100のキスをあなたに

菅井群青

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69.夜空

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「すごいキレイらしいよ? 矢井田も今夜見るの?」

「……そうだね、見よっかな」

 綾は友人の細谷に微笑み返す。上手く笑えたかどうかは自信が無かった……。笑顔が引きつっていたとしても、細谷は私の気持ちなどどうでもいいはずだ。可愛い彼女の事で頭がいっぱいなのだから。

 長い片思いだった。
 高校に入って同じクラスになり、明るい性格と、眩しい笑顔に惹かれて恋に落ちた。それから少しずつ話すようになり、今のように痴話話をする間柄になった。

 今となっては距離が近すぎたのかもしれない……。女として認識されていない。

 今日は流星群が全国で観られるとあって朝からテレビでも大盛り上がりだった。すごい数の流れ星が見えるらしい……。
 今夜細谷は彼女と流星群を見に行く。
そんな情報聞きたく無かったが、仕方がない──そんな位置に居座った私が悪いんだ。

 その晩、流星群が最も見える時間帯に自分の部屋からベランダに出てみる。

「おい」
「……なに?」

「こっち来いよ、屋根」

 隣の家に住む幼馴染の龍二が家の屋根に寝転がっている。昔から龍二はこうして屋根で寝るのが好きだ。

綾は家を一旦出ると龍二の部屋へと向かった。

「お邪魔します」
「はーい、どうぞ」

 おばさんは慣れているのでそのままリビングから声を掛けるだけだ。私も我が家のようにさっさと二階の龍二の部屋へと向かう。

 ベランダからハシゴを使って屋根によじ登るとそこに毛布を敷き横になる龍二の姿があった。

「楽しそうね」

「まぁな、狭いけどいいだろ? ここ来いよ。寝たら楽だし」

 龍二が毛布の空いている所をポンっと叩くと綾はそのまま仰向けになる。肩をくっつけて横になるなんて何年ぶりだろう。こうしてみるといつのまにか龍二は大きくなったのが分かる。

「そろそろかな」
「そうだな……あ、来た来た! 流れ星!」

 小さな流れ星が至る所で見える。今頃細谷は笑顔で夜空を見上げているだろう。

 何やってんだろ……見なけりゃよかった。

「やっぱいいや……帰る」

「──だめだって」

 龍二が綾の腕を掴むとそのまま引き止める。すごい力で腕を握りしめる龍二に何も言えなくなる。変な沈黙が続いていたが、龍二が口を開く。

「──いい加減……諦めれば?」

「……何が?」

「細谷は──綾のことなんとも思ってないよ」

 驚いた。ここが暗くて良かった。
 龍二は隣のクラスだ……細谷とは一度同じクラスになった事があるはずだ。まさか、気持ちがバレているとは思わなかった。

「……分かってる、分かってるから言わないでよ」

 綾は流れ星が流れるのを見つめながら涙を流す。龍二は綾が泣いている事に気付いたが何も言わなかった。掴まれていた腕は解放され、代わりに手を握られた。その手は温かかった──。

 しばらく見つめていると、涙が止まり気持ちも楽になった。

「ありがと──楽になった。あー、キレイだったな、流星群」

「……そうか」

 綾が立ち上がるとハシゴに向かって歩き出した。

「あ、龍二、毛布下に持っていくの? 渡して──」

 龍二が難しい顔をして立っていた。怒っているようだ。

「……どうしたの?いや、毛布を──」

 龍二は綾に近づくと一呼吸ついた。

「いいよな?」

「……うん? うん、もういいよ?」

 流星群はもう存分に見た。楽しめた。綾が頷くと龍二は綾の肩に触れた。

 そのままそっと頰に口付けた。

 夜風が吹いたのかと思った。目の前に龍二の顔があった。頰に温かい何かが触れている……唇だと気付いた時はもう龍二は離れていた。

 龍二の手はまだ肩に置かれたままだ。至近距離にいる龍二に綾は固まる。

「な、にしたの? 今」

「……ほっぺに、キスした」

 龍二の口から出たキスの言葉に一気に顔が熱くなる。胸が痛いほどドキドキしている。

「なんで?」

「…………」

「なんでそんなことしたの?」

「──だ」

 龍二は視線を逸らし俯く。綾が龍二に近づき顔を覗く。

「何?」

「──好き、だから」

 龍二の顔は真っ赤だった。昔のことを思い出す。隣のベランダから遊びに誘う幼い頃の龍二の顔とそっくりだった。

 綾は龍二の頭を撫でる。
 龍二は驚いたようだが、嬉しそうに微笑んでいた。

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