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第三章 凶悪な正義
10 犬と主人
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その翌日から、ヨーコさんは家を探し始めた。
貴重品や生活に必要なものは俺も同伴して家に取りに行った。
当日を含めた二、三日は、怖くてとてもではないが眠れないとホテルに泊まり、その後はウィークリーマンションを使っている。
怖がるその気持ちはよくわかった。
でも、そこで「俺の家に来ませんか」と言うまでにはまだ心の距離があることも、ちゃんと分かっていた。
ヨーコさんとの距離は、時間をかけて縮めていったものだ。それこそ、この根気は俺のどこに隠れていたのだろうと自分でも驚くほどだ。
だから、またそれを広げるかもしれない振る舞いをする勇気はない。
「二駅くらいなら、徒歩圏内やろか」
週末。ヨーコさんが住宅情報誌を眺めながら言うのは、なんと俺の部屋だ。
「一人でいるのは怖くてな」
いい歳して駄目やなぁ。と呟きながら俺の家に来たヨーコさんは、二週間連続で俺の家に来ている。
幸か不幸か、見られたくないものも一通り見られた後なので、いつ来てもらっても構わないのだが、やっぱり「一緒に住みましょう!」と言えないのはもどかしい。
「だから、俺バイク買いますから」
「バイクでも、遠かったら駆けつけるのに時間がかかるやろ」
言いながらぺらりとページをめくる。「老眼やろか」と言いながら最近かけ始めた遠視用の赤縁眼鏡が、彼女の色気を数割増にしていて、正直言って目の毒だ。
俺はあまりその顔を見ないようにしているつもりだが、ついついその横顔に視線が引き寄せられ、その度に慌ててそっぽを向いたりしていた。
しばらく雑誌を眺めていたヨーコさんだったが、疲れたようにため息をついた。
「ジョー。おいで」
机に肩肘をつき、手招きをする。
「な、なんですか」
期待と不安がないまぜになった表情で、俺はヨーコさんの足元に座った。
ヨーコさんは俺の頭をわしゃわしゃと撫でる。
「ヨシヨシ」
「俺、犬じゃないですけど」
「違うん?」
「あっ……ヨーコさんの犬なんだったら、なってもいいです」
「阿呆か」
ヨーコさんは俺の頭から手を離して笑った。
「ほんま、阿呆やなぁ。あんた」
その笑顔が眩しい。俺は照れ臭くなって微笑んだ。
「阿呆やから、救われるわ」
ヨーコさんは雑誌をぱたんと閉じた。かと思えば、俺の肩に手を添え、額を寄せる。
「小さい字ぃ見てたら、眠くなったなぁ」
「え……えっと……ベッド使います?」
「あんたが自慰してる場所で寝るんなんて嫌や」
俺は思わず、ごふ、と咳をした。
否定できない。
そんな俺の様子に、ヨーコさんはくつくつと笑い出すと、身を起こした。
「散歩でも行こか。不動産屋さんに聞いた方が早いかも知れへん」
うーん、と伸びをする胸から脇腹のラインがひどくなめまかしくて、俺は慌てて目を反らす。
「今まで何もなかったんが、ラッキーやったんやなぁ」
「そんなことないと思いますけど……」
空き巣に入られる可能性など……全くないとは言えないが、とても多いとも思えない。
いちいち運が悪い、といえばそれまでかもしれないが、今回の場合、犯行に及んだ男がヨーコさんの姿を知っている可能性も捨てきれなかった。
なぜなら、ヨーコさんの部屋からは、ほとんど何も無くなっていなかったし、ひどく荒らされた形跡はなかったからだ。
あの日、ヨーコさんはいつも通り家に入ったらしい。
そして、何となく違和感を覚えた。
違和感の根源は臭いだった。
鼻腔をつく生臭い臭い。
その臭いが示すものに気づき、包丁を手に外に出たそうだ。
警察が来た後、俺と一緒に部屋に入ると、巻き散らかされたヨーコさんの下着の上に、男の吐精の跡があった。
ヨーコさんはそれを見て吐き気をもよおし、到底事情聴取どころではなくなった。ヨーコさんが落ち着くまで日を改めることにし、現場を警察に任せてホテルまで送り届けた。
「眠れへん」
と言うヨーコさんをベッドに寝かせ、俺は手近な椅子に腰かけて見守った。ヨーコさんはときどき目を覚ましては俺がいることを確認し、ほっとしたようにまた目を閉じることを繰り返した。
その姿はひどくか弱くて、悪夢に眉を寄せる表情が少女じみていて、俺は黙ったまま、ときどきその手を取ったり髪を撫でたりしていた。
それでも気付けば、俺も眠りに飲まれてしまった。ヨーコさんが眠る横に上体を預けて寝入った俺は、ヨーコさんのくつくつと小さな笑い声で目を覚ました。
「おはようさん」
かすれたハスキィボイス。
黒目がちな切れ長の目。
小さめなのに厚い唇は、口角がわずかに上がっていた。
それを見てほっとした俺は、思わずヨーコさんの頬に手を添えた。
自然と近づく互いの顔に目を閉じ、唇が重なった。
そのときのことを思い出し、ほぅと息をつく。
抱きしめたのもキスをしたのも、あの日以来一度もない。
ただ、ときどき今日のように、俺のことを犬扱いするヨーコさんに頭をわしゃわしゃされるくらいだ。
まあ、それも嬉しいんだけど。
「さて、行こか」
「あ、はい」
ヨーコさんが立ち上がり、俺もそれに倣う。
立ち上がると当然、俺より頭一つ分下にヨーコさんの顔が来る。ヨーコさんは女性の平均より高めの身長だが、俺が一八〇センチ近いので仕方ない。
俺の顔を見上げて、ヨーコさんは唇を尖らせた。
「なんか、癪やな」
「え? 何ですか」
「あんたに見下ろされるんは」
俺は思わず笑った。
「じゃあ、ヨーコさんの前で這いつくばってましょうか?」
ヨーコさんはふと一考する表情になった。
次いでその肉厚な唇を笑ませる。
あ、やばい。
スイッチ入った。
その表情に、俺自身が反応した。
「それもええなぁ」
ヨーコさんは言って、腕を組み俺を見上げる。
「ジョー。ワンコになり」
静かな声に、俺の下腹部が反応した。
そろりと膝を折り、四つん這いになる。
「ワンコはどう鳴くんや?」
「ワン」
俺は鳴き真似をして、ヨーコさんを見上げた。
「ワンワン」
ヨーコさんは満足げに微笑む。
「ええ子やな」
言いながら、その華奢な指が俺の頬を撫でた。
ヨーコさんはゆっくりとストッキングを脱ぎ、横へ投げ捨てる。
簡易机の上に腰掛けると、足先を俺の顔前に向けた。
「ジョー。綺麗にして」
唾を嚥下する俺の喉が、ゴクリと音を立てた。
俺はヨーコさんの足指に舌を這わせた。靴を履いて来たそのままの足。先ほどまでストッキングの薄い膜で覆われていた足だ。
指の付け根を舌で掻き分け、指をくわえる。ちゅ、ちゅぱ、と音を立てて、一本一本を吸い上げているうち、だんだん夢中になってきた。
ヨーコさんは笑みをたたえたまま俺を見下ろしている。腿の先にほんのりと見える陰に、俺の雄が猛る。ちらちらとその陰影を見ながら、俺は足を吸い上げた。
ときどき、ちゅ、と吸い上げながら、足首からふくらはぎへと舌を這わせる。はぁ、とため息が俺の口から漏れ、びくんびくんと俺自身が跳ねる。
綺麗だ。
ヨーコさんは、どこも綺麗だ。
頭が膝まで行ったとき、スカートの中のショーツが一瞬見えた。淡い色の布が覆った先を想い、自身の先端から何かが溶け出したのが分かる。舌先を最大限に出して脚を舐め取る俺の口から、はぁはぁと、暑さを凌ぐ犬のような吐息が漏れる。
ヨーコさんはふんと鼻で笑い、膝の間まで進んだ俺の頭を掴んだ。
「お痛はあかんで。まだもう一方残っとるやろ」
言って、ヨーコさんはもう片方の脚を差し出す。俺はこくりと頷き、その脚を舐めた。
一心不乱に舐めるうち、俺はヨーコさんの足先を手にいただき、貪るようにその足指をしゃぶっていた。猛る自分自身はズボンの中ではちきれんばかりだ。痛い。苦しい。ぴくんと俺自身が跳ねるたび、ちらちらとヨーコさんの顔を見る。膝の先の、腿の奥に隠れた茂みに想いを馳せる。
欲しい。ヨーコさんが欲しい。
思いながらも、耐える。ヨーコさんは自分に欲情されることを忌み嫌っている。ここで狼になってはいけない。どれだけ苦労して信頼を勝ち取ってきたと思ってるんだ。せっかく、緊急時に連絡をくれるほどにまでなったのに。
思ったとき、はっとして舌を止めた。ヨーコさんが首を傾げる。
「どしたん?」
「い、いや……」
俺は上体を起こし、床にぺたんと尻をついた。
不意に俺をとらえた賢者モードに、先ほどまでいきり立っていた俺は萎えている。
「……なんでも……ないんですけど」
首を傾げるヨーコさんを見られず、俺は目をそらした。
ヨーコさんは、自分を女と思われることを嫌がっている。
それなのに、こうして俺を挑発する。
俺の意思を試すように。
その先に、彼女のどんな本心があるんだろう。
俺はひと息ついて、おずおずとヨーコさんを見た。
ヨーコさんはつくろった笑顔を失い、切れ長の目を丸くしてきょとんとしている。
……すげぇ可愛い。
懲りもしない俺自身がぴょこんと跳ねた。そのとき、パンツの中が湿っていることに気づき眉を寄せる。
「……ヨーコさん」
「なんやの?」
「……行きましょう、家探し」
俺は言って、立ち上がった。
「ずっとウィークリーマンションにいるのもどうかと思うし。早く見つけましょう、安心して住めるとこ」
言いながら、服がしまってある寝室へ向かう。
「……そう言いながら、どこ行くん」
ヨーコさんに問われて、俺は気まずくそちらを向いた。
「……ちょっと着替えさせてください」
ヨーコさんはしばらく目をまたたかせてから噴き出した。
「濡れたん?」
俺は黙って寝室のドアを閉めた。
閉めたドアの向こうにヨーコさんの軽やかな笑い声を聞きながら、俺はズボンと下着を一緒に下ろす。
まったく。
……まったく。
新しい下着を身につけながら、俺は口の中でぶつぶつと呟いた。
ヨーコさんがいけないんだ。ヨーコさんが……
ズボンが濡れていないことを確認して、新しい下着の上から履きなおす。
足指の爪も、綺麗なピンク色だったな……。
思ったタイミングが悪かった。ぴくんと反応した俺自身が下着を押し上げ、閉じかけたチャックにパンツが噛んで、しばらく四苦八苦するはめになった。
貴重品や生活に必要なものは俺も同伴して家に取りに行った。
当日を含めた二、三日は、怖くてとてもではないが眠れないとホテルに泊まり、その後はウィークリーマンションを使っている。
怖がるその気持ちはよくわかった。
でも、そこで「俺の家に来ませんか」と言うまでにはまだ心の距離があることも、ちゃんと分かっていた。
ヨーコさんとの距離は、時間をかけて縮めていったものだ。それこそ、この根気は俺のどこに隠れていたのだろうと自分でも驚くほどだ。
だから、またそれを広げるかもしれない振る舞いをする勇気はない。
「二駅くらいなら、徒歩圏内やろか」
週末。ヨーコさんが住宅情報誌を眺めながら言うのは、なんと俺の部屋だ。
「一人でいるのは怖くてな」
いい歳して駄目やなぁ。と呟きながら俺の家に来たヨーコさんは、二週間連続で俺の家に来ている。
幸か不幸か、見られたくないものも一通り見られた後なので、いつ来てもらっても構わないのだが、やっぱり「一緒に住みましょう!」と言えないのはもどかしい。
「だから、俺バイク買いますから」
「バイクでも、遠かったら駆けつけるのに時間がかかるやろ」
言いながらぺらりとページをめくる。「老眼やろか」と言いながら最近かけ始めた遠視用の赤縁眼鏡が、彼女の色気を数割増にしていて、正直言って目の毒だ。
俺はあまりその顔を見ないようにしているつもりだが、ついついその横顔に視線が引き寄せられ、その度に慌ててそっぽを向いたりしていた。
しばらく雑誌を眺めていたヨーコさんだったが、疲れたようにため息をついた。
「ジョー。おいで」
机に肩肘をつき、手招きをする。
「な、なんですか」
期待と不安がないまぜになった表情で、俺はヨーコさんの足元に座った。
ヨーコさんは俺の頭をわしゃわしゃと撫でる。
「ヨシヨシ」
「俺、犬じゃないですけど」
「違うん?」
「あっ……ヨーコさんの犬なんだったら、なってもいいです」
「阿呆か」
ヨーコさんは俺の頭から手を離して笑った。
「ほんま、阿呆やなぁ。あんた」
その笑顔が眩しい。俺は照れ臭くなって微笑んだ。
「阿呆やから、救われるわ」
ヨーコさんは雑誌をぱたんと閉じた。かと思えば、俺の肩に手を添え、額を寄せる。
「小さい字ぃ見てたら、眠くなったなぁ」
「え……えっと……ベッド使います?」
「あんたが自慰してる場所で寝るんなんて嫌や」
俺は思わず、ごふ、と咳をした。
否定できない。
そんな俺の様子に、ヨーコさんはくつくつと笑い出すと、身を起こした。
「散歩でも行こか。不動産屋さんに聞いた方が早いかも知れへん」
うーん、と伸びをする胸から脇腹のラインがひどくなめまかしくて、俺は慌てて目を反らす。
「今まで何もなかったんが、ラッキーやったんやなぁ」
「そんなことないと思いますけど……」
空き巣に入られる可能性など……全くないとは言えないが、とても多いとも思えない。
いちいち運が悪い、といえばそれまでかもしれないが、今回の場合、犯行に及んだ男がヨーコさんの姿を知っている可能性も捨てきれなかった。
なぜなら、ヨーコさんの部屋からは、ほとんど何も無くなっていなかったし、ひどく荒らされた形跡はなかったからだ。
あの日、ヨーコさんはいつも通り家に入ったらしい。
そして、何となく違和感を覚えた。
違和感の根源は臭いだった。
鼻腔をつく生臭い臭い。
その臭いが示すものに気づき、包丁を手に外に出たそうだ。
警察が来た後、俺と一緒に部屋に入ると、巻き散らかされたヨーコさんの下着の上に、男の吐精の跡があった。
ヨーコさんはそれを見て吐き気をもよおし、到底事情聴取どころではなくなった。ヨーコさんが落ち着くまで日を改めることにし、現場を警察に任せてホテルまで送り届けた。
「眠れへん」
と言うヨーコさんをベッドに寝かせ、俺は手近な椅子に腰かけて見守った。ヨーコさんはときどき目を覚ましては俺がいることを確認し、ほっとしたようにまた目を閉じることを繰り返した。
その姿はひどくか弱くて、悪夢に眉を寄せる表情が少女じみていて、俺は黙ったまま、ときどきその手を取ったり髪を撫でたりしていた。
それでも気付けば、俺も眠りに飲まれてしまった。ヨーコさんが眠る横に上体を預けて寝入った俺は、ヨーコさんのくつくつと小さな笑い声で目を覚ました。
「おはようさん」
かすれたハスキィボイス。
黒目がちな切れ長の目。
小さめなのに厚い唇は、口角がわずかに上がっていた。
それを見てほっとした俺は、思わずヨーコさんの頬に手を添えた。
自然と近づく互いの顔に目を閉じ、唇が重なった。
そのときのことを思い出し、ほぅと息をつく。
抱きしめたのもキスをしたのも、あの日以来一度もない。
ただ、ときどき今日のように、俺のことを犬扱いするヨーコさんに頭をわしゃわしゃされるくらいだ。
まあ、それも嬉しいんだけど。
「さて、行こか」
「あ、はい」
ヨーコさんが立ち上がり、俺もそれに倣う。
立ち上がると当然、俺より頭一つ分下にヨーコさんの顔が来る。ヨーコさんは女性の平均より高めの身長だが、俺が一八〇センチ近いので仕方ない。
俺の顔を見上げて、ヨーコさんは唇を尖らせた。
「なんか、癪やな」
「え? 何ですか」
「あんたに見下ろされるんは」
俺は思わず笑った。
「じゃあ、ヨーコさんの前で這いつくばってましょうか?」
ヨーコさんはふと一考する表情になった。
次いでその肉厚な唇を笑ませる。
あ、やばい。
スイッチ入った。
その表情に、俺自身が反応した。
「それもええなぁ」
ヨーコさんは言って、腕を組み俺を見上げる。
「ジョー。ワンコになり」
静かな声に、俺の下腹部が反応した。
そろりと膝を折り、四つん這いになる。
「ワンコはどう鳴くんや?」
「ワン」
俺は鳴き真似をして、ヨーコさんを見上げた。
「ワンワン」
ヨーコさんは満足げに微笑む。
「ええ子やな」
言いながら、その華奢な指が俺の頬を撫でた。
ヨーコさんはゆっくりとストッキングを脱ぎ、横へ投げ捨てる。
簡易机の上に腰掛けると、足先を俺の顔前に向けた。
「ジョー。綺麗にして」
唾を嚥下する俺の喉が、ゴクリと音を立てた。
俺はヨーコさんの足指に舌を這わせた。靴を履いて来たそのままの足。先ほどまでストッキングの薄い膜で覆われていた足だ。
指の付け根を舌で掻き分け、指をくわえる。ちゅ、ちゅぱ、と音を立てて、一本一本を吸い上げているうち、だんだん夢中になってきた。
ヨーコさんは笑みをたたえたまま俺を見下ろしている。腿の先にほんのりと見える陰に、俺の雄が猛る。ちらちらとその陰影を見ながら、俺は足を吸い上げた。
ときどき、ちゅ、と吸い上げながら、足首からふくらはぎへと舌を這わせる。はぁ、とため息が俺の口から漏れ、びくんびくんと俺自身が跳ねる。
綺麗だ。
ヨーコさんは、どこも綺麗だ。
頭が膝まで行ったとき、スカートの中のショーツが一瞬見えた。淡い色の布が覆った先を想い、自身の先端から何かが溶け出したのが分かる。舌先を最大限に出して脚を舐め取る俺の口から、はぁはぁと、暑さを凌ぐ犬のような吐息が漏れる。
ヨーコさんはふんと鼻で笑い、膝の間まで進んだ俺の頭を掴んだ。
「お痛はあかんで。まだもう一方残っとるやろ」
言って、ヨーコさんはもう片方の脚を差し出す。俺はこくりと頷き、その脚を舐めた。
一心不乱に舐めるうち、俺はヨーコさんの足先を手にいただき、貪るようにその足指をしゃぶっていた。猛る自分自身はズボンの中ではちきれんばかりだ。痛い。苦しい。ぴくんと俺自身が跳ねるたび、ちらちらとヨーコさんの顔を見る。膝の先の、腿の奥に隠れた茂みに想いを馳せる。
欲しい。ヨーコさんが欲しい。
思いながらも、耐える。ヨーコさんは自分に欲情されることを忌み嫌っている。ここで狼になってはいけない。どれだけ苦労して信頼を勝ち取ってきたと思ってるんだ。せっかく、緊急時に連絡をくれるほどにまでなったのに。
思ったとき、はっとして舌を止めた。ヨーコさんが首を傾げる。
「どしたん?」
「い、いや……」
俺は上体を起こし、床にぺたんと尻をついた。
不意に俺をとらえた賢者モードに、先ほどまでいきり立っていた俺は萎えている。
「……なんでも……ないんですけど」
首を傾げるヨーコさんを見られず、俺は目をそらした。
ヨーコさんは、自分を女と思われることを嫌がっている。
それなのに、こうして俺を挑発する。
俺の意思を試すように。
その先に、彼女のどんな本心があるんだろう。
俺はひと息ついて、おずおずとヨーコさんを見た。
ヨーコさんはつくろった笑顔を失い、切れ長の目を丸くしてきょとんとしている。
……すげぇ可愛い。
懲りもしない俺自身がぴょこんと跳ねた。そのとき、パンツの中が湿っていることに気づき眉を寄せる。
「……ヨーコさん」
「なんやの?」
「……行きましょう、家探し」
俺は言って、立ち上がった。
「ずっとウィークリーマンションにいるのもどうかと思うし。早く見つけましょう、安心して住めるとこ」
言いながら、服がしまってある寝室へ向かう。
「……そう言いながら、どこ行くん」
ヨーコさんに問われて、俺は気まずくそちらを向いた。
「……ちょっと着替えさせてください」
ヨーコさんはしばらく目をまたたかせてから噴き出した。
「濡れたん?」
俺は黙って寝室のドアを閉めた。
閉めたドアの向こうにヨーコさんの軽やかな笑い声を聞きながら、俺はズボンと下着を一緒に下ろす。
まったく。
……まったく。
新しい下着を身につけながら、俺は口の中でぶつぶつと呟いた。
ヨーコさんがいけないんだ。ヨーコさんが……
ズボンが濡れていないことを確認して、新しい下着の上から履きなおす。
足指の爪も、綺麗なピンク色だったな……。
思ったタイミングが悪かった。ぴくんと反応した俺自身が下着を押し上げ、閉じかけたチャックにパンツが噛んで、しばらく四苦八苦するはめになった。
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