爆走織姫はやさぐれ彦星と結ばれたい!

松田丹子(まつだにこ)

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第一章 織姫前線上昇中!(ヒメ視点)

03 張り込みの成果 その壱

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 そんな訳でーー張り込みなのである。
 そう、彼が降りた駅で。改札口の前で。駅には二つ改札があるが、先日彼が向かっていた方向にある階段からはこっちの改札にしか行けないはず。
 私が見かけた時間の二十分前から、出勤時間ギリギリの電車までひたすら待ち構えることーー本日、三日目。
 ストーカー? 言うなら勝手にどうぞ。私だって必死なの、彦星様に会うためなんだから!
 そう、私はさながら、天気に恵まれず最愛の人との逢瀬を赦されない織姫。でも、昨今の女は与えられるチャンスに甘んじるだけではいけない。運命の悪戯にも惑わされず、自力で道を拓くのよ!
 拳を握りしめたとき、また電車が着いたようだ。改札口が雑踏で賑わう。
 ーーいた!
 声をかけようと思って息を吸い込んだけれど、その人は残念なことに私のいる方と逆寄りの改札口を出ていってしまった。
「ま、待ってください!」
 慌てて叫んだけれど、あんまり地声が大きくない私の声は、雑踏に紛れた。
 彼に届く訳もなくーーその日また、彼を見失ったのだった。

 三度目の正直、だったのに……
 まさかの、二度あることは三度ある、な展開が待ってるだなんて。
「ヒメちゃん、元気ないね。どうしたの?」
 受付準備をしながらぼんやりしていた私に、私より二つ上の美人さん、加納弥生さんが声をかけた。
 私はちらりと弥生さんを見やる。切れ長の瞳、穏やかな笑みをたたえた口元。
 たった二つしか違わないのに、弥生さんはオトナだ。こんなストーカーじみたことをして、垣間見る彼の姿に一喜一憂している私とは大違いーーだって、彼女はとっくに結婚して、すでに二児の母だし。
「弥生さん」
 私の口から出たのは、我ながら沈痛さを感じさせる声だ。
「星に恋してしまった少女は、一体どうすればよいのでしょうか……」
「……は?」
 星? 恋? え? とクエスチョンマークを顔中に広げた弥生さんの隣で、私は一人、深々とせつない吐息をついた。

 再び落ち込んでいた私だったが、くよくよしていても仕方ない。終業時間には復活していた。
 だって考えてもみて。彼が朝、あの駅を利用しているということは分かったのだ。それだけでも大進歩と言える。そうじゃない、ティンカーベル? と心の妖精に話しかけてみる。そうね、そう思うわ、と心の妖精は答えた。私は大きく頷く。
「お疲れさまでした! 私明日休みです!」
 手を挙げて言うと、弥生さんが笑った。
「元気になったみたいね。よかった」
「はい、がんばります」
 拳を握った私の答えに、弥生さんは笑顔を苦笑に変え、首を傾げた。何となくコミュニケーションが取れていないような気もしたけど、そんなことを気にしている余裕はない。
 私は心に決めたのだからーー
 明日、必ず、彼の足取りを掴む!
 握った拳と決意の瞳は、さながら情熱に燃える探偵のようだ。私は足取りも軽やかに帰宅すると、声高だかと母に宣言した。
「お母さん、私、明日も朝、早いから!」
「え? 休みじゃなかったっけ?」
「いいの! とにかくいつもよりもちょっと早く出るから! よろしくね!」
 拳を握る一人娘を、母は首を傾げながら見ていた。
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