49 / 49
後日談5 ウェディングドレスの選び方(交互視点)
05
しおりを挟む
かたかたと、音が聞こえる。すごく幸せな夢を見ていたはずなのに、頭に残っているのはパステルカラーの温もりだけで、何を見たのか覚えていない。
誰かが近づいてくる気配がする。枕元が沈む。顔の前に、何かが近づく。――唇に、温もり――
「……おはよう」
ゆっくり目を開いたそこに、優しい垂れ目が私を見下ろしている。私はほぅ、っと慎重に息を吐き出して、気恥ずかしさに布団の中にもぐりこんだ。
「あれ? ちょっと、梢ちゃん?」
笑いを含んだ勝くんの声が、お腹の底をくすぐる。
そんなに優しい声出さないで。ただでさえ、
「――どうしたの? 顔、真っ赤」
容赦なく顔にかけた布団を剥ぎ取った勝くんが、楽し気な笑顔で私を見下ろす。朝日が、窓から差し込んで勝くんの顔を輝かせている。シャツのボタンやネクタイピンに、光がきらきら反射している。
――やっぱり、王子様、だ。
「ふ、ふとん……かえして」
「だってまた隠れるつもりでしょう?」
勝くんが笑う。「せっかく、姫の眠りを覚ますキスをしたつもりだったのに」と言われて、私の顔はますます熱を持つ。
「ひ、姫じゃない」
「違うの? ――じゃあ、何?」
「えっ……」
姫なんて言うには、年が行き過ぎている。ご隠居。それは行き過ぎか。ええと、ええと――
「時間切れ」
目を泳がせていた私の唇に、勝くんの唇が重なる。しっとりしていて、柔らかくて、あたたかい。眠りから覚めるときに触れたのと同じ、優しいキス。
「おはよう、梢ちゃん」
細めた垂れ目に甘く見つめられて、私はこくりと頷いた。
「おはよう……勝くん」
かっこよくて、まぶしくて、まっすぐに見るのは勇気がいる。けど、でも、勝くんは、私の――王子様なんだ。
ぶわっと恥ずかしさがこみ上げて、慌ててごろんと転がった。勝くんに背を向けて顔を覆うと、勝くんが一瞬の間の後でくすりと笑う。
「――そういう恰好すると、昨日の続きしたいのかなぁ、なんて思っちゃうけど――」
私の肩に置かれた手が、つつ、と背中を伝っていく。肩甲骨の間から、腰の上まで――甘い痺れを思い出して、私はぎくりとして身体を起こす。
「し、しない。起きる、起きます」
「えぇ、そう? 残念だな」
勝くんはくすくす笑っている。相変わらず、私よりも年下だなんて思えないくらい、余裕のある笑顔――
それが近づいてきたと思ったら、耳元で囁いた。
「今日も可愛いよ、梢ちゃん。――愛してる」
「ひぇっ」と変な声を出した私に、勝くんはくつくつ笑った。
まるでいたずらが成功したような満足げな笑いに、私は思うのだった。
きっと、ずっと、この人には敵わないんだろう――って。
FIN.
***
今後もSSを投下することはあるかもしれませんが、ひとまずこれにて後日談も完結です。
感想やコメント、とても励みになりましたし、後日談もそのお陰で執筆できました。
ご愛顧ありがとうございました!
松丹子 拝
誰かが近づいてくる気配がする。枕元が沈む。顔の前に、何かが近づく。――唇に、温もり――
「……おはよう」
ゆっくり目を開いたそこに、優しい垂れ目が私を見下ろしている。私はほぅ、っと慎重に息を吐き出して、気恥ずかしさに布団の中にもぐりこんだ。
「あれ? ちょっと、梢ちゃん?」
笑いを含んだ勝くんの声が、お腹の底をくすぐる。
そんなに優しい声出さないで。ただでさえ、
「――どうしたの? 顔、真っ赤」
容赦なく顔にかけた布団を剥ぎ取った勝くんが、楽し気な笑顔で私を見下ろす。朝日が、窓から差し込んで勝くんの顔を輝かせている。シャツのボタンやネクタイピンに、光がきらきら反射している。
――やっぱり、王子様、だ。
「ふ、ふとん……かえして」
「だってまた隠れるつもりでしょう?」
勝くんが笑う。「せっかく、姫の眠りを覚ますキスをしたつもりだったのに」と言われて、私の顔はますます熱を持つ。
「ひ、姫じゃない」
「違うの? ――じゃあ、何?」
「えっ……」
姫なんて言うには、年が行き過ぎている。ご隠居。それは行き過ぎか。ええと、ええと――
「時間切れ」
目を泳がせていた私の唇に、勝くんの唇が重なる。しっとりしていて、柔らかくて、あたたかい。眠りから覚めるときに触れたのと同じ、優しいキス。
「おはよう、梢ちゃん」
細めた垂れ目に甘く見つめられて、私はこくりと頷いた。
「おはよう……勝くん」
かっこよくて、まぶしくて、まっすぐに見るのは勇気がいる。けど、でも、勝くんは、私の――王子様なんだ。
ぶわっと恥ずかしさがこみ上げて、慌ててごろんと転がった。勝くんに背を向けて顔を覆うと、勝くんが一瞬の間の後でくすりと笑う。
「――そういう恰好すると、昨日の続きしたいのかなぁ、なんて思っちゃうけど――」
私の肩に置かれた手が、つつ、と背中を伝っていく。肩甲骨の間から、腰の上まで――甘い痺れを思い出して、私はぎくりとして身体を起こす。
「し、しない。起きる、起きます」
「えぇ、そう? 残念だな」
勝くんはくすくす笑っている。相変わらず、私よりも年下だなんて思えないくらい、余裕のある笑顔――
それが近づいてきたと思ったら、耳元で囁いた。
「今日も可愛いよ、梢ちゃん。――愛してる」
「ひぇっ」と変な声を出した私に、勝くんはくつくつ笑った。
まるでいたずらが成功したような満足げな笑いに、私は思うのだった。
きっと、ずっと、この人には敵わないんだろう――って。
FIN.
***
今後もSSを投下することはあるかもしれませんが、ひとまずこれにて後日談も完結です。
感想やコメント、とても励みになりましたし、後日談もそのお陰で執筆できました。
ご愛顧ありがとうございました!
松丹子 拝
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
190
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(10件)
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
梢ちゃんと勝くんが結婚した後の話を読みたいです。またお子ちゃまができた後の生活も。
梢ちゃん、勝くんのために、ワイシャツのアイロンがけや靴磨きもやってあげて、さらに勝くんが惚れそう。
ちーぼ様
コメントありがとうございます!
アイロンがけと言われて、瞬時にご期待の流れとは全く違う二人の様子が思い浮かびました…笑
面白そうなのでSSが書けたら載せますね!
ありがとうございました!
梢ちゃんの過去の知り合い(?)の瀬戸さんは別のお話で出てきますか?
yutasugu様
特に出すつもりはなかったのですが、飲み会ネタとか美味しいですね……(*´∀`)
ちょっと考えてみます。ありがとうございます!
あぁ…もう好き🥰🥰🥰🥰🥰
きぃち様
ありがとうございますー😊😊😊
みなさまのお声あってこその後日談でした!ありがとうございました✨