さくやこの

松丹子

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第一章 こちふかば

42 三白眼の洞察力

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 それから一時間くらいで、他の二人も切り上げようと腰を上げた。それなら、と阿久津さんも立ち上がる。
「店変えるか」
「でぇっ。二軒目もつき合わせるつもりですか。できたてほやほやのカップルに」
「できたてほやほやのカップルねぇ」
 阿久津さんの目は鋭い。いや生まれつきだけれど。
 でも疑わしい目であることは確かで、咲也が少し気まずげに私を見る。だからー。そういう目しちゃうとバレるよって。
 正直、阿久津さんが同性愛者を極端に差別するようにも思えないけど、どう思うか聞いてみたことがないから分からない。基本的に物言いがズバズバしているし、本人もそのつもりなく傷つける可能性だってあるーーまあ、これは、カミングアウトしてもしなくても、だけれど。
 阿久津さんの観察眼は鋭いのは私も知っている。比較する相手に思い浮かんだ神崎さんが鈍すぎるんだけどね。ちなみに奥さんのアヤさんはもっと鈍い。天然記念物並に鈍い。
「何か文句あるんですか」
 私は言って、もしかして、とにやりとした。
「ヤキモチ?何だかんだ言って私のこと気になってたとかー」
「言ってろ」
 吐き捨てるように言って、ほら行くぞと掴んだのは咲也の腕だ。うわずるい。それずるくない?
「ちょっと阿久津さん。弱いものイジメはよくない」
「お前引っ張ったらセクハラだの何だの騒ぎそうだからな」
「確信犯ですか。余計たち悪い」
 そんな話をしている間に、阿久津さんの同期は会計を済ませてくれた。
「お前らほんと仲良しな」
「マジそれやめろ」
「ほんと無理です」
 呆れた同期の台詞に私と阿久津さんが真顔で即答して、またお互い睨み合った。

「仲良しなのが嫌なのにどーして私たちを解放してくれないんですかー」
「じゃあこいつだけ借りる」
「それ最悪じゃないですか!断れないたちなの分かってるんでしょ、咲也をどうしようってんですか!阿久津さんてばサイテー!」
 店を出ても相変わらず咲也をひっぱり続ける阿久津さんに対抗して、咲也のもう一方の腕に絡み付いてみた。
 ほとんどない胸の膨らみが腕に当たると、咲也が一瞬びくりと腕をすくませる。
 はっとして顔を上げると、咲也の顔もこちらを向いている。お互いごめんと目線で謝った。
 一口に同性愛って言ったって、バイの人だっているし、逆に異性への嫌悪感を持つ人もいるんだろう。咲也が女性に対してどういう気分を抱くのかーーひとまず、友人としてつき合うことには問題ないと分かっているけどーー知らなかったなと反省する。ほとんど同性と同じ感覚で押し付けた胸の膨らみに示したのは、緊張感のある拒否反応だった。
 イロイロあるんだろう。咲也も。私と同じように。いや、誰しもきっとイロイロあるんだろうけど、それがプラスの作用だったりマイナスの作用だったり、果てはこんがらがってよく分からないものだったりして、その結果として個々の人格が出来上がるんだろう。
「女の子誘ったらどうですか」
「特定の相手は面倒だからいない」
「うわまたそれ。さっき言われてたじゃないですか。そのうち、コンドームに細工されてデキ婚とか、病気伝染されるとかしますよ」
「それは注意しているから大丈夫」
 どうだかねぇと私は肩をすくめた。男が思うほど女は可愛いげのある生き物じゃない。ーー私を含めて。
 でも、ちょっとだけうらやましい。阿久津さんみたいな生き方が。
「はー」
「どうした」
「私も男だったらなー。ローリスクで女の子とっかえひっかえ、楽しめたのになぁ」
 阿久津さんが鬼の首を取ったようなニヤリ顔をした。
「お前それ、できたてほやほやの彼氏の前で言う台詞か?」
 私はちょっと居心地悪く感じて唇を引き締めた。知らぬ間に阿久津さんの手から解放されていた咲也が、軽やかに笑った。
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