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27.最後の抱擁は夢の中
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夢の中で希が台所に立ち何かを作っている。
トン トン トン トン
まな板と包丁の刃が当たるいい音が響く。何かを軽快に刻んでいるようだ。俺はベッドから起きあがると台所へ向かう。
「何を作っているんだ?」
「んーえっとね、筑前煮を作ろうかなって」
「楽しみだな」
「大輝はそこで座ってて、私刃物持ってるからね!」
大輝は背後から抱きしめる。希の肩に顎を置く。希の香水の香りがした。鼻からその香りを目一杯吸う。この香りを細胞中に閉じ込めるように。
「大輝……泣かないでね」
「泣いて、ないよ。泣くわけないだろう、俺が」
大輝は希にバレぬように涙を流した。包丁をまな板の上に置くと希が振り返った。その瞳からは涙が零れ落ちていた。それを見て大輝は顔を歪ませた。もう零れ落ちる涙は止められない。
希から一歩下がると大輝は顔を覆い身をかがめた。こんな姿見せたくなかった。
「大輝、いいんだよ……もう十分だから」
「十分じゃない、足りないだろう? 突然俺たちの未来は途絶えたんだ。もっとこうして希の手料理を食べて、抱きしめて、笑って──」
話しながら、それは全て二度と叶わぬことだと大輝の心を締め上げて続きは言えなかった。
「あの子が、好きなんでしょ? 分かる。大輝あの子のことばかり考えてる。友情ではなくなってるのに、それに気づかないふりしてる」
「希の事を話しているときに笑えるようになったのは、涼香ちゃんのおかげだ。いつからなんてものは分からないけど、希、ごめん、俺──」
大輝は息を吐き希を見た。視線が絡まると大輝は小さく何度も頷いた。
「俺、涼香ちゃんが、好きだ……」
「うん、言ってくれてありがとう」
「お前だけを見る、って、言ったのに……俺を許さないでくれ、希、どうして、お前は──!」
希は笑っていた。キレイな笑顔だった。
大輝は嗚咽を抑えきれない。
希を愛し続けたいと思っていた。最後の恋だと思っていた。それなのに、心が動いてしまった。
希は大輝を抱きしめた。背中をポンと叩くと表情は見えないが笑っているのが分かった。自然と涙が止まる。
「許さない訳ないじゃない……許されないのは私の方。突然大輝を置いて消えちゃった……大輝を苦しめてこんな長い間、私が閉じ込めた。許されないのは、私の方……ごめんね、大輝」
希が泣いている。希が鼻をすすると俺から離れる。鼻の先が赤い。あぁ、本物の希だ。
「私は、十分幸せだったから。もういいの。大輝にも幸せになってほしい。私に罪悪感を感じる必要ないから……大輝、あの子への気持ちを止めないでね、せっかく出会ったんだもの……」
「…………っ」
ありがとうも違う。
ごめんも違う。
愛しているも言えない──何も言えない。
嗚咽をただ飲み込むことしかできない俺を希は抱きしめた。
「またいつか、会いましょ……大丈夫よ! 私はいつだって元気で笑ってるから」
「の、ぞみ……元気でな」
俺は希はきつく抱きしめた。
これがきっと最後だ。もう希は俺に会いにきてくれない……そんな気がした。希はきっと俺のことが心配で会いにきてくれていた。俺が、希を閉じ込めてしまっていたのかもしれない。
「ありがとう、大輝」
次の瞬間俺はベットの上で仰向けで寝ていた。
「……か、は、……う…………」
目が覚めて一気に涙と嗚咽で無茶苦茶になる。希の温もりが消えた。仰向けのまま胸元を撫でるがそこにはもう何も残されていなかった。
荒れる呼吸を深呼吸して整える。希が逝ったのが分かった。
大輝は窓を開ける。
朝日に照らされて眩しいが大輝は笑っていた。朝起きて、いつも隣に希がいなくて辛かった。
でも、もう大丈夫だ──こんなにも朝日が気持ちがいいのだから。
トン トン トン トン
まな板と包丁の刃が当たるいい音が響く。何かを軽快に刻んでいるようだ。俺はベッドから起きあがると台所へ向かう。
「何を作っているんだ?」
「んーえっとね、筑前煮を作ろうかなって」
「楽しみだな」
「大輝はそこで座ってて、私刃物持ってるからね!」
大輝は背後から抱きしめる。希の肩に顎を置く。希の香水の香りがした。鼻からその香りを目一杯吸う。この香りを細胞中に閉じ込めるように。
「大輝……泣かないでね」
「泣いて、ないよ。泣くわけないだろう、俺が」
大輝は希にバレぬように涙を流した。包丁をまな板の上に置くと希が振り返った。その瞳からは涙が零れ落ちていた。それを見て大輝は顔を歪ませた。もう零れ落ちる涙は止められない。
希から一歩下がると大輝は顔を覆い身をかがめた。こんな姿見せたくなかった。
「大輝、いいんだよ……もう十分だから」
「十分じゃない、足りないだろう? 突然俺たちの未来は途絶えたんだ。もっとこうして希の手料理を食べて、抱きしめて、笑って──」
話しながら、それは全て二度と叶わぬことだと大輝の心を締め上げて続きは言えなかった。
「あの子が、好きなんでしょ? 分かる。大輝あの子のことばかり考えてる。友情ではなくなってるのに、それに気づかないふりしてる」
「希の事を話しているときに笑えるようになったのは、涼香ちゃんのおかげだ。いつからなんてものは分からないけど、希、ごめん、俺──」
大輝は息を吐き希を見た。視線が絡まると大輝は小さく何度も頷いた。
「俺、涼香ちゃんが、好きだ……」
「うん、言ってくれてありがとう」
「お前だけを見る、って、言ったのに……俺を許さないでくれ、希、どうして、お前は──!」
希は笑っていた。キレイな笑顔だった。
大輝は嗚咽を抑えきれない。
希を愛し続けたいと思っていた。最後の恋だと思っていた。それなのに、心が動いてしまった。
希は大輝を抱きしめた。背中をポンと叩くと表情は見えないが笑っているのが分かった。自然と涙が止まる。
「許さない訳ないじゃない……許されないのは私の方。突然大輝を置いて消えちゃった……大輝を苦しめてこんな長い間、私が閉じ込めた。許されないのは、私の方……ごめんね、大輝」
希が泣いている。希が鼻をすすると俺から離れる。鼻の先が赤い。あぁ、本物の希だ。
「私は、十分幸せだったから。もういいの。大輝にも幸せになってほしい。私に罪悪感を感じる必要ないから……大輝、あの子への気持ちを止めないでね、せっかく出会ったんだもの……」
「…………っ」
ありがとうも違う。
ごめんも違う。
愛しているも言えない──何も言えない。
嗚咽をただ飲み込むことしかできない俺を希は抱きしめた。
「またいつか、会いましょ……大丈夫よ! 私はいつだって元気で笑ってるから」
「の、ぞみ……元気でな」
俺は希はきつく抱きしめた。
これがきっと最後だ。もう希は俺に会いにきてくれない……そんな気がした。希はきっと俺のことが心配で会いにきてくれていた。俺が、希を閉じ込めてしまっていたのかもしれない。
「ありがとう、大輝」
次の瞬間俺はベットの上で仰向けで寝ていた。
「……か、は、……う…………」
目が覚めて一気に涙と嗚咽で無茶苦茶になる。希の温もりが消えた。仰向けのまま胸元を撫でるがそこにはもう何も残されていなかった。
荒れる呼吸を深呼吸して整える。希が逝ったのが分かった。
大輝は窓を開ける。
朝日に照らされて眩しいが大輝は笑っていた。朝起きて、いつも隣に希がいなくて辛かった。
でも、もう大丈夫だ──こんなにも朝日が気持ちがいいのだから。
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