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57話 宵闇の告白
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「落ち着いたか?」
「……はい。ありがとうございます、ディアブルス様」
私はあまりの感動にしばらくの間、溢れる涙が止められずにいた。
そんな私に彼はハンカチを手渡してくれたのだけれど、恥ずかしいくらいにそれを涙で濡らしてしまっている。
「ちゃんと洗ってお返ししますね」
「気にするな。むしろそんなにもキミが喜んでくれたことが私は本当に嬉しい。キミからはあんなにも素敵なクラヴァットを頂いたというのに、私にはこれくらいしか思い浮かばなかったから、非常に申し訳ない気持ちでいっぱいだった」
本当にこの人はどこまでも――。
「ディアブルス様からいただけるものならば、例え道端の石ころであっても後生大事に致しますわ」
「そんな大袈裟な……。いくら私でも石ころをキミに渡すほどセンスがないなんてことはない、はずだ」
ディアブルス様は笑いながらはにかんでいる。
私は彼のそんな笑顔が嬉しくて、彼への愛情が更に増しているのが自分でもわかる。
私は……この人が、ディアブルス・フィンガロン様が心の底から大好きなんだ。
男の人を本気で愛するって感情はこういうことなんだ、と自身を俯瞰してそんなことを思った。
「アルメリア、少しそっちへ寄っても大丈夫か?」
「あ、はい」
ディアブルス様はわざわざそう確認を取ってから、ソファーの私の隣に寄ってきた。
まだ少し緊張しているけれど、たくさん泣いちゃったせいでドキドキはさっきよりはだいぶマシになっている。
「……ふえ!?」
と、思っていたら突然ディアブルス様に頭を優しく撫でられた。
「アルメリア、今まで本当によく頑張ったな。キミは言いたいことややりたいことをみんな我慢してしまうだろう? きっとそのせいで昔から大変苦労をしてきたはずだ。だから、私の前ではそんな風に無理をしないでほしい」
「わ、私は無理なんて……」
「私は確かにキミと契約結婚を迫り、そしてキミはそれに則って励んでくれている。私の望み通り、キミはとても素晴らしい仕事ぶりをしてくれているが、そんな風にキミを縛り付けてしまっていることを申し訳なくも思っている」
「縛り付けるだなんてそんな! 私は好きでやっています。それに、何よりもこんな私でも人様のお役に立てるんだと、ディアブルス様のおかげで自信が付きました!」
「けれどアルメリア。仮にキミが執務能力に長けていないとしても、私はもうキミを手放すことなんてできない」
「え……?」
「こんな遠回りで、しかも顔もよく見えない薄暗い明かりの中で言うのは卑怯だと思っているが、今言わせて欲しい」
ディアブルス様はそう言うと、真剣な表情で私の両肩を優しく掴んで微かな明かりの中、
「私はキミが、好きだ」
と、本気の告白をしてくださった。
「ディアブルス……さま……」
「私はキミと出逢ったあの日から、キミ以外ありえないと思った。キミのことしか考えられなくなった。キミのがんばりが、キミの優しさが、キミの笑顔が、キミのその全てが好きだ。キミの何もかもが愛おしい」
ああ、良かった。
薄暗い明かりの中でもよくわかる。
彼が極度に緊張し、顔を紅潮させていることを。
私だけじゃ、なかったんだ。
「だから、その……アルメリア。改めて、私と……その、本当の夫婦になって、欲しい」
こんなことがあっていいんだろうか。
私は故郷を出て、リードハルトを追われ、そしてなんの幸せも味わうことなく人生を終えるのだと、そう覚悟していたわずか二ヶ月ほど前。
それがたったのこんな短い期間で、こんなにも幸せで溢れてしまっていいんだろうか。
こんな私が、幸せになって――。
「――い、いいん、ですか?」
「……ん?」
「こんな、私なんかが……私なんかを、そんな風に想ってくださって……こんな、私が、そんな、分不相応な……」
「分不相応だと言うならそれは私の方だ。私のような者がキミのように美しい女性に愛を囁くべきではないと重々理解しているにもかかわらず、私はもう自分に嘘が付けなくなった。だから……」
「逆ですディアブルス様。私の方が……」
「いや、違う。私の方だ」
「いえ、私の方こそ」
「……ふ、く、はは。アルメリア、すまなかった、もうやめよう、そういうのは」
「……あは、そうですね」
お互いに自分の自信のないところで張り合ってしまった私たちは、思わず笑い出してしまう。
「ごめんなさいディアブルス様。でもおかげで私も少し緊張の糸がほぐれました。その勢いで答えさせていただきますね」
「う、うむ」
「私も、アルメリアも、ディアブルス・フィンガロン様のことを心よりお慕い申し上げております。どうかお願いです。私をあなた様の本当の妻にさせてくださいませ。私をずっとずっと、あなた様のお隣に置いてくださいませ」
私は彼の目を見据えて、そしてきちんと言えた。
やっと、やっと言えたのだ。
「……っ、すまない。思わず私も今、キミに、こんな私でいいのか? と同じ問いかけをしてしまいそうになった」
「そ、それは私もですから……」
「ふふ。アルメリア、私の妻はキミ以外ありえない。これからも、ずっと一緒にいよう」
「はい……はいッ!」
私は歓喜のあまり、また瞳に涙を滲ませてしまった。
「アルメリア、すでに私たちは結婚してしまっている。だが今日この日を本当の結婚記念日としよう」
「はい、わかりました」
「アルメリア、愛している」
「私も愛しております、ディアブルス様」
そして私たちは流れるように、そのまま初めての口付けを交わしたのだった。
「……はい。ありがとうございます、ディアブルス様」
私はあまりの感動にしばらくの間、溢れる涙が止められずにいた。
そんな私に彼はハンカチを手渡してくれたのだけれど、恥ずかしいくらいにそれを涙で濡らしてしまっている。
「ちゃんと洗ってお返ししますね」
「気にするな。むしろそんなにもキミが喜んでくれたことが私は本当に嬉しい。キミからはあんなにも素敵なクラヴァットを頂いたというのに、私にはこれくらいしか思い浮かばなかったから、非常に申し訳ない気持ちでいっぱいだった」
本当にこの人はどこまでも――。
「ディアブルス様からいただけるものならば、例え道端の石ころであっても後生大事に致しますわ」
「そんな大袈裟な……。いくら私でも石ころをキミに渡すほどセンスがないなんてことはない、はずだ」
ディアブルス様は笑いながらはにかんでいる。
私は彼のそんな笑顔が嬉しくて、彼への愛情が更に増しているのが自分でもわかる。
私は……この人が、ディアブルス・フィンガロン様が心の底から大好きなんだ。
男の人を本気で愛するって感情はこういうことなんだ、と自身を俯瞰してそんなことを思った。
「アルメリア、少しそっちへ寄っても大丈夫か?」
「あ、はい」
ディアブルス様はわざわざそう確認を取ってから、ソファーの私の隣に寄ってきた。
まだ少し緊張しているけれど、たくさん泣いちゃったせいでドキドキはさっきよりはだいぶマシになっている。
「……ふえ!?」
と、思っていたら突然ディアブルス様に頭を優しく撫でられた。
「アルメリア、今まで本当によく頑張ったな。キミは言いたいことややりたいことをみんな我慢してしまうだろう? きっとそのせいで昔から大変苦労をしてきたはずだ。だから、私の前ではそんな風に無理をしないでほしい」
「わ、私は無理なんて……」
「私は確かにキミと契約結婚を迫り、そしてキミはそれに則って励んでくれている。私の望み通り、キミはとても素晴らしい仕事ぶりをしてくれているが、そんな風にキミを縛り付けてしまっていることを申し訳なくも思っている」
「縛り付けるだなんてそんな! 私は好きでやっています。それに、何よりもこんな私でも人様のお役に立てるんだと、ディアブルス様のおかげで自信が付きました!」
「けれどアルメリア。仮にキミが執務能力に長けていないとしても、私はもうキミを手放すことなんてできない」
「え……?」
「こんな遠回りで、しかも顔もよく見えない薄暗い明かりの中で言うのは卑怯だと思っているが、今言わせて欲しい」
ディアブルス様はそう言うと、真剣な表情で私の両肩を優しく掴んで微かな明かりの中、
「私はキミが、好きだ」
と、本気の告白をしてくださった。
「ディアブルス……さま……」
「私はキミと出逢ったあの日から、キミ以外ありえないと思った。キミのことしか考えられなくなった。キミのがんばりが、キミの優しさが、キミの笑顔が、キミのその全てが好きだ。キミの何もかもが愛おしい」
ああ、良かった。
薄暗い明かりの中でもよくわかる。
彼が極度に緊張し、顔を紅潮させていることを。
私だけじゃ、なかったんだ。
「だから、その……アルメリア。改めて、私と……その、本当の夫婦になって、欲しい」
こんなことがあっていいんだろうか。
私は故郷を出て、リードハルトを追われ、そしてなんの幸せも味わうことなく人生を終えるのだと、そう覚悟していたわずか二ヶ月ほど前。
それがたったのこんな短い期間で、こんなにも幸せで溢れてしまっていいんだろうか。
こんな私が、幸せになって――。
「――い、いいん、ですか?」
「……ん?」
「こんな、私なんかが……私なんかを、そんな風に想ってくださって……こんな、私が、そんな、分不相応な……」
「分不相応だと言うならそれは私の方だ。私のような者がキミのように美しい女性に愛を囁くべきではないと重々理解しているにもかかわらず、私はもう自分に嘘が付けなくなった。だから……」
「逆ですディアブルス様。私の方が……」
「いや、違う。私の方だ」
「いえ、私の方こそ」
「……ふ、く、はは。アルメリア、すまなかった、もうやめよう、そういうのは」
「……あは、そうですね」
お互いに自分の自信のないところで張り合ってしまった私たちは、思わず笑い出してしまう。
「ごめんなさいディアブルス様。でもおかげで私も少し緊張の糸がほぐれました。その勢いで答えさせていただきますね」
「う、うむ」
「私も、アルメリアも、ディアブルス・フィンガロン様のことを心よりお慕い申し上げております。どうかお願いです。私をあなた様の本当の妻にさせてくださいませ。私をずっとずっと、あなた様のお隣に置いてくださいませ」
私は彼の目を見据えて、そしてきちんと言えた。
やっと、やっと言えたのだ。
「……っ、すまない。思わず私も今、キミに、こんな私でいいのか? と同じ問いかけをしてしまいそうになった」
「そ、それは私もですから……」
「ふふ。アルメリア、私の妻はキミ以外ありえない。これからも、ずっと一緒にいよう」
「はい……はいッ!」
私は歓喜のあまり、また瞳に涙を滲ませてしまった。
「アルメリア、すでに私たちは結婚してしまっている。だが今日この日を本当の結婚記念日としよう」
「はい、わかりました」
「アルメリア、愛している」
「私も愛しております、ディアブルス様」
そして私たちは流れるように、そのまま初めての口付けを交わしたのだった。
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