さくやこの

松丹子

文字の大きさ
7 / 99
第一章 こちふかば

06 ハイスペックすぎてドン引き

しおりを挟む
「お父さんのご飯おいしいんだよー」
 ほくほく顔でタッパーを示す悠人くん。やっぱり神崎さんが作ったのかと思いつつ、紙皿を出してタッパーを開く。マリネとマカロニサラダ、おにぎり状にしたちらし寿司。
 昨日作ったって言ってたけど、昨夜ってことか。仕事から帰ってこんなん作ったわけ?信じらんない。
 ハイスペックな個性は、一定のレベルを越えると、もうそれ以上の感慨が湧かないものらしい。というかむしろ引くわ。なんだこの男。私絶対結婚したくないーーいやそもそも誰とも結婚する気ないけどさ。
 いやーでもこの人、アヤさんと結婚できてよかったね。いやマジで。きっと憧れてる女子もさ、近くにいると鬱陶しいと思うよ。この人、割と完璧主義っていうか、自分ができるレベルは当然相手も達成できると思ってるからさ。知らず知らず厭味なんだよね。無自覚だから諦めるときもあるけど、余計腹立つときもある。
 そんなことを考えながら眺めていると、神崎さんはおばちゃま方から愛想笑いでビールを受け取っている。こらこら、知らない人から食べ物をもらっちゃいけません、って教えてるんじゃないのか。と内心ツッコミを入れるが何も言わず、生温かく見守ることにする。人の好意を断れない気質も相変わらずだ。
 私は神崎さんが持ってきてくれた黒糖焼酎をコップに注ぐ。冷えきっているので自分が持ってきた水筒から白湯を入れた。
「お前、もしかして持ってきたのそれだけ?」
「いや、ちょっとサンドイッチも買ってたんですけど、朝食代わりにつまみ食いしてたら全部食べちゃいました。どうせみんな美味しいもの持ってきてくれるだろうし」
 神崎さんは完全に呆れ返っている。
「まあ、暖かい飲み物持ってきたのは正しいと思うけど。……白湯なぁ」
「いや、大正解でしょう、白湯。だいたいのものと割れるじゃないですか」
 いやだからその発想がな、と神崎さんは憐れむような目で私を見てくる。その視線にふてくされて顔を反らした。まったく、世間一般的な女子の基準で私を判断するのはやめていただきたい。貴方の奥さんのように、デキるけどフツーの女の幸せを欲してるっていうタイプじゃないんですからね、私は。
 心中思いつつ酒をすする。
「くぅー。冷えた身体に染み渡るぅ」
「悠人、健人。こういう人は連れて来るなよ」
「何でですか。いくらでも一緒に飲んであげますよ、お義父さん」
「うわ勘弁。マジで勘弁」
 私たち二人の会話を聞いていたのか、後ろで噴き出すのが聞こえた。振り向くと爽やか好青年の咲也くんが笑っている。
「あっ、くだらない話してる場合じゃなかったね。お礼忘れてた。ごめんね、ありがとう。助かったよー」
「悪いね」
 私が軽やかに言うと、神崎さんも微笑して咲也くんにお礼を言った。
「いいえ。僕も楽しくなりそうで嬉しいです」
 咲也くんは照れ臭そうに微笑んだ。少年のように澄んだ微笑みにほわんとする、のは体内に入った酒のせいか。
「いやー、いいね。君。気に入ったよー」
 ぱしぱしと肩をたたくと、咲也くんが笑う。神崎さんが半眼を私に向けているのを感じつつ、気にしない。神崎さんの視線など、いちいち気にしてはいられない。
「仲いいんですね」
「腐れ縁と言ってくれ」
「まあ、長年世話してあげてますからね」
「どっちがだよ」
「あああ、いいんですかそんな反抗的な姿勢で。忘れたい過去もあるんじゃないですか、いろいろ」
 またしても始まる幼稚な言い合いに、咲也くんはまた笑った。
「楽しいなぁ。こんなに笑ってるの、いつぶりだろう」
「えー。笑いがないのはよくないなぁ。よーし、笑いの女神江原あきら、今日は君を死ぬほど笑わせてあげよう」
「そんな肩書き初めて聞いたぞ」
「とりあえず神崎さんのやっちまったエピソードから行ってもいいすかね」
「てめぇ殴るぞ」
「やだぁ、お子様の前でー。暴力はんたーい」
「ぶりっ子すんな、気持ち悪い」
 神崎さんが心底嫌そうに言うと、ご飯と飲み物に意識が行っていた悠人くんが急に顔を上げた。
「お父さん、ケンカは駄目だよ」
 息子の鋭い一言に、神崎さんは言葉を詰まらせた。いやー、将来有望な若者である。私は思わず緩む口元を紙コップで隠した。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

公爵令嬢は結婚式当日に死んだ

白雲八鈴
恋愛
 今日はとある公爵令嬢の結婚式だ。幸せいっぱいの公爵令嬢の前に婚約者のレイモンドが現れる。 「今日の結婚式は俺と番であるナタリーの結婚式に変更だ!そのドレスをナタリーに渡せ!」  突然のことに公爵令嬢は何を言われたのか理解できなかった。いや、したくなかった。 婚約者のレイモンドは番という運命に出逢ってしまったという。  そして、真っ白な花嫁衣装を脱がされ、そのドレスは番だという女性に着させられる。周りの者達はめでたいと大喜びだ。  その場所に居ることが出来ず公爵令嬢は外に飛び出し……  生まれ変わった令嬢は復讐を誓ったのだった。  婚約者とその番という女性に 『一発ぐらい思いっきり殴ってもいいですわね?』 そして、つがいという者に囚われた者の存在が現れる。 *タグ注意 *不快であれば閉じてください。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

✿ 私は夫のことが好きなのに、彼は私なんかよりずっと若くてきれいでスタイルの良い女が好きらしい 

設楽理沙
ライト文芸
累計ポイント110万ポイント超えました。皆さま、ありがとうございます。❀ 結婚後、2か月足らずで夫の心変わりを知ることに。 結婚前から他の女性と付き合っていたんだって。 それならそうと、ちゃんと話してくれていれば、結婚なんて しなかった。 呆れた私はすぐに家を出て自立の道を探すことにした。 それなのに、私と別れたくないなんて信じられない 世迷言を言ってくる夫。 だめだめ、信用できないからね~。 さようなら。 *******.✿..✿.******* ◇|日比野滉星《ひびのこうせい》32才   会社員 ◇ 日比野ひまり 32才 ◇ 石田唯    29才          滉星の同僚 ◇新堂冬也    25才 ひまりの転職先の先輩(鉄道会社) 2025.4.11 完結 25649字 

処理中です...