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第一章 こちふかば
30 言い訳探し
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すっかり咲也くんと意気投合した私は、その後もほとんど週一くらいのペースで彼と会った。おおかた、私が飲みたくなったときに連絡をし、都合が着けば合流する、という流れだが、時には帰宅した彼の家に酒瓶片手に押しかけることもある。
もちろん、彼の家に男がいないのは確認の上で、だが。
「お疲れー、咲也」
「お疲れ、あきちゃん」
互いにすっかり名前も呼び慣れてしまって、恋人と何が違うのというくらいだ。不思議と居心地がよくて、時々隣にいるのを忘れるのだが、一緒にいるときの方が落ち着く。一種の精神安定剤みたいだと互いに笑い合うほどに。
「何か疲れてる?」
いつもよりもぼんやりしている気がして問うと、咲也は苦笑した。
「うーん、いや、まあ……」
濁す言葉は、イエスと告げている。私は身を乗り出した。
「何よ何よ。お姉さんに話してご覧なさい」
年齢的には私の方が年上だ。咲也は三学年下、四月生まれの二十八歳。三月産まれの私とは年齢はほとんど二歳差になる。
「花見のときにいた、鴻野江さん。覚えてる?」
咲也はサングリア片手に問うてきた。私は思い出して頷く。
「あの若い子でしょう」
咲也と場所取りをしていた女性二人のうち若い方だ。雰囲気的には健気な女子路線まっしぐらだったように記憶している。咲也はそうそうと頷いた。
「こないだ、彼氏とケンカして、別れちゃったらしいんだ。で、俺と勝田さんと、三人で飲みに行ったんだけど」
勝田、というのはもう一人の女性だ。咲也の職場では若手三人組というところか。ふむふむと頷きながら私も焼酎の杯を傾ける。
「で、まあ色々慰めてあげてたら……その」
私はおおかた次の展開が読めて手を挙げた。咲也は黙る。
「まずいっしょそれ」
「だから言ってるんじゃん。ねぇあきちゃん、どう言えば一番当たり障りないと思う?」
「えええええ」
私に聞かれてもと顔をしかめる。もともとそんな繊細な恋愛などしたことがない。ーーいや、実は大学時代、身体だけの付き合いのつもりだった男と彼氏が鉢合わせしてなかなか修羅場だったことはあるけれど、それもあえて温和に解決しようとは思わなかった。そこで「私のために争わないで!」とか楽しめばよかったと内心後悔しているくらいである。ーーとはただの話のネタだが。
「君には僕より相応しい人がいる、とか」
「じゃあ紹介してよって言われそう」
「恋人がいる、とか」
「うーん、どうかなぁ……」
恋する自分に酔うタイプみたいなんだよねと咲也が言うのには何となく納得する。私にとっては他人事でありかっこうの酒の肴だ。
「それ、定期報告よろしく」
「他人事だと思って」
咲也は恨めしげな目で私を見てきた。
「ところでさ」
不意に、咲也は言った。大変気まずげに。
「どうしたの」
私が問うと、
「俺、政人さんに、返し忘れてて」
「何を?」
「……タオル」
私はがっくり肩を落とした。そういや返してる姿見なかったわと思い出す。
「……わざと?」
「いや、タイミング逃して」
「わざとでしょう」
「違うよぉ。狙った訳では」
じと目の私に小さくなる咲也。私はじゃあと手を出した。
「私が返しとくから貸して」
「いや、それは」
真剣な面持ちで咲也が拒否する。私はほらねと手を翻した。
「やっぱりわざとだ」
「わざとじゃないって」
「私はもう企画しないからね。自分で誘いなよ」
「えええええ」
「ええ、じゃありません。大人なんだから自分で片を付けなさい」
「えええええ」
言いながらも、咲也の頬はわずかに赤い。ぶつぶつと口の中で何を呟いているのかは知らないが、まあいいんじゃないの、そんなに夢見れるんなら、タオルの一つや二つもらっちゃっても。とその横顔を眺めた。
もちろん、彼の家に男がいないのは確認の上で、だが。
「お疲れー、咲也」
「お疲れ、あきちゃん」
互いにすっかり名前も呼び慣れてしまって、恋人と何が違うのというくらいだ。不思議と居心地がよくて、時々隣にいるのを忘れるのだが、一緒にいるときの方が落ち着く。一種の精神安定剤みたいだと互いに笑い合うほどに。
「何か疲れてる?」
いつもよりもぼんやりしている気がして問うと、咲也は苦笑した。
「うーん、いや、まあ……」
濁す言葉は、イエスと告げている。私は身を乗り出した。
「何よ何よ。お姉さんに話してご覧なさい」
年齢的には私の方が年上だ。咲也は三学年下、四月生まれの二十八歳。三月産まれの私とは年齢はほとんど二歳差になる。
「花見のときにいた、鴻野江さん。覚えてる?」
咲也はサングリア片手に問うてきた。私は思い出して頷く。
「あの若い子でしょう」
咲也と場所取りをしていた女性二人のうち若い方だ。雰囲気的には健気な女子路線まっしぐらだったように記憶している。咲也はそうそうと頷いた。
「こないだ、彼氏とケンカして、別れちゃったらしいんだ。で、俺と勝田さんと、三人で飲みに行ったんだけど」
勝田、というのはもう一人の女性だ。咲也の職場では若手三人組というところか。ふむふむと頷きながら私も焼酎の杯を傾ける。
「で、まあ色々慰めてあげてたら……その」
私はおおかた次の展開が読めて手を挙げた。咲也は黙る。
「まずいっしょそれ」
「だから言ってるんじゃん。ねぇあきちゃん、どう言えば一番当たり障りないと思う?」
「えええええ」
私に聞かれてもと顔をしかめる。もともとそんな繊細な恋愛などしたことがない。ーーいや、実は大学時代、身体だけの付き合いのつもりだった男と彼氏が鉢合わせしてなかなか修羅場だったことはあるけれど、それもあえて温和に解決しようとは思わなかった。そこで「私のために争わないで!」とか楽しめばよかったと内心後悔しているくらいである。ーーとはただの話のネタだが。
「君には僕より相応しい人がいる、とか」
「じゃあ紹介してよって言われそう」
「恋人がいる、とか」
「うーん、どうかなぁ……」
恋する自分に酔うタイプみたいなんだよねと咲也が言うのには何となく納得する。私にとっては他人事でありかっこうの酒の肴だ。
「それ、定期報告よろしく」
「他人事だと思って」
咲也は恨めしげな目で私を見てきた。
「ところでさ」
不意に、咲也は言った。大変気まずげに。
「どうしたの」
私が問うと、
「俺、政人さんに、返し忘れてて」
「何を?」
「……タオル」
私はがっくり肩を落とした。そういや返してる姿見なかったわと思い出す。
「……わざと?」
「いや、タイミング逃して」
「わざとでしょう」
「違うよぉ。狙った訳では」
じと目の私に小さくなる咲也。私はじゃあと手を出した。
「私が返しとくから貸して」
「いや、それは」
真剣な面持ちで咲也が拒否する。私はほらねと手を翻した。
「やっぱりわざとだ」
「わざとじゃないって」
「私はもう企画しないからね。自分で誘いなよ」
「えええええ」
「ええ、じゃありません。大人なんだから自分で片を付けなさい」
「えええええ」
言いながらも、咲也の頬はわずかに赤い。ぶつぶつと口の中で何を呟いているのかは知らないが、まあいいんじゃないの、そんなに夢見れるんなら、タオルの一つや二つもらっちゃっても。とその横顔を眺めた。
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