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18.応援と葛藤
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「いい! それでいいわ! 何よ今更、二年も経って!」
「おーい、弘子お前飲み過ぎだぞー」
洋介は前屈みになる弘子の肩を支える。どうやら武人に対して色々思うことがあるようで酒を飲むペースを一人誤ったようだ。
「弘子、落ち着いて……ね?」
涼香も弘子の目の前に置かれた酒のあてやビールを向かいに座る自分の方へと引き寄せる。一気に机の前が片付くとそのまま弘子は机に突っ伏して潰れた。
珍しい、弘子がここまで潰れるのは何年振りだろうか……。
「ごめん、涼香ちゃん……弘子のやつ、元彼に対して怒り心頭でさ……心配なんだと思う」
弘子の寝顔を見て涼香は心が苦しくなる。
武人と別れたあの日、弘子はずっとそばに居てくれた。それからもずっと一人になろうとする私を外へと出してくれた。
弘子がいなければ、どうなっていただろう。自分は本当に友人に恵まれたと思う。
目の前で弘子の頭を撫でる洋介もその一人だ。
「まぁ、そうなるだろうな。結婚まで考えてた相手からそんな仕打ちを受けた親友をずっとそばで見てたんだろ? そりゃ、複雑だろ……あ、生一つ」
大輝は横でビールを飲み干し店員にお代わりを注文する。
武人の告白から数日後こうして四人は集まった。詳しい話を涼香から聞く為だ。
話が進むうちに弘子は潰れて、大輝は無口になった。二人とも涼香の事を思うとどうしても武人の事が許せないようだった。
「ごめんで済めば警察はいらねぇんだよ」
大輝は珍しくイラついている。それを洋介が見て大輝の肩を掌で数回叩く。落ち着けと言っているのが分かり肩をすくめて何も言わなくなった。
「あー……まぁ、とりあえず、まだやり直すって返事していないから……もう少し様子を見たいなって……慎重になりすぎてるのかもしれないんだけど」
洋介が小皿に盛られた枝豆を口に含む。
「でも、涼香ちゃんよくその場でやり直そうって言わなかったね……言い出しそうだったけど。元彼の謝罪とか理由とか聞かなくてもさ」
「あー。うん……まぁ……」
確かにそこに関しては涼香も自分自身の事ながらよくぞ堪えたとは思う。都合のいい女になる可能性が高かったはずだ。
それは、大輝のおかげだろう。
「ま、とりあえずここからだ、な、涼香ちゃん!」
大輝が涼香の頭をポンっと触れる。大輝はこうしてよく私の頭に触れる。それだけで元気がもらえそうだ。
「うん、ありがとう」
洋介は目の前に座る二人を交互に見る。二人にバレないように大きく息を吐いた。
うーん、はたから見りゃ、お似合いなんだけどねぇ……。二人の心の中には違う人間が陣取ってるんだもんな。でも、前よりまた変わったか? 大輝も、涼香ちゃんも……。
洋介は枝豆を押し出すと口に含んだ。その日は弘子の介抱で骨を折った洋介だった。
◇
その日大輝は帰り道にある公園のベンチに座り込んだ。いつもなら立ち止まらずに帰宅するが、今日の涼香の話を聞いて腹が立った。
なんだ?
ごめん、だと?
泣いてるような気がして、だと?! とんでもない大馬鹿野郎だ。泣かすようなことをしたくせによくも会ってすぐにやり直そうとよく言えたな。結婚を匂わせておいて涼香ちゃんを捨てたくせして……。本気か? もう捨てないって約束できるか? 次同じことしたら涼香ちゃんはもっと傷付く……。
なんで涼香ちゃんはあんな男のこと……。
「クソ……」
涼香ちゃんは、踏みとどまったみたいだ。恐らくは俺の言葉のせいだろう……俺は、邪魔をしたか? でも、黙ってなんかいられなかった。
涼香ちゃんはそれでも嬉しそうだった。
俺にとってはボンクラ野郎でも、涼香ちゃんにとっては忘れられない男だ。幸せになって涼香ちゃんが微笑んでくれたらそれでいい。だから大きな一歩だ。それでいい、それなのに……。
公園の木々の合間から輝く一等星が見えた。星の名前は知らないがきっと都会で見える星なのだから有名なものなのだろう。
「希……俺、何やってんだろうな。協力しなきゃダメなのに……すんげぇ腹が立つ──ほっとけないんだ……俺の分身だから……」
大輝はようやく立ち上がるとアパートに向かって歩き出した。
「おーい、弘子お前飲み過ぎだぞー」
洋介は前屈みになる弘子の肩を支える。どうやら武人に対して色々思うことがあるようで酒を飲むペースを一人誤ったようだ。
「弘子、落ち着いて……ね?」
涼香も弘子の目の前に置かれた酒のあてやビールを向かいに座る自分の方へと引き寄せる。一気に机の前が片付くとそのまま弘子は机に突っ伏して潰れた。
珍しい、弘子がここまで潰れるのは何年振りだろうか……。
「ごめん、涼香ちゃん……弘子のやつ、元彼に対して怒り心頭でさ……心配なんだと思う」
弘子の寝顔を見て涼香は心が苦しくなる。
武人と別れたあの日、弘子はずっとそばに居てくれた。それからもずっと一人になろうとする私を外へと出してくれた。
弘子がいなければ、どうなっていただろう。自分は本当に友人に恵まれたと思う。
目の前で弘子の頭を撫でる洋介もその一人だ。
「まぁ、そうなるだろうな。結婚まで考えてた相手からそんな仕打ちを受けた親友をずっとそばで見てたんだろ? そりゃ、複雑だろ……あ、生一つ」
大輝は横でビールを飲み干し店員にお代わりを注文する。
武人の告白から数日後こうして四人は集まった。詳しい話を涼香から聞く為だ。
話が進むうちに弘子は潰れて、大輝は無口になった。二人とも涼香の事を思うとどうしても武人の事が許せないようだった。
「ごめんで済めば警察はいらねぇんだよ」
大輝は珍しくイラついている。それを洋介が見て大輝の肩を掌で数回叩く。落ち着けと言っているのが分かり肩をすくめて何も言わなくなった。
「あー……まぁ、とりあえず、まだやり直すって返事していないから……もう少し様子を見たいなって……慎重になりすぎてるのかもしれないんだけど」
洋介が小皿に盛られた枝豆を口に含む。
「でも、涼香ちゃんよくその場でやり直そうって言わなかったね……言い出しそうだったけど。元彼の謝罪とか理由とか聞かなくてもさ」
「あー。うん……まぁ……」
確かにそこに関しては涼香も自分自身の事ながらよくぞ堪えたとは思う。都合のいい女になる可能性が高かったはずだ。
それは、大輝のおかげだろう。
「ま、とりあえずここからだ、な、涼香ちゃん!」
大輝が涼香の頭をポンっと触れる。大輝はこうしてよく私の頭に触れる。それだけで元気がもらえそうだ。
「うん、ありがとう」
洋介は目の前に座る二人を交互に見る。二人にバレないように大きく息を吐いた。
うーん、はたから見りゃ、お似合いなんだけどねぇ……。二人の心の中には違う人間が陣取ってるんだもんな。でも、前よりまた変わったか? 大輝も、涼香ちゃんも……。
洋介は枝豆を押し出すと口に含んだ。その日は弘子の介抱で骨を折った洋介だった。
◇
その日大輝は帰り道にある公園のベンチに座り込んだ。いつもなら立ち止まらずに帰宅するが、今日の涼香の話を聞いて腹が立った。
なんだ?
ごめん、だと?
泣いてるような気がして、だと?! とんでもない大馬鹿野郎だ。泣かすようなことをしたくせによくも会ってすぐにやり直そうとよく言えたな。結婚を匂わせておいて涼香ちゃんを捨てたくせして……。本気か? もう捨てないって約束できるか? 次同じことしたら涼香ちゃんはもっと傷付く……。
なんで涼香ちゃんはあんな男のこと……。
「クソ……」
涼香ちゃんは、踏みとどまったみたいだ。恐らくは俺の言葉のせいだろう……俺は、邪魔をしたか? でも、黙ってなんかいられなかった。
涼香ちゃんはそれでも嬉しそうだった。
俺にとってはボンクラ野郎でも、涼香ちゃんにとっては忘れられない男だ。幸せになって涼香ちゃんが微笑んでくれたらそれでいい。だから大きな一歩だ。それでいい、それなのに……。
公園の木々の合間から輝く一等星が見えた。星の名前は知らないがきっと都会で見える星なのだから有名なものなのだろう。
「希……俺、何やってんだろうな。協力しなきゃダメなのに……すんげぇ腹が立つ──ほっとけないんだ……俺の分身だから……」
大輝はようやく立ち上がるとアパートに向かって歩き出した。
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