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おまけ
百貨店員の出陣式
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時は過ぎ、暦は12月に変わった。
年末年始の百貨店は戦場だ。
当然、我々にも休みらしい休みはない。
晴れて婚約した私と成海は、互いの親にかろうじて挨拶できたものの、その先の手配をしきれずにいる。まあ急がなくてもいいんじゃない、と言うのは私の方で、成海は早く同棲したがっている。
でもうちの親は結婚式が先だと言っているので、結婚式、入籍、同棲という順になりそうだ。もう年末年始に入るから、それも多分春先になるだろう。
ということで、来たる戦いに備え、出陣式と称してエンドゥーと成海共々飲みに行った。
各々好きに頼んだものを飲み食いして一息ついた頃、私はエンドゥーを見やる。
「エンドゥー。そういえばお姉さん、年末戻ってくるの?」
「あー、戻って来るらしい」
エンドゥーのお姉さんは7つだか8つだか年上だそうで、もう結婚して子どももいる。関東在住ではあるけど電車でも片道3時間くらいかかるらしいので、年末年始は子ども共々戻って来ることが多いらしい。
ふぅん、とあいづちを打った私に、エンドゥーが「何でそんなことお前が気にするんだ」という顔をした後、眉を寄せる。
「……ノーコメント」
「何も言ってないよ」
「じゃあ俺が聞く。本命さんと会えそうなの?」
横から成海が言った。エンドゥーが「ぐ」と呻く。成海に言われたら流せないのだろう。二人にはその点、よくわからない力関係があるらしい。
「……来る、らしい。一応」
「あらぁ。よかったじゃーん」
「よかった……のかなぁ……」
エンドゥーは頬杖をつき、深々と息を吐き出した。
「……お前ら見てて、思ってたことがあってさ」
「ん? 何?」
「次に会えたら……ケリつけようかなぁって」
エンドゥーは切なげに目を伏せながら、手にしたグラスをくるりと回す。グラスの中で氷がカランと音を立てた。
「ケリ?」
「そ。当たってみて、無理なら……諦める」
エンドゥーの沈んだ横顔に、私と成海は目を見合せる。
「……なんで、そんな。当たって当たって当たりまくってもいいんじゃないの」
「そんなタフじゃねーよ……」
「ふぅん。その程度なんだ。本命って言っても」
成海が呟くと、エンドゥーが恨めしげに睨みつけた。
「てめぇ……自分は念願叶ったからって、偉そうに……」
「俺もがんばったもん」
「もん、じゃねぇよ、くそっ」
唇を尖らせる成海と毒づくエンドゥーに、私がまあまあと苦笑する。
エンドゥーはまたため息をついて、グラスに残ったブランデーを一気に煽った。
「ちなみに、Xデーはいつなの」
「29日。だから、その日だけは誰に何と言われようと定時で上がるぞ」
「……他の人に何言われようと気にしない癖に、本命さんに関してはふてぶてしくなりきれないわけね……」
「うるせぇ。とりあえずそういうことだから、ナギ、何かあったらフォロー頼んだ」
「いや、フォローって」
「遠藤は急な発熱で帰ったらしいとか」
「そんで翌日バリバリやるわけ? 無理あるでしょ、それ」
苦笑しながら答えた後で、ため息をついた。
「まあ、確かに、エンドゥーにはお世話になったしね。成海が」
「……俺?」
長いまつげをまたたかせる成海に、自覚なしかと苦笑する。
「何か協力できることがあったら言ってね。協力するから。成海が」
「……待ってよ。なんのこと……?」
困惑する成海と私の顔を見比べて、エンドゥーは「気持ちだけもらっとくわ」とため息をついた。
年末年始の商戦まで、あと少し。
エンドゥーの片想いが成就しようがしまいが、新年会はマストだな。
私はグラスを口に運びながら、心のメモに「エンドゥーと新年会」と書き込んだ。
*fin*
そんなわけで、今夜からは、全力で本命を落としにかかるエンドゥーの話を公開します。
雰囲気が変わるのと思いの外長くなったので、別作品として公開しますが、もしご興味ありましたら、引き続きお付き合いくださいませ♪
また違う作品でもお会いできることを祈りつつ。
拙い作品でしたが、お付き合いくださり、ありがとうこざいました!
松丹子 拝
年末年始の百貨店は戦場だ。
当然、我々にも休みらしい休みはない。
晴れて婚約した私と成海は、互いの親にかろうじて挨拶できたものの、その先の手配をしきれずにいる。まあ急がなくてもいいんじゃない、と言うのは私の方で、成海は早く同棲したがっている。
でもうちの親は結婚式が先だと言っているので、結婚式、入籍、同棲という順になりそうだ。もう年末年始に入るから、それも多分春先になるだろう。
ということで、来たる戦いに備え、出陣式と称してエンドゥーと成海共々飲みに行った。
各々好きに頼んだものを飲み食いして一息ついた頃、私はエンドゥーを見やる。
「エンドゥー。そういえばお姉さん、年末戻ってくるの?」
「あー、戻って来るらしい」
エンドゥーのお姉さんは7つだか8つだか年上だそうで、もう結婚して子どももいる。関東在住ではあるけど電車でも片道3時間くらいかかるらしいので、年末年始は子ども共々戻って来ることが多いらしい。
ふぅん、とあいづちを打った私に、エンドゥーが「何でそんなことお前が気にするんだ」という顔をした後、眉を寄せる。
「……ノーコメント」
「何も言ってないよ」
「じゃあ俺が聞く。本命さんと会えそうなの?」
横から成海が言った。エンドゥーが「ぐ」と呻く。成海に言われたら流せないのだろう。二人にはその点、よくわからない力関係があるらしい。
「……来る、らしい。一応」
「あらぁ。よかったじゃーん」
「よかった……のかなぁ……」
エンドゥーは頬杖をつき、深々と息を吐き出した。
「……お前ら見てて、思ってたことがあってさ」
「ん? 何?」
「次に会えたら……ケリつけようかなぁって」
エンドゥーは切なげに目を伏せながら、手にしたグラスをくるりと回す。グラスの中で氷がカランと音を立てた。
「ケリ?」
「そ。当たってみて、無理なら……諦める」
エンドゥーの沈んだ横顔に、私と成海は目を見合せる。
「……なんで、そんな。当たって当たって当たりまくってもいいんじゃないの」
「そんなタフじゃねーよ……」
「ふぅん。その程度なんだ。本命って言っても」
成海が呟くと、エンドゥーが恨めしげに睨みつけた。
「てめぇ……自分は念願叶ったからって、偉そうに……」
「俺もがんばったもん」
「もん、じゃねぇよ、くそっ」
唇を尖らせる成海と毒づくエンドゥーに、私がまあまあと苦笑する。
エンドゥーはまたため息をついて、グラスに残ったブランデーを一気に煽った。
「ちなみに、Xデーはいつなの」
「29日。だから、その日だけは誰に何と言われようと定時で上がるぞ」
「……他の人に何言われようと気にしない癖に、本命さんに関してはふてぶてしくなりきれないわけね……」
「うるせぇ。とりあえずそういうことだから、ナギ、何かあったらフォロー頼んだ」
「いや、フォローって」
「遠藤は急な発熱で帰ったらしいとか」
「そんで翌日バリバリやるわけ? 無理あるでしょ、それ」
苦笑しながら答えた後で、ため息をついた。
「まあ、確かに、エンドゥーにはお世話になったしね。成海が」
「……俺?」
長いまつげをまたたかせる成海に、自覚なしかと苦笑する。
「何か協力できることがあったら言ってね。協力するから。成海が」
「……待ってよ。なんのこと……?」
困惑する成海と私の顔を見比べて、エンドゥーは「気持ちだけもらっとくわ」とため息をついた。
年末年始の商戦まで、あと少し。
エンドゥーの片想いが成就しようがしまいが、新年会はマストだな。
私はグラスを口に運びながら、心のメモに「エンドゥーと新年会」と書き込んだ。
*fin*
そんなわけで、今夜からは、全力で本命を落としにかかるエンドゥーの話を公開します。
雰囲気が変わるのと思いの外長くなったので、別作品として公開しますが、もしご興味ありましたら、引き続きお付き合いくださいませ♪
また違う作品でもお会いできることを祈りつつ。
拙い作品でしたが、お付き合いくださり、ありがとうこざいました!
松丹子 拝
応援ありがとうございます!
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こんにちは♪
神崎家から離れこちらに来ました。
安定の面白さ(^∇^)
次行ってきます~(^o^)/
ぴろりん様
す、すごい、次々読了ありがとうございます…!
この話は書きながらちょっといつもと違う感じがあったので、少しでもお楽しみいただけたならよかったです(感想いただきほっとしました)
ありがとうございます!