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第一章 こちふかば
03 桜の似合う青年
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「よぅ、江原。災難だったな」
結局、最初に現れたのは神崎さん父子だった。集合時間より一時間早く来てくれた神崎さんは、私の肩をぽんと叩くと苦笑した。
「大丈夫です。持ち前のコミュ力で乗り切りました」
ぴしり、と敬礼すると、神崎さんは破顔した。周りの女子がはっと目を奪われた気配を感じる。
笑った途端に人をひきつけるこの人は、私が新人のときにお世話になったーーいや、お世話してあげた?ーー先輩だ。当時から色男然としていたが、もうそろそろ40になろうというのにその色は衰えを見せない。五年前に結婚してから色気が増しているという噂もあるくらいだが、多分それは独身時代、彼なりに張っていた女子への予防線が解除されたからだろうと思う。まあつまり、リミッター解除で魅力がダダもれってことなんだけど。
これから苦み走ったダンディズムを手にしたら、さすがの私も見惚れかねない。落ち着いたおじさまは私の好みだからね。それまでに私も更なる高みへ精進しなくては。
そんなことを思っていると、足元に纏わり付くちびっこ二人。
「あきちゃんおはよー!」
「おはよー!」
ぐはっ。可愛すぎる。神崎さんの息子さん二人、四歳の悠人くんと二歳半の健人くんは、よく似た面差しをしている。でも性格はちょっと違って、悠人くんはちょっと引っ込み思案、健人くんはおおらかだ。
この二人の成長を見守れることだけでも、神崎さんとのつき合いは有益だなと思う。というのは半分冗談、半分本気。
「おはよう~。ママ来れなくて残念だったねぇ」
デレデレ顔で答えると、悠人くんは心配そうに頷いた。
「礼奈がね、えんえん泣いてたの」
「そっか、早く治るといいね」
妹の心配をして優しいねと悠人くんの頭を撫でると、照れ臭そうに笑い返してくれた。きゅん!お姉さんときめいちゃう。
「あ、そういう訳で、こちらこの近くの会社で働く方々です」
私が手で示す先にはキラキラ輝く目でこちらを見ていた女子二人。年上の方がにこりと笑って口を開いた。
「ご一緒させていただきます。近くの不動産屋で働いてます、勝田といいます」
「わ、私、鴻野江といいます」
「ああ、すみません。後輩がご迷惑おかけして」
「いえ、いえっ、私たちも場所探してて、もうどこも桜見えないとこばっかりだったんで、助かりました」
「場所取りも一仕事ですよね。お疲れさまです」
如才ない笑顔に見惚れる女子二人。相変わらずだなぁ、神崎さん。
ふと見やると、青年が戸惑いながら佇んでいる。彼の柔らかい雰囲気は背景の桜によく映えた。
神崎さんもその青年に気づき、ふと微笑んだ。近づきつつ手を差しのべ、
「さくーー」
「えっ?」
「ーーら、フードに入ってるよ」
驚く青年の後ろから、ほらと取り出したのは桜の花。花弁だけではなく、蕾ごと枝から落ちたらしい。神崎さんの長い指に摘まれた花を目にして、青年は赤面した。
「あ、ああ、すみません。ありがとうございます」
「いや。なんで驚いたの?」
神崎さんが首を傾げると、青年は照れ臭そうに笑った。
「名前を」
「名前?」
「はい。呼ばれるのかと思って、びっくりして」
神崎さんは笑った。
「さすがに初対面の人の名前を見抜く能力はないな。ーーなんて名前なの?」
「咲也」
「へぇ」
私は声を上げた。
「桜が似合う人だなと思ったけど、そんなオシャレな名前なんだ」
咲也くんは数度瞬きをしてから、ふんわりと微笑んだ。
その表情はほころぶ桜のようで、その後、私が彼のことを思うたび、真っ先に思い出す姿になった。
結局、最初に現れたのは神崎さん父子だった。集合時間より一時間早く来てくれた神崎さんは、私の肩をぽんと叩くと苦笑した。
「大丈夫です。持ち前のコミュ力で乗り切りました」
ぴしり、と敬礼すると、神崎さんは破顔した。周りの女子がはっと目を奪われた気配を感じる。
笑った途端に人をひきつけるこの人は、私が新人のときにお世話になったーーいや、お世話してあげた?ーー先輩だ。当時から色男然としていたが、もうそろそろ40になろうというのにその色は衰えを見せない。五年前に結婚してから色気が増しているという噂もあるくらいだが、多分それは独身時代、彼なりに張っていた女子への予防線が解除されたからだろうと思う。まあつまり、リミッター解除で魅力がダダもれってことなんだけど。
これから苦み走ったダンディズムを手にしたら、さすがの私も見惚れかねない。落ち着いたおじさまは私の好みだからね。それまでに私も更なる高みへ精進しなくては。
そんなことを思っていると、足元に纏わり付くちびっこ二人。
「あきちゃんおはよー!」
「おはよー!」
ぐはっ。可愛すぎる。神崎さんの息子さん二人、四歳の悠人くんと二歳半の健人くんは、よく似た面差しをしている。でも性格はちょっと違って、悠人くんはちょっと引っ込み思案、健人くんはおおらかだ。
この二人の成長を見守れることだけでも、神崎さんとのつき合いは有益だなと思う。というのは半分冗談、半分本気。
「おはよう~。ママ来れなくて残念だったねぇ」
デレデレ顔で答えると、悠人くんは心配そうに頷いた。
「礼奈がね、えんえん泣いてたの」
「そっか、早く治るといいね」
妹の心配をして優しいねと悠人くんの頭を撫でると、照れ臭そうに笑い返してくれた。きゅん!お姉さんときめいちゃう。
「あ、そういう訳で、こちらこの近くの会社で働く方々です」
私が手で示す先にはキラキラ輝く目でこちらを見ていた女子二人。年上の方がにこりと笑って口を開いた。
「ご一緒させていただきます。近くの不動産屋で働いてます、勝田といいます」
「わ、私、鴻野江といいます」
「ああ、すみません。後輩がご迷惑おかけして」
「いえ、いえっ、私たちも場所探してて、もうどこも桜見えないとこばっかりだったんで、助かりました」
「場所取りも一仕事ですよね。お疲れさまです」
如才ない笑顔に見惚れる女子二人。相変わらずだなぁ、神崎さん。
ふと見やると、青年が戸惑いながら佇んでいる。彼の柔らかい雰囲気は背景の桜によく映えた。
神崎さんもその青年に気づき、ふと微笑んだ。近づきつつ手を差しのべ、
「さくーー」
「えっ?」
「ーーら、フードに入ってるよ」
驚く青年の後ろから、ほらと取り出したのは桜の花。花弁だけではなく、蕾ごと枝から落ちたらしい。神崎さんの長い指に摘まれた花を目にして、青年は赤面した。
「あ、ああ、すみません。ありがとうございます」
「いや。なんで驚いたの?」
神崎さんが首を傾げると、青年は照れ臭そうに笑った。
「名前を」
「名前?」
「はい。呼ばれるのかと思って、びっくりして」
神崎さんは笑った。
「さすがに初対面の人の名前を見抜く能力はないな。ーーなんて名前なの?」
「咲也」
「へぇ」
私は声を上げた。
「桜が似合う人だなと思ったけど、そんなオシャレな名前なんだ」
咲也くんは数度瞬きをしてから、ふんわりと微笑んだ。
その表情はほころぶ桜のようで、その後、私が彼のことを思うたび、真っ先に思い出す姿になった。
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