28 / 40
28.想いは心へ収め、未来へ
しおりを挟む
俺の目の前で涼香ちゃんが申し訳なさそうに頭を下げる。
「改めまして、大変、大変申し訳なかったです……お世話になりまして……」
俺の前に紙袋を置いた。その横にポンっと置いたプラスチックの筒に思わず吹き出す。子どもの頃駄菓子屋で食べた味付きスルメイカだ。詫びの品のセンスに笑いが出る。
「くっくっ……良かろう。ってか全然迷惑じゃない。逆に俺に電話して欲しかったぐらいだ」
「大輝くん……ごめんね、ありがとね!」
「いや、ほんとごめんな……」
「ん?」
「……イカのお菓子のこと」
涼香は大輝を見て微笑んだ。その笑顔が眩しい。
俺たちは久し振りに韓国料理屋さんにやってきた。あのイカの店はしばらく経って、ほとぼりが冷めてから行ったほうがいいだろう。大将の視線が痛い……。
「あれからどうなの? 後悔、とか、してないの?」
大輝はさらっと言えない。涼香は考えるような素振りを見せながら突き出しのナムルに箸をつける。
「……後悔したり、しなかったり……なんて言うんだろう、武人とは無理なんだろうなって分かってるの、分かってるんだけど……バカだよね、好きになった人は、やっぱり好きなんだね──って、言ってること分かんないね、支離滅裂で。今回振ったのは私だけど……」
涼香は手を振るとビールを手に取ると、ぐいっと飲む。
「嫌いじゃない、武人のこと。それだけ、たまに思い出して、あぁ……あんなことあったな、ああ言ってたなって思い出すかもね。でも、それでも、私の中ではもう忘れられてる感じ。過去の切なくて、甘かった恋の一つになってる……もう、これで終わったんだなって、そんな感じ」
「違うから、もう吹っ切れてるんだからね!」と俺に何度も念を押す。その顔に俺は安心する、色々な意味で。
「俺も、涼香ちゃんのおかげで変わったよ……」
ちょうど隣の席の客が帰っていった。これで少し話しやすくなる。
「希のこと話せるようになって少しずつ辛さがなくなって、希との楽しかった思い出を思い出して笑えるようになった。楽しかった、最高だった思い出を俺はずっと悲しい目でしか見れなかったから……希をいい思い出にしてやれそうだ」
「ちょっとは、私も役に立てたみたい……よかった……」
涼香は目の前の炒め物を皿に取り分けて俺の前に置く。箸を置くと徐に大輝の頭に触れる。
「それでいいんだよ。時折希さんとの思い出に浸って、懐かしんで……。大輝くんの心を包んでくれるいい人が現れたら、一緒に幸せになればいい……大輝くんの幸せを誰よりも望んでるのは、希さんだから……」
大輝は頭を上げると同じように涼香の頭に触れる。二人は笑い合い、ビールジョッキを傾けた。
大輝はこうして話してみて、涼香への気持ちを再確認していた。涼香は希のことをいつも考えてアドバイスをくれる、そんな涼香を純粋に好きだと思った。ただ、まだ気持ちを伝えられなかった。
スイッチのようにいかないんだ、こういうものは……。でも、俺は涼香ちゃんが好きだ、それはもう悩まない。ちゃんと、伝えたい。
涼香は安堵していた。
大輝にはずっと武人のことを応援してもらっていた。大輝がいなければ、きっとまた私たちはすれ違い傷つけあっていたかもしれない。私たち二人が前を向いて歩けるようになったのは……大輝のおかげだ。
大輝くん……希さんの話をする時に本当に表情が穏やかになった。辛そうじゃない、泣くのを我慢してもいない……。
本当に思い出の中の希さんを微笑ましく思い出してるようだ。少しでも、役に立てたのなら良かった。
大輝くんも、私みたいに前に進めるようになるかもしれない。恋を……愛を……もう一度……。
大輝くんが恋を──する?
少し胸に痛みを感じた。勝手に自分で考えて傷ついた。バカみたい。自分が選ばれるって勘違いしてるみたい。
大輝くんはダメだって……。大輝くんは、大事な人。絶対に失いたくない……ずっと一緒にこうしていたい。
涼香が難しい顔をしていると大輝が熱々のチヂミを涼香の口に放り込む。今日は特別出来立てだったようだ。
「んー!? ふぁ、ふあふあ……んぐ──あっちぃな!! あちー、舌が……」
「難しい顔してるからだ、美味かったろ?」
「ふうふうして冷ましてからしてよね……もう……」
涼香は舌の先を外に出し冷やす。その舌は赤くなっていた。その口元に大輝は釘付けになる。
「赤い?」
「……あ? あ、ああ、赤い、よ──」
大輝は残ったビールを一気に飲み干してお代わりを注文した。
緩やかに、そして少しずつ変わった二人がそこに居た。
「改めまして、大変、大変申し訳なかったです……お世話になりまして……」
俺の前に紙袋を置いた。その横にポンっと置いたプラスチックの筒に思わず吹き出す。子どもの頃駄菓子屋で食べた味付きスルメイカだ。詫びの品のセンスに笑いが出る。
「くっくっ……良かろう。ってか全然迷惑じゃない。逆に俺に電話して欲しかったぐらいだ」
「大輝くん……ごめんね、ありがとね!」
「いや、ほんとごめんな……」
「ん?」
「……イカのお菓子のこと」
涼香は大輝を見て微笑んだ。その笑顔が眩しい。
俺たちは久し振りに韓国料理屋さんにやってきた。あのイカの店はしばらく経って、ほとぼりが冷めてから行ったほうがいいだろう。大将の視線が痛い……。
「あれからどうなの? 後悔、とか、してないの?」
大輝はさらっと言えない。涼香は考えるような素振りを見せながら突き出しのナムルに箸をつける。
「……後悔したり、しなかったり……なんて言うんだろう、武人とは無理なんだろうなって分かってるの、分かってるんだけど……バカだよね、好きになった人は、やっぱり好きなんだね──って、言ってること分かんないね、支離滅裂で。今回振ったのは私だけど……」
涼香は手を振るとビールを手に取ると、ぐいっと飲む。
「嫌いじゃない、武人のこと。それだけ、たまに思い出して、あぁ……あんなことあったな、ああ言ってたなって思い出すかもね。でも、それでも、私の中ではもう忘れられてる感じ。過去の切なくて、甘かった恋の一つになってる……もう、これで終わったんだなって、そんな感じ」
「違うから、もう吹っ切れてるんだからね!」と俺に何度も念を押す。その顔に俺は安心する、色々な意味で。
「俺も、涼香ちゃんのおかげで変わったよ……」
ちょうど隣の席の客が帰っていった。これで少し話しやすくなる。
「希のこと話せるようになって少しずつ辛さがなくなって、希との楽しかった思い出を思い出して笑えるようになった。楽しかった、最高だった思い出を俺はずっと悲しい目でしか見れなかったから……希をいい思い出にしてやれそうだ」
「ちょっとは、私も役に立てたみたい……よかった……」
涼香は目の前の炒め物を皿に取り分けて俺の前に置く。箸を置くと徐に大輝の頭に触れる。
「それでいいんだよ。時折希さんとの思い出に浸って、懐かしんで……。大輝くんの心を包んでくれるいい人が現れたら、一緒に幸せになればいい……大輝くんの幸せを誰よりも望んでるのは、希さんだから……」
大輝は頭を上げると同じように涼香の頭に触れる。二人は笑い合い、ビールジョッキを傾けた。
大輝はこうして話してみて、涼香への気持ちを再確認していた。涼香は希のことをいつも考えてアドバイスをくれる、そんな涼香を純粋に好きだと思った。ただ、まだ気持ちを伝えられなかった。
スイッチのようにいかないんだ、こういうものは……。でも、俺は涼香ちゃんが好きだ、それはもう悩まない。ちゃんと、伝えたい。
涼香は安堵していた。
大輝にはずっと武人のことを応援してもらっていた。大輝がいなければ、きっとまた私たちはすれ違い傷つけあっていたかもしれない。私たち二人が前を向いて歩けるようになったのは……大輝のおかげだ。
大輝くん……希さんの話をする時に本当に表情が穏やかになった。辛そうじゃない、泣くのを我慢してもいない……。
本当に思い出の中の希さんを微笑ましく思い出してるようだ。少しでも、役に立てたのなら良かった。
大輝くんも、私みたいに前に進めるようになるかもしれない。恋を……愛を……もう一度……。
大輝くんが恋を──する?
少し胸に痛みを感じた。勝手に自分で考えて傷ついた。バカみたい。自分が選ばれるって勘違いしてるみたい。
大輝くんはダメだって……。大輝くんは、大事な人。絶対に失いたくない……ずっと一緒にこうしていたい。
涼香が難しい顔をしていると大輝が熱々のチヂミを涼香の口に放り込む。今日は特別出来立てだったようだ。
「んー!? ふぁ、ふあふあ……んぐ──あっちぃな!! あちー、舌が……」
「難しい顔してるからだ、美味かったろ?」
「ふうふうして冷ましてからしてよね……もう……」
涼香は舌の先を外に出し冷やす。その舌は赤くなっていた。その口元に大輝は釘付けになる。
「赤い?」
「……あ? あ、ああ、赤い、よ──」
大輝は残ったビールを一気に飲み干してお代わりを注文した。
緩やかに、そして少しずつ変わった二人がそこに居た。
11
あなたにおすすめの小説
この恋は報われないはずだった
鳥花風星
恋愛
遠野楓(かえで)には密かにずっと憧れている義兄、響(ひびき)がいた。義兄と言っても、高校生の頃に母親の再婚で義兄になり、大学生の頃に離婚して別離した元義兄だ。
楓は職場での辛い恋愛に終止符を打って退職し、心機一転新しく住むはずだったマンションに向かう。だが、不動産屋の手違いで既に住人がおり、しかもその住人がまさかの響だった。行くあてのない楓に、響は当然のように一緒に住む提案をする。
響のその提案によって、報われない恋を封印していた楓の恋心は、また再燃し始める。
「こんなに苦しい思いをするなら、お兄ちゃんになんてなってほしくなかった」
ずっとお互い思い合っているのに、すれ違ったまま離れていた二人。拗らせたままの心の距離が、同居によって急速に縮まっていく。
届かぬ温もり
HARUKA
恋愛
夫には忘れられない人がいた。それを知りながら、私は彼のそばにいたかった。愛することで自分を捨て、夫の隣にいることを選んだ私。だけど、その恋に答えはなかった。すべてを失いかけた私が選んだのは、彼から離れ、自分自身の人生を取り戻す道だった·····
◆◇◆◇◆◇◆
読んでくださり感謝いたします。
すべてフィクションです。不快に思われた方は読むのを止めて下さい。
ゆっくり更新していきます。
誤字脱字も見つけ次第直していきます。
よろしくお願いします。
それでも好きだった。
下菊みこと
恋愛
諦めたはずなのに、少し情が残ってたお話。
主人公は婚約者と上手くいっていない。いつも彼の幼馴染が邪魔をしてくる。主人公は、婚約解消を決意する。しかしその後元婚約者となった彼から手紙が来て、さらにメイドから彼のその後を聞いてしまった。その時に感じた思いとは。
小説家になろう様でも投稿しています。
私の完璧な婚約者
夏八木アオ
恋愛
完璧な婚約者の隣が息苦しくて、婚約取り消しできないかなぁと思ったことが相手に伝わってしまうすれ違いラブコメです。
※ちょっとだけ虫が出てくるので気をつけてください(Gではないです)
背徳の恋のあとで
ひかり芽衣
恋愛
『愛人を作ることは、家族を維持するために必要なことなのかもしれない』
恋愛小説が好きで純愛を夢見ていた男爵家の一人娘アリーナは、いつの間にかそう考えるようになっていた。
自分が子供を産むまでは……
物心ついた時から愛人に現を抜かす父にかわり、父の仕事までこなす母。母のことを尊敬し真っ直ぐに育ったアリーナは、完璧な母にも唯一弱音を吐ける人物がいることを知る。
母の恋に衝撃を受ける中、予期せぬ相手とのアリーナの初恋。
そして、ずっとアリーナのよき相談相手である図書館管理者との距離も次第に近づいていき……
不倫が身近な存在の今、結婚を、夫婦を、子どもの存在を……あなたはどう考えていますか?
※アリーナの幸せを一緒に見届けて下さると嬉しいです。
もう何も信じられない
ミカン♬
恋愛
ウェンディは同じ学年の恋人がいる。彼は伯爵令息のエドアルト。1年生の時に学園の図書室で出会って二人は友達になり、仲を育んで恋人に発展し今は卒業後の婚約を待っていた。
ウェンディは平民なのでエドアルトの家からは反対されていたが、卒業して互いに気持ちが変わらなければ婚約を認めると約束されたのだ。
その彼が他の令嬢に恋をしてしまったようだ。彼女はソーニア様。ウェンディよりも遥かに可憐で天使のような男爵令嬢。
「すまないけど、今だけ自由にさせてくれないか」
あんなに愛を囁いてくれたのに、もう彼の全てが信じられなくなった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる