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第三章 さくらさく
79 みっつめのカミングアウト
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年が明け、しばらくした頃、咲也は目に見えて元気がなくなった。
「どうかしたの?」
私が聞いても、
「うんーーまた今度話すね」
とだけしか言わない。
心配だが、本人のタイミングがあるのだろうと様子を見ていた。
その週末、咲也は話があると言って、夕飯の後、食卓に座り直した。
改まった様子に、私は戸惑いながらその正面に腰掛ける。
「あきちゃんに話さなきゃいけないことがあるんだ」
咲也はわずかに目をうつむかせ、静かに言った。
私は、何、と問う。咲也の意図が分からず、鼓動がどきどきと高鳴っていた。
瞬時に頭をよぎったのは、この同居を――関係を、終わりにしようという言葉だ。
結婚、など言わなければよかった。
そう、内心で舌打ちする。
つい、口が滑ったのだ――咲也は本気でとらえたのかもしれない。
咲也の出方によっては取り繕おう、と思っているうちに、咲也は重そうに口を開いた。
「年末、駅前でキャンペーンやってたの、覚えてる?ーーあきちゃんが、ティッシュもらってきた」
「ああ」
私は頷いた。思わぬボールを投げられて、困惑に首を傾げる。
「でも、何のキャンペーンだったかは、覚えてないよ」
咲也は寂しげな微笑を浮かべ、口を開きかけて、また閉じた。
うつむいて目を閉じーーごくり、と唾を飲み込むのがわかる。
「HIVの検査を勧めるキャンペーンだった」
咲也の言葉に、私は動きを止めた。
その話をーーあえて、改まってするということは。
「……検査、したの?」
咲也は目を開き、頷いた。動きはわずかだったが、見間違えることのないほどゆっくりと。
「……結果は」
「陽性だった」
私は一度息を吸って、吐いた。極力明るい声で、言葉を吐き出す。
「でも、ああいうのって、簡易検査でしょ?」
「だから、今になったんだ」
咲也は言って、私の目をまっすぐに見た。
「精密検査をした。年末年始で結果が遅くなったけど――やっぱり陽性だった」
私は黙り込んだ。
咲也はうつむいた。
「彼に、伝染されたんだと思う」
咲也の緊張感が伝わって来る。私の反応を、全身で感じ取ろうとしているのが分かる。
「その前に、検査したときは、陰性だったから」
私はその伏せられた目を見ている。黒々としたまつげが彼の白い頬に影を落とす様を。
そして、わずかな震えを。
「気持ち悪いでしょ。もう、俺と住めないなら、そう言って。家、探す手伝いならするからーー」
「咲也」
私の呼びかけに、咲也はびくりと身体を強張らせる。
私は極力静かに、しかしはっきりとした声で、言った。
「今日、一緒に寝よう」
咲也が目を見開き、顔を上げた。
「でもーー」
「日常生活じゃ伝染らないんでしょ」
いつだったか、学校で習った知識だ。
学校で習ったことが、役に立つこともあるんだなぁなんて、頭のどこかで思う自分の余裕に呆れる。
私は咲也の顔をじっと見つめた。
「今の咲也を、一人にしたくない」
私が言うと、咲也はくしゃりと相貌を崩した。
――その頬を、涙が伝い落ちた。
「どうかしたの?」
私が聞いても、
「うんーーまた今度話すね」
とだけしか言わない。
心配だが、本人のタイミングがあるのだろうと様子を見ていた。
その週末、咲也は話があると言って、夕飯の後、食卓に座り直した。
改まった様子に、私は戸惑いながらその正面に腰掛ける。
「あきちゃんに話さなきゃいけないことがあるんだ」
咲也はわずかに目をうつむかせ、静かに言った。
私は、何、と問う。咲也の意図が分からず、鼓動がどきどきと高鳴っていた。
瞬時に頭をよぎったのは、この同居を――関係を、終わりにしようという言葉だ。
結婚、など言わなければよかった。
そう、内心で舌打ちする。
つい、口が滑ったのだ――咲也は本気でとらえたのかもしれない。
咲也の出方によっては取り繕おう、と思っているうちに、咲也は重そうに口を開いた。
「年末、駅前でキャンペーンやってたの、覚えてる?ーーあきちゃんが、ティッシュもらってきた」
「ああ」
私は頷いた。思わぬボールを投げられて、困惑に首を傾げる。
「でも、何のキャンペーンだったかは、覚えてないよ」
咲也は寂しげな微笑を浮かべ、口を開きかけて、また閉じた。
うつむいて目を閉じーーごくり、と唾を飲み込むのがわかる。
「HIVの検査を勧めるキャンペーンだった」
咲也の言葉に、私は動きを止めた。
その話をーーあえて、改まってするということは。
「……検査、したの?」
咲也は目を開き、頷いた。動きはわずかだったが、見間違えることのないほどゆっくりと。
「……結果は」
「陽性だった」
私は一度息を吸って、吐いた。極力明るい声で、言葉を吐き出す。
「でも、ああいうのって、簡易検査でしょ?」
「だから、今になったんだ」
咲也は言って、私の目をまっすぐに見た。
「精密検査をした。年末年始で結果が遅くなったけど――やっぱり陽性だった」
私は黙り込んだ。
咲也はうつむいた。
「彼に、伝染されたんだと思う」
咲也の緊張感が伝わって来る。私の反応を、全身で感じ取ろうとしているのが分かる。
「その前に、検査したときは、陰性だったから」
私はその伏せられた目を見ている。黒々としたまつげが彼の白い頬に影を落とす様を。
そして、わずかな震えを。
「気持ち悪いでしょ。もう、俺と住めないなら、そう言って。家、探す手伝いならするからーー」
「咲也」
私の呼びかけに、咲也はびくりと身体を強張らせる。
私は極力静かに、しかしはっきりとした声で、言った。
「今日、一緒に寝よう」
咲也が目を見開き、顔を上げた。
「でもーー」
「日常生活じゃ伝染らないんでしょ」
いつだったか、学校で習った知識だ。
学校で習ったことが、役に立つこともあるんだなぁなんて、頭のどこかで思う自分の余裕に呆れる。
私は咲也の顔をじっと見つめた。
「今の咲也を、一人にしたくない」
私が言うと、咲也はくしゃりと相貌を崩した。
――その頬を、涙が伝い落ちた。
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