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.第12章 親と子
306 新年会(2)
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十分後、思った通り両親もやって来た。
祖父母の家で両親と「明けましておめでとう」と挨拶を交わすのはなんだか不思議な気持ちだったけれど、そう思ったのは私だけじゃないらしい。両親も顔を見合わせて笑っていた。
「健人兄はまだ?」
「ああ。昨日、友達と新年会だって言ってたからな。飲み過ぎてまだ寝てるんじゃないか」
「ええー?」
父の台詞に、思わず呆れる。
悠人兄は元々仕事があるから不参加と聞いていたから仕方ないけれど、健人兄ってばほんとマイペースなんだから。
社会人になっても相変わらずだ。
「電話でもする?」
ちら、と時計を見ると、もう11時半になろうとしている。新年会といえば毎年一緒に昼食を摂るのがメインなのに、都内の家からこちらに来るなら、今から出ても13時を過ぎてしまうだろう。
「せっかくなのに」と唇を尖らせる私に、「まあまあ」と後ろから聞こえたのは栄太兄の声だった。
振り向くと、栄太兄が両親に微笑んでいる。
「明けましておめでとう。今年もよろしゅう頼んます」
「ああ、こちらこそ」
「ふふふ」
母が口元に手を当てる。
「栄太郎くんには、今まで以上にお世話になりそうだものねぇ」
ちらっと私に視線を向けられて、思わず顔を赤らめる。
照れるかと思っていた栄太兄は、私の肩に手を当ててまっすぐに母に向き直った。
「はい。――よろしくお願いします」
すっと頭を下げた横顔に、思わず目を丸くする。
えっ、何、何? いきなり、かっこいいんだけど。
決意を固めたような目が母を見据えた後、私に向けて細められた。
どき、と心臓が高鳴る。
「あら、まぁ」
香子さんが呟いたのが聞こえた。
次いで、隼人さんの声がする。
「困ったね。健人くんがいないと、ツッコミ役がいなくて野放し状態だ」
「野放しって何やねん」
振り向いた栄太兄がツッコミを入れて、隼人さんは笑いながら肩をすくめる。
そちらに目を向けていた私は、逆側の腕を引かれて驚いた。
「礼奈ちゃんってば、目がこんなんなってるよ」
茶化して笑う朝子ちゃんの両手が、ハートマークを形作る。
私は慌てて、朝子ちゃんと両親を見比べた。
「そ、そんなこと……」
「あるあるぅ」
朝子ちゃんは笑って私の肩を叩くと、父に笑いかけた。
「政人さんも安心ですね、栄太兄なら気も知れてるし」
父は母と顔を見合わせて、「そう……かな」と曖昧に答えた後、「まあ、そう、かな」と言い直した。
その反応に、栄太兄が肩を落とす。
「……もしかして、あんまり賛成してへん……?」
「いや、そんなことはないぞ。少なくとも俺は」
「ちょっと、政人。まるで私が反対してるみたいな言い方しないで」
父と母が言い合うのを見て、朝子ちゃんが肩をすくめて私に耳打ちした。
「ごめん。この話、藪蛇だったかな?」
「うん……」
そういうわけでもないと……思うんだけど。
私は困った笑顔を浮かべて、両親と栄太兄を見比べた。
***
例年のように順にお屠蘇を飲んで、それぞれ思い思いの場所に座って食事を始めた。近況報告で盛り上がる中で、どうしても私たちの話が一つの話題になる。
「どうだった、姉さんたち。元気だった?」
「ああ、元気やったで」
父に訊かれて、栄太兄が頷いた。「な」と同意を求められて私も頷く。
「相変わらずパワフルだったよ」
「パワフル、なぁ。まあ、言い方次第やなぁ」
私の言葉に栄太兄が苦笑した。父も同じように苦笑する。
「姉さんは強烈だからなぁ。まあ、でも、特段問題なく挨拶できたってことならよかったよ」
父がそう言って、私の頭をぽんと叩いた。みんなの手前気恥ずかしくて、あいまいにうつむきながら頷く。
そのとき、スマホが鳴った。見れば、健人兄からのメッセージだ。
「健人、駅に着いたって。買うものとかあるか?」
「特には」
栄太兄が首を振った横で、よたよたと祖父が立ち上がる。栄太兄がそれに気づいて顔を向けた。
「あ、何やじいちゃん。どっか行くんか?」
「健人を迎えに」
「迎えに? あー、散歩したいねんな。分かった、俺も行くから――」
じゃあ私も、と立ち上がりかけたところで、父に手で制された。食卓に座っていた祖母が、「おじいちゃん、お散歩? それなら、私も」と立ち上がる。
私が戸惑って父を見上げると、「俺と栄太郎が行くから、お前は残ってろ」と微笑む。私は頷いて、四人を見送った。
「え、だったら翔太を上に寝かせて、俺も行こうかな」
メンバーを見て、隼人さんも立ち上がる。残るのは私と母、香子さんと朝子ちゃんになるから、ちょっとした女子会だ。
「翔太。上行くぞ」
隼人さんは眠っている息子に声をかけ、肩を貸して立ち上がらせた。
「大きくなったもんだ」
「身体はね」
苦笑する隼人さんに答えたのは朝子ちゃんで、私は思わず噴き出した。
隼人さんはどうにか翔太くんを歩かせると、2階に寝かせ、祖父母や父たちと共に外へ出て行った。
祖父母の家で両親と「明けましておめでとう」と挨拶を交わすのはなんだか不思議な気持ちだったけれど、そう思ったのは私だけじゃないらしい。両親も顔を見合わせて笑っていた。
「健人兄はまだ?」
「ああ。昨日、友達と新年会だって言ってたからな。飲み過ぎてまだ寝てるんじゃないか」
「ええー?」
父の台詞に、思わず呆れる。
悠人兄は元々仕事があるから不参加と聞いていたから仕方ないけれど、健人兄ってばほんとマイペースなんだから。
社会人になっても相変わらずだ。
「電話でもする?」
ちら、と時計を見ると、もう11時半になろうとしている。新年会といえば毎年一緒に昼食を摂るのがメインなのに、都内の家からこちらに来るなら、今から出ても13時を過ぎてしまうだろう。
「せっかくなのに」と唇を尖らせる私に、「まあまあ」と後ろから聞こえたのは栄太兄の声だった。
振り向くと、栄太兄が両親に微笑んでいる。
「明けましておめでとう。今年もよろしゅう頼んます」
「ああ、こちらこそ」
「ふふふ」
母が口元に手を当てる。
「栄太郎くんには、今まで以上にお世話になりそうだものねぇ」
ちらっと私に視線を向けられて、思わず顔を赤らめる。
照れるかと思っていた栄太兄は、私の肩に手を当ててまっすぐに母に向き直った。
「はい。――よろしくお願いします」
すっと頭を下げた横顔に、思わず目を丸くする。
えっ、何、何? いきなり、かっこいいんだけど。
決意を固めたような目が母を見据えた後、私に向けて細められた。
どき、と心臓が高鳴る。
「あら、まぁ」
香子さんが呟いたのが聞こえた。
次いで、隼人さんの声がする。
「困ったね。健人くんがいないと、ツッコミ役がいなくて野放し状態だ」
「野放しって何やねん」
振り向いた栄太兄がツッコミを入れて、隼人さんは笑いながら肩をすくめる。
そちらに目を向けていた私は、逆側の腕を引かれて驚いた。
「礼奈ちゃんってば、目がこんなんなってるよ」
茶化して笑う朝子ちゃんの両手が、ハートマークを形作る。
私は慌てて、朝子ちゃんと両親を見比べた。
「そ、そんなこと……」
「あるあるぅ」
朝子ちゃんは笑って私の肩を叩くと、父に笑いかけた。
「政人さんも安心ですね、栄太兄なら気も知れてるし」
父は母と顔を見合わせて、「そう……かな」と曖昧に答えた後、「まあ、そう、かな」と言い直した。
その反応に、栄太兄が肩を落とす。
「……もしかして、あんまり賛成してへん……?」
「いや、そんなことはないぞ。少なくとも俺は」
「ちょっと、政人。まるで私が反対してるみたいな言い方しないで」
父と母が言い合うのを見て、朝子ちゃんが肩をすくめて私に耳打ちした。
「ごめん。この話、藪蛇だったかな?」
「うん……」
そういうわけでもないと……思うんだけど。
私は困った笑顔を浮かべて、両親と栄太兄を見比べた。
***
例年のように順にお屠蘇を飲んで、それぞれ思い思いの場所に座って食事を始めた。近況報告で盛り上がる中で、どうしても私たちの話が一つの話題になる。
「どうだった、姉さんたち。元気だった?」
「ああ、元気やったで」
父に訊かれて、栄太兄が頷いた。「な」と同意を求められて私も頷く。
「相変わらずパワフルだったよ」
「パワフル、なぁ。まあ、言い方次第やなぁ」
私の言葉に栄太兄が苦笑した。父も同じように苦笑する。
「姉さんは強烈だからなぁ。まあ、でも、特段問題なく挨拶できたってことならよかったよ」
父がそう言って、私の頭をぽんと叩いた。みんなの手前気恥ずかしくて、あいまいにうつむきながら頷く。
そのとき、スマホが鳴った。見れば、健人兄からのメッセージだ。
「健人、駅に着いたって。買うものとかあるか?」
「特には」
栄太兄が首を振った横で、よたよたと祖父が立ち上がる。栄太兄がそれに気づいて顔を向けた。
「あ、何やじいちゃん。どっか行くんか?」
「健人を迎えに」
「迎えに? あー、散歩したいねんな。分かった、俺も行くから――」
じゃあ私も、と立ち上がりかけたところで、父に手で制された。食卓に座っていた祖母が、「おじいちゃん、お散歩? それなら、私も」と立ち上がる。
私が戸惑って父を見上げると、「俺と栄太郎が行くから、お前は残ってろ」と微笑む。私は頷いて、四人を見送った。
「え、だったら翔太を上に寝かせて、俺も行こうかな」
メンバーを見て、隼人さんも立ち上がる。残るのは私と母、香子さんと朝子ちゃんになるから、ちょっとした女子会だ。
「翔太。上行くぞ」
隼人さんは眠っている息子に声をかけ、肩を貸して立ち上がらせた。
「大きくなったもんだ」
「身体はね」
苦笑する隼人さんに答えたのは朝子ちゃんで、私は思わず噴き出した。
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