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第一章 ちかづく
02 弟の婚約者
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「はじめまして。鈴木香子と言います」
レストランで待ち合わせた隼人の隣で微笑んだのは、長い髪をシンプルなポニーテールにした女性だった。Vネックニットに膝丈のコクーンスカートを履いていて、脚は程よく肉付いているものの、すらりと長い。
「はじめまして。隼人の兄の政人です」
俺が微笑んで右手を差し出すと、彼女は少し驚いてから微笑み、手を握った。俺と同じくらいの力で応えてくる。
しっかりした子、と母が言っていたのも頷ける。日本には握手の習慣がないが、動じた気配はなかった。一連の動作からも、しっかり自分を持った子に見える。
「綺麗な子だね」
俺は言いながら二人の正面に腰掛け、隼人に向き直った。同時に、立ち上がっていた鈴木さんも腰掛ける。
「おめでとう。お前のおかげで、まるで俺は出来損ない扱いだけどな」
言うと、隼人は苦笑した。
「俺と兄さんじゃタイプが違いすぎるよ。だいたい兄さん、結婚する気あるの?」
隼人と俺は兄弟らしい容姿をしているが、性格はだいぶ違った。特に女性とのつき合い方については。
「まあ、いずれはね」
答えながら、彼女という名目で女性とつき合ったのは、24歳以降なかったと思い当たる。
元々あまり執着しないたちなので、つき合いが長続きしないのだ。女性の方から勝手に来て、勝手に去っていく。それがいつものパターンだった。
隼人の隣で、鈴木さんが興味深そうに目を輝かせているのに気づいた。
「どうかした?」
「いえ」
鈴木さんは嬉しそうに微笑む。
「隼人くんと仲のいい男の子、似たタイプの子が多くて。何でかなって思ってたんですけど、お兄さんがそうだからなんですね」
俺はふといたずら心が芽生えて笑った。
「女遊びの激しいやつってこと?」
「違います」
鈴木さんは慌てて首を振る。
「なんていうかーーそこにいるだけで、周りが明るくなるタイプの人です」
俺はちょっと驚いて鈴木さんの表情を見た。本人はいたって真面目に言っているのが分かる。お世辞でも、社交辞令でもなく。
俺はまた微笑んだ。
「そうかな。ありがとう」
何の期待も裏心もなく、人のことを誉められる子のようだ。
弟はいい子に出会ったな、と思った。
話していると、鈴木さんが頭の回転の早い子だということはすぐに分かった。打てば響く。まさにそういう会話が続き、ふと思い出す。
「鈴木さんはーーあ、もう香子ちゃんと呼ぶべきかな」
「いえ、どちらでも。どっちの姓にするにしても、仕事は鈴木で続けるつもりですし」
どっちの姓にするにしても、と来たか。さすが、言うことが違うな。
そんなことを思いながら、鈴木さんは、と続ける。
「自分の出身校、言うの嫌なときってある?」
そんなことを言うのは、彼女の話しぶりから思い出した人がいたからだ。
同期の出世頭、橘彩乃。容姿は悪くない、弁舌爽やかな女性で、その隠せないエリート臭から、橘女史、と呼ばれている。
彼女は自分の出身校を口にしない。都内の大学で経済を専攻していた、と言うだけだ。
が、その優秀さで名前の知れない大学を卒業したとも思えず、話の端々に出てくる学校の様子は、俺が隼人からうかがえるものに酷似していた。
言いたくないのは理由があるのだろう、と思って、今まで何も言わずにいたのだが、この子に聞けば理由が分かるかも知れない。
エリートの弱みを握るのも悪くない、という下心もあるが。
「嫌なとき、ですか」
鈴木さんは視線を上にむけて首を傾げた。
「親のつき合いのある人ですかねぇ。近所の人とか」
「どうして?」
「お子さん立派ですねぇ、って、何かとつき合いにくくなるって言ってました。子供は子供なのに、気を使うって」
そういえば母もそんなことを言っていた気がする。でもそれは男女差もないし、橘女史の理由とは違うだろう。
「あ、でもサークルの友達は、出身校言うと男性に引かれるって言ってました。私は女子大で、男性と土俵が違うからか、感じたことないですけど」
隼人が、誰がそんなこと言ってたの、と問い、鈴木さんが答えてから続ける。
「自分より学歴のいい女性って、そんなに嫌なものなんですかね。自分より昇進したり、収入多くても嫌なのかな。私は女だから分かりませんけど」
さらり、と彼女は言いのけた。
「私だったら、そんな男性、そもそもこっちからお断りですけど」
あまりにはっきりした物言いに、俺がついつい噴き出すと、鈴木さんはきょとんとしていた。
レストランで待ち合わせた隼人の隣で微笑んだのは、長い髪をシンプルなポニーテールにした女性だった。Vネックニットに膝丈のコクーンスカートを履いていて、脚は程よく肉付いているものの、すらりと長い。
「はじめまして。隼人の兄の政人です」
俺が微笑んで右手を差し出すと、彼女は少し驚いてから微笑み、手を握った。俺と同じくらいの力で応えてくる。
しっかりした子、と母が言っていたのも頷ける。日本には握手の習慣がないが、動じた気配はなかった。一連の動作からも、しっかり自分を持った子に見える。
「綺麗な子だね」
俺は言いながら二人の正面に腰掛け、隼人に向き直った。同時に、立ち上がっていた鈴木さんも腰掛ける。
「おめでとう。お前のおかげで、まるで俺は出来損ない扱いだけどな」
言うと、隼人は苦笑した。
「俺と兄さんじゃタイプが違いすぎるよ。だいたい兄さん、結婚する気あるの?」
隼人と俺は兄弟らしい容姿をしているが、性格はだいぶ違った。特に女性とのつき合い方については。
「まあ、いずれはね」
答えながら、彼女という名目で女性とつき合ったのは、24歳以降なかったと思い当たる。
元々あまり執着しないたちなので、つき合いが長続きしないのだ。女性の方から勝手に来て、勝手に去っていく。それがいつものパターンだった。
隼人の隣で、鈴木さんが興味深そうに目を輝かせているのに気づいた。
「どうかした?」
「いえ」
鈴木さんは嬉しそうに微笑む。
「隼人くんと仲のいい男の子、似たタイプの子が多くて。何でかなって思ってたんですけど、お兄さんがそうだからなんですね」
俺はふといたずら心が芽生えて笑った。
「女遊びの激しいやつってこと?」
「違います」
鈴木さんは慌てて首を振る。
「なんていうかーーそこにいるだけで、周りが明るくなるタイプの人です」
俺はちょっと驚いて鈴木さんの表情を見た。本人はいたって真面目に言っているのが分かる。お世辞でも、社交辞令でもなく。
俺はまた微笑んだ。
「そうかな。ありがとう」
何の期待も裏心もなく、人のことを誉められる子のようだ。
弟はいい子に出会ったな、と思った。
話していると、鈴木さんが頭の回転の早い子だということはすぐに分かった。打てば響く。まさにそういう会話が続き、ふと思い出す。
「鈴木さんはーーあ、もう香子ちゃんと呼ぶべきかな」
「いえ、どちらでも。どっちの姓にするにしても、仕事は鈴木で続けるつもりですし」
どっちの姓にするにしても、と来たか。さすが、言うことが違うな。
そんなことを思いながら、鈴木さんは、と続ける。
「自分の出身校、言うの嫌なときってある?」
そんなことを言うのは、彼女の話しぶりから思い出した人がいたからだ。
同期の出世頭、橘彩乃。容姿は悪くない、弁舌爽やかな女性で、その隠せないエリート臭から、橘女史、と呼ばれている。
彼女は自分の出身校を口にしない。都内の大学で経済を専攻していた、と言うだけだ。
が、その優秀さで名前の知れない大学を卒業したとも思えず、話の端々に出てくる学校の様子は、俺が隼人からうかがえるものに酷似していた。
言いたくないのは理由があるのだろう、と思って、今まで何も言わずにいたのだが、この子に聞けば理由が分かるかも知れない。
エリートの弱みを握るのも悪くない、という下心もあるが。
「嫌なとき、ですか」
鈴木さんは視線を上にむけて首を傾げた。
「親のつき合いのある人ですかねぇ。近所の人とか」
「どうして?」
「お子さん立派ですねぇ、って、何かとつき合いにくくなるって言ってました。子供は子供なのに、気を使うって」
そういえば母もそんなことを言っていた気がする。でもそれは男女差もないし、橘女史の理由とは違うだろう。
「あ、でもサークルの友達は、出身校言うと男性に引かれるって言ってました。私は女子大で、男性と土俵が違うからか、感じたことないですけど」
隼人が、誰がそんなこと言ってたの、と問い、鈴木さんが答えてから続ける。
「自分より学歴のいい女性って、そんなに嫌なものなんですかね。自分より昇進したり、収入多くても嫌なのかな。私は女だから分かりませんけど」
さらり、と彼女は言いのけた。
「私だったら、そんな男性、そもそもこっちからお断りですけど」
あまりにはっきりした物言いに、俺がついつい噴き出すと、鈴木さんはきょとんとしていた。
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