ぽっちゃり少年と旅するご近所の神様

とっぷパン

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一章 ”カリム村での旅支度” の段

14話~ぽっちゃりらしく

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 店員さんの注意を頭に入れつつそこ等辺にある帽子やアクセサリーをニ、三選んで試着室へ。カーテンらしき布を引っ張り、僕のぽっちゃり体型ギリギリの大きさの室内を外界から遮る。本題の巾着袋をご開帳に変な意味で心臓の鼓動を早めながら、ゴキブリ駆除の道具の中身を怖いもの見たさで覗く様な感覚で紐を緩める。奏の字印の根付が怪しく光る中、異空間に固定されている巾着袋に目的の物を念じながら手を入れる。
 すると、直ぐに布の感触が指に伝わりゆっくりと手を引き抜く。緊張で震える指先につままれて姿を現したのは――

「――そ、そんな馬鹿な……!? こ、こんな、こんな事が――!」」

「クア?」

 手に当たる布の肌触りは最高級の絹で織られたかの如くしなやかさを持ち、且つ指先に感じられるしっかりとした縫い目が現代日本のミシン織りにも負けない程の強度を教えてくれる。一切の汚れも解れほつれも無く白一色で統一されたシャツには一点だけワンポイントの ”奏” と言う漢字が胸に刺繍され、縫いつけられているボタンは紅と濃褐色の混じる鼈甲と言う気品が漂う作り。僕専用に誂えて下さった事が丸分かりな一品は、さりとて一見するとごく普通のワイシャツである。

「――神様なのに、普通が通じるなんて……!? なんて良い神様なんだろう!」

 矢鱈滅多ら豪奢に装飾が施され、ふさふさのスパンコールや宝石が散りばめられた服を想像していた僕。だが、巾着の紐を開けて出てきたのは凄く一般的な服の数々。どちらかと言えば質素で簡素ながらも扱われている技術が神様の持つモノだからか、少し村人さんの服装なんかからは若干浮いて見える気がしないでも無い。

「へえ、ズボンはゴムを使わずに伸縮性を出しているのか~。ベルトも何の生き物かは分からないけど、結構強い霊力の残滓を感じるな。ブーツも――何だこれ? 変なスイッチみたいなのが三つ付いてる……怖いね」

 余りにも見事な作りにあちこち調べていたら多少可笑しな物が付いていたけど、今は脇に置いておこうと思う。何て言うか、余り詳細が分からない神様印の物を下手に扱うと最悪の場合は人の想像を超えて被害を齎すと相場が決まっている。パンドラの箱とか、仙人や仏様の持つ宝具パオペイとか上げ連ねたら六法全書の厚さを超える記述があるよ。神様同士でさえ他人の物を使って時折落命する事もあるのだから、高々人間がやらかした場合は個人で済む話じゃない。万単位億単位で被害が出て、世界が消滅する危険性も無きにしも非ず……。

「触らぬ神に祟り無し、かな? もしかしたら何れ出会う事があるのかもしれないから、その時まで取って置かなきゃねっと」

「クルルゥ、ク~ア」

 そう言う訳を持ちまして、あーちゃんの御友神からの贈られた衣服は綺麗に畳んで巾着袋の中へと戻しておく。色々調べいる間、適当に持ってきた品の中で興味深そうにじ~っと蝶ネクタイを首に巻いて上げれば自慢げに胸を張る彼。そんな龍帝さんに和みつつ後で一応九ちゃんと志乃さんには見せておこうと思い、一旦試着室から出て持ってきた品々も元に返して先程と同じ様に異世界の服装観察と洒落込む。どれもこれもが一般的な標準サイズだから着れないのが残念だけど、これはこれで結構楽しいものだね。女性がウインドウショッピングをする理由が少し分かった気がする。

「おや、お連れの竜さんのなんとも可愛らしい事。大変御似合いですが、お買い求めになられますかな?」

「折角ですのでお願いします」

 店の奥から数種類の衣服を抱えて戻ってきた店員さんが開口一番に龍帝さんを褒めてくれた。照れて後頭部に手をやる姿も可愛らしいので蝶ネクタイをプレゼントしてあげようと思う。 

「お客様、大変お待たせしました。当店で今ご提供できる服でぴったりな品は御座いませんでしたので、大柄な方専用の物を裾や袖を仮止めで縫い合わせた品になる事をお許し下さい」

「いえ、自分の体型がぽっちゃりしてるのは自覚してますから、どうかお気に為さらず」

「ありがとうございます。では、まずこちらの上着からご着用して頂けますか? 旅衣装と言う事でしたので生地は頑丈で耐久性も高い仕様となっております。色はワーキガン白色、プルーぺ緑色、オルマ黄色となっておりますが、ご希望はありますかな?」

 ふ~ん、色の基準が良く分からないけど個人的にはプルーぺ緑色とか言う常盤色の上着が良いかな。正直この色は中々に渋い色だからして、家の庭にある東屋でお茶を楽しんでいる時にオモさん事思金神おもいかねのかみからお茶を啜ってほっこりした所で思わず――

『――奏慈君はあれですな、この緑茶の如く渋くも円やかで深い色がお好きとは中々に分かっている。江戸が栄えていた頃などは日ノ本八百万の神々も人でも縁起を担いで愛好していた色ですが、それ現代の人の身となれば若くして良さが分かる色ではありませんからな。いや、中々に心が老熟している様で良いですねえ』

 なんて零しちゃう位には渋さが目立つ色合いなんだよ。組みひもとか丹後ちりめんで織ると凄く好きな色合いになるから愛好しているんだけど、確かにまず若者向けの色ではない事は僕も薄々理解していたよ。

 何はともあれ、店員さんからシャツを受け取り試着室で早速着替えてみる事に。その間龍帝さんは店員さんと共に試着室の外で待機して頂く。綿に似た肌触りはしなやかさを齎し心地よく、ぽっちゃり特有の汗かきにも対応できる涼しさを与えてくれる感じだね。これは一応下着も兼ねているのだろう。

「如何ですかな、きつかったり動かしにくい等の箇所はありますか?」

「特には無いですね。さらっとした肌触りでとても気持ちがいいです」

「それはよう御座いました。では、次はこちらのズボンをお試し下さい。上が緑色ですので、こちらはワーキガン白色をご用意いたします。お履きになりましたら声をおかけ下さい、裾と腰周りの調節をさせて頂きます」

 と言われてカーテン越しに差し出されたズボンに足を通す。ふむ、これはストレッチジーンズに近い伸縮性を持っているね。僕の大根足も沢庵位には細く見え――――ないか。最後にボタンで留めてズボンは履けた。伸縮性があるお陰で足も自由に動かせるし、何より耐久力もあるのが嬉しい。僕の場合は更に霊力による強化を施さないと自身の動きによって破壊されてしまうからあれだけど、一般的な旅衣装としてはばっちりだ。
 さて、きちんと履けたので早速手直しをして貰う。カーテンを開けて店員さんが待ち針でちょいちょいと止めて行く様を感心して見やる。何処の世界でもその道の職人さんが行う仕事は美しく、三十も数えない内に裾を直してしまった。手早さと仕事の丁寧さに惚れ惚れしている僕を余所に、店員さんは腰周りの調節をしていらっしゃる。何やら特殊な生地で拵えてあるのか、店員さんの掌から魔力が流れたかと思うと腰周りのサイズが僕のぽっちゃりお腹に適した物へと変化したのである。

「――はい、これで後は裾を縫うだけでお渡しできる状態になりました」

「何か特殊な生地でも使ってるんですか? 僕は遠くの田舎の方から長年旅をして来ましたものですが、こう言った生地は見たこと無いですね~」

「実は最近になって発見された技術でして、ある特定の植物の繊維や蜘蛛の糸などから取れる素材には魔力を流すと変化する事が解かったのですよ」

 少々お高くつくのが難ですがね、と惜しい顔をしている店員さん。それでも取引が成立するのだから、この新技術はその分の価値を持っているのだろう。恐らくは希少性と技術の安定性、それに調達の仕方にそれぞれ問題を抱えているのだろうが、まあ僕には縁の無い話ではあるね。

「ふむ、緩みは見られませんね……。なら次はベストやジャケットで御座いますが、色合いから選ぶならベストは袖無しのルイルゥ褐色、ジャケットならば袖有りのムルーク黒色と言った所でしょうね。どちらに為さいますかな?」

 旅衣装だからね、本当だったら袖有りの方が良いんだろうけどぽっちゃり的にはな~。開放感が少しでも合った方がいろんな意味で楽ってもんだよね。

 そんな理由で以って袖無しベストを選び試着、サイズの割りに裾周りが少し短いのでワンランク上のサイズに換えて貰った。最後に濃い灰色の外套を纏って服選びは完了、少しの間待って直しを効かせてからの支払いと受け取りに暇を持て余す間ドリンクのサービスに肖る。ドリンクは紅茶系の葉出し茶で、どちらかと言えばセイロンティーの中でも高地で育つハイ・グロウン・ティーに近い渋さと香りを感じる大変美味しい一品。
 聞けば若い頃に喫茶店で学んだ技術との事。なんともカイザルお髭が似合うお仕事を為さっている店員さんである。

「さ~てと、僕の買い物は一先ず完了になるのかな? 志乃さんの服選びは多分もう少し掛かるだろうからその間ゆっくり出来そうで良い感じだ……あ~、お茶が美味いね~龍帝さん」

「クルルルアァ~」

「そうは問屋が卸さんぞ、奏の字」

 おろろ? 馬鹿に早いお声が後ろから聞こえてきたので振り返れば、志乃さん買い物組みが戻ってきているではないか。女性の買い物と来れば矢鱈滅多ら時間を費やすのと、飽くなき女性力追求精神によって色々と買い漁るのが僕の周りにいらっしゃる方々の特徴なんだ。これだけはあーちゃんも月姉も九ちゃんも変わりが無く、偶の休日になると予定が入らない限り田舎の商店街や呉服店でショッピングと相成る。下手するとフレンチのフルコースを注文して食べ終わるまでの時間くらい掛かる彼女達のお買い物は、目下僕にとって暇で仕方が無い時間の代表格なんだよ。

「随分と早かったね。もう買い物は済んだのかい?」

 僕の問いかけにしっかりと頷いてみせる志乃さん。彼女の登場にいち早く気づいた龍帝さんを左手で抱きかかえ、既に買い物袋を二十もぶら下げた右手を軽く掲げて買い物の成果を見せてくれた。

「ほほ、龍帝も可愛らしい首飾りなぞつけて居るではないか。まるで奏の字から小学校の入学式に見せて貰うた姿を思い起こさせるのう~。に懐かしきは雪片散りばむ春の空と花吹雪か……良く似合うておるわ」

「本当です。本来龍帝様にかける言葉としては大変不適切でありますが、この愛らしいお姿は末代までの宝です……! 王都に着いた際には是非我が家御付の絵師に一枚描かせて頂ければ幸いです!」

 小学校デビュー仕立ての近所の子供がちやほやされる様に女性陣から褒めちぎられる龍帝さん。通りを行き交う人達は知りえない事だろうが、この竜さんは龍帝なんですよ? 皆さん微笑ましい目で笑みを零せる存在じゃ無いんだよ~――て、一度声を大にして言ってみたい。……信じてもらえないだろうけど。

 興奮する女性陣を余所に、僕は只管に服の完成を待ちつつ流れ行く雲の軌跡を眺めるのであった。
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