fragrance

松田丹子(まつだにこ)

文字の大きさ
1 / 4

Lemon&Mint

しおりを挟む
 頭がガンガンしている。昨日のやけ酒のせいだ。

「うぅ……」

 うめきながら身体を起こす。カーテンから差し込む白い光。もう朝なのはわかってる。そして今日が週の始まりであることも、わかってる。

 ーーごめん。

 彼の困ったような顔がまぶたの裏に浮かび、頭痛と心痛のダブルアタック。勘弁してよ。
 目を開けば彼の顔は消えた。ほっと吐き出した息は酒臭い。
 確かに、彼は何も言ってなかった。いくら2人で月イチで出かけても、映画の趣味が合っても、ただそれだけのこと。
 勝手に期待して盛り上がったのは私の方。ーー彼女がいるなんて思わなかったのも、確認しなかった私のせい。
 冷静さを取り戻そうとするほど、羞恥心と喪失感が心臓をえぐってくる。ついでに残っているアルコールが心臓に負荷をかけてくる。

 ああ、もうそろそろ出勤の準備しなきゃ。

 男がいなくても仕事はある。働かないと稼げない。男がいなくても生きていけるけどお金がないと生きてはいけない。
 いや、別に自分に言い聞かせてるわけじゃない。これはほんとに、現実問題ーーと自分に言い聞かせて、のろのろ立ち上がる。
 朝食は軽くスープとパンで済ませるのが日課だけれど、とてもそんな気分にはならない。とはいえ水分はとった方が良さそう。コップ一杯の水をゆっくり飲む。

 ああ、やっぱりまだお酒が残ってる。最悪。

 めいっぱい顔を歪めて舌打ちしてみる。どんな顔になってるんだろうと横にある鏡を振り向いてみる。ボサボサの髪とげっそりした顔。泣き腫らした目。まずい、これはメイクの前に冷やすのが急務。
 冷蔵庫の中から保冷剤を出してタオルにくるんで目に当てる。一気に頭が冷えてきて、飲みすぎたことへの自己嫌悪。いくらなんでもメイクで隠せる範囲には限界がある。

 今後は日曜にデートなんて入れないようにしよう。金曜土曜なら何かあっても気持ちをリセットして月曜を迎えられる。……社会人同士の付き合いで、そんなことできる?

 不毛な考えがぐるんぐるん頭をめぐる。保冷剤をあてた目の冷たさだけがやたらとクリアだ。
 いい加減身支度しないと間に合わない時間になって、仕方なく保冷剤を手放す。

 まあ、寝起きよりはマシ。できることはした。どうせ私の顔なんて誰も見てない。

 自虐と気休めの言葉がまたしても脳裏を行き来する。育ち始めていた恋心を打ち砕かれた女子の思考なんてこんなもんだと諦める。
 着替えて、化粧して、箪笥の中に手を伸ばす。昨日選んだ甘いフローラルの横にあるレモンとミントの香水ボトルを手に取り、空間にひと吹き。
 ふわっと広がる朝日の香りが、昨夜部屋中に撒き散らした自虐と惰性のアルコール臭を霧散させる。

 さよなら、私の恋心。

 もう一度、今度は頭上に一プッシュ。レモン色の朝日が、今度は私の身体を包み込む。

 おはよう、今週の私。

 鏡を見ると、少しマシになった自分の顔があって、思わず笑った。

「ブサイクな顔してんじゃないよ。笑った方がマシだっつーの」

 鏡の中の自分に言って、いつもの鞄をひっつかむ。

「いってきまーす!」

 昨夜の私に声をかけて、今度はほんものの朝日の中へと飛び込んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

一途に愛した1周目は殺されて終わったので、2周目は王子様を嫌いたいのに、なぜか婚約者がヤンデレ化して離してくれません!

夢咲 アメ
恋愛
「君の愛が煩わしいんだ」 婚約者である王太子の冷たい言葉に、私の心は砕け散った。 それから間もなく、私は謎の襲撃者に命を奪われ死んだ――はずだった。 死の間際に見えたのは、絶望に顔を歪ませ、私の名を叫びながら駆け寄る彼の姿。 ​……けれど、次に目を覚ました時、私は18歳の自分に戻っていた。 ​「今世こそ、彼を愛するのを辞めよう」 そう決意して距離を置く私。しかし、1周目であれほど冷酷だった彼は、なぜか焦ったように私を追いかけ、甘い言葉で縛り付けようとしてきて……? ​「どこへ行くつもり? 君が愛してくれるまで、僕は君を離さないよ」 ​不器用すぎて愛を間違えたヤンデレ王子×今世こそ静かに暮らしたい令嬢。 死から始まる、執着愛の二周目が幕を開ける!

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

あなたの愛はいりません

oro
恋愛
「私がそなたを愛することは無いだろう。」 初夜当日。 陛下にそう告げられた王妃、セリーヌには他に想い人がいた。

本物の夫は愛人に夢中なので、影武者とだけ愛し合います

こじまき
恋愛
幼い頃から許嫁だった王太子ヴァレリアンと結婚した公爵令嬢ディアーヌ。しかしヴァレリアンは身分の低い男爵令嬢に夢中で、初夜をすっぽかしてしまう。代わりに寝室にいたのは、彼そっくりの影武者…生まれたときに存在を消された双子の弟ルイだった。 ※「小説家になろう」にも投稿しています

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

あなたがそのつもりなら

素亭子
恋愛
リリアーナはランス侯爵からの求婚をうけて結婚したが、わずか一年で夫は愛人を持った。リリアーナの仕返しの話です

恋の終わりに

オオトリ
恋愛
「我々の婚約は、破棄された」 私達が生まれる前から決まっていた婚約者である、王太子殿下から告げられた言葉。 その時、私は 私に、できたことはーーー ※小説家になろうさんでも投稿。 ※一時間ごとに公開し、全3話で完結です。 タイトル及び、タグにご注意!不安のある方はお気をつけてください。

処理中です...