お茶を入れにキッチンへ向かう。
「お茶、飲む?」
「もらう」
 お茶を入れてお盆に並べ、紙に挟んだそれを手に持つ。
 この瞬間は、いつもちょっとだけ、うきうきする。
「はい」
「ありがと」
 資料をしまってお茶を受けとった光彦さんの前に、紙を差し出す。
 光彦さんが私の言葉を求めるように目を上げた。
 私は思わずにやにやしながら、前の椅子に腰掛ける。
「見てみて」
 光彦さんが紙を開くと、白黒のエコー写真。
「今、8週目だって」
 光彦さんはまばたきして、照れ臭そうに微笑んだ。
「……できたんだ」
「うん。二週間後、心音確認」
「検診、行けるの。二人連れて」
「お母さんに一人預けるから、大丈夫」
 光彦さんは、エコー写真が挟まっていた紙を広げた。
「次回、予定日確定だけど、4月だって」
「4月? 俺と一緒だな」
「うん。ーー誕生日プレゼントにできるかな」
「三人目を?」
「うん」
 光彦さんは笑った。
「そういう発想はなかったな」
 言って、立ち上がると私の後ろに回り込み、抱きしめる。
「……母子共に無事ならなんでもいいよ」
「ふふ。そうだね」
 私は頷いて、その腕に身体を預けた。
「光彦さん」
「何?」
「幸せ」
 光彦さんは笑って、私の額にキスを落とす。
「俺も」
 呟くように言って、ぎゅっと抱きしめた。
 さすがに五年も経つと、言葉にするのにも慣れてきたらしい。こうして私に答えてくれることも増えた。
「順調だったら、育休取ろうかな」
「え?」
「もう最後のチャンスだと思うし。一ヶ月くらいならどうにかなるんじゃない?」
「……私、専業主婦だけど」
「それでも取れるらしいよ。後輩が言ってた」
「へぇ、そうなんだ」
 私が顔を上げると、光彦さんのキスが降ってくる。
 触れるだけのそれが物足りなくて、離れた頭を抱き寄せた。
「もっと」
「え? だって妊娠……」
「まだ気付かない人もいるくらい初期だもん。大丈夫」
 つわりもほぼない私は、一人目の妊娠中ギリギリまで光彦さんを求めたくらいだ。逆に臨月近くになると、「俺が怖い」と言って挿入まではしてくれなかったけれど。
「あのときの子かなぁ」
「あのとき?」
「私の誕生日」

 30歳の誕生日。プレゼントは何がいいかと、聞かれて答えるのを忘れていた私は、光彦さんにおねだりしたのだ。
 もう一人、どうかな? って。
 光彦さんは少し驚いた顔で、「子育て大変そうだから、もう二人でいいのかと思ってた」と言った後、照れたように笑った。
「俺も思ってた。もう一人くらい、いてもいいかなって」
 私たちの、愛の証。
「でも、お金、心配じゃない?」
「大丈夫だろ。株もあるし」
 そう、結婚するまで知らなかったのだけど、光彦さんは投資の趣味もセンスもあるらしい。
「みんな結婚してたから、遊んでくれる人もいないしな。株に遊んでもらってた」
 とにやりと笑って言われたときには、驚いたものだ。

「どうかな。その後のかもよ?」
「ふふ。どうだろうね」
 言いながら、光彦さんは私の身体をまさぐってくる。
 胸に顔を埋めて、吐息をついた。
「せっかく俺のものに戻ったところなのに、また取られるのか……」
 私は笑う。
「ほんとにもー。パパも子どもたちも、好きよねぇ」
「そりゃ、好きだよ」
 光彦さんは笑いながら私の胸に触れ、、腰を引き寄せた。
「じゃ、今のうちに存分に堪能しておくか」
「うん、そうして」
 見つめ合って、唇を合わせる。
 濃厚なキスから始まる夜は、まだ始まったばかりだ。

 FIN.
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