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25話 舐めないでよね
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「まず女、お前は……って、な、なんだお前、その目つきは……何が可笑しい?」
リアン様は気を失い、ちょうど周囲に通行人も途切れた。
――絶好のタイミング。
そう思った瞬間、思わず私の口端が緩んでいた。
獲物をついつい見下してしまう私の悪い癖だ。
「ねえ、あなたたち。誰の遣いで私のことを調べるように言われたのかしら?」
「誰の遣いでもなんでもない! 俺たちはなあ、お前たちのことが気に入らなくてだな……っていうかお前、なんか急に雰囲気が変わってないか……?」
「いちいち面倒くさい。さっさと答えなさい。こっちはもうだいたい見当がついてるのよ。誰の遣い?」
「そ、そんなことお前に関係ないだろ! それより質問はこっちがする!」
私の問い掛けに痺れを切らしたゲイルが、ガシっと私の左肩を強めに掴んできた。
この男は肩を掴みかかるのが癖なのね。
「痛いわよ」
私はゲイルの腕にそっと右手をかけた。
直後。
「ん?……い、いてぇ!?」
ゲイルは突然声を荒げて、私の肩から手を振り解いた。
「うぐああぁぁぁッ! う、腕が、腕がいてぇーッ!」
あまりの痛さゲイルはその場で蹲って腕の痛みに喚いている。
「あらあら、この様子じゃとても質問に答えられなさそうですわね。じゃあそこのあなた、答えなさい。誰の遣いで来たの?」
と、私は今度はジャンという男の方に尋ねた。
「な、なんだよ、おい!? どうしたゲイル!?」
「今は痛みでロクに返事もできないだろうから無駄ね。それよりほら、早く私の問いに答えなさい」
私はジャンという男に右手の平を向けながら、そう続ける。
「お、女……お前何をした!?」
「そんなのどうでもいいでしょう? それより答えるつもりがないのなら、あなたもそいつと同じ目にあってもらうけれど、いいのかしら?」
「う、く……その右手だな!? 何か仕込んでるのか!?」
「うふふ、さあ?」
こいつら程度の魔力量じゃ気付けないのも無理はない。
私は先ほどのゲイルとやらの腕に、私の右手の平から神経系を強く刺激する電撃系の魔力を直接流し込んだ。腕の内部の神経に電撃が流れ込んだことで、強烈な痛みを与えてやったのだ。
これはいわゆる『魔法』なのだが、私がしたことは一般的な知識で理解できるほど単純なことではない。
何故なら本来『魔法』とは、予備動作としてまず『体内魔力の構築』から始まり、次に発動準備の為の『詠唱』を行ない、最後に『呪文』を唱えて初めて『魔法』として成立し発動させることが可能なわけである。
つまりは『魔法』とは必ず相手に何かしらの察知をさせるのが大前提にあり、この三つの『構築』『詠唱』『呪文』、魔法学院などでは『構・詠・呪』などと教わる三要素が基本にある。
しかし私は絶大な魔力でその全てを瞬時に頭の中だけで済ませ、約三秒もかからず『呪文』として発動させてしまえるのである。
「私の右手がそんなに怖い? こんなにもか細く小さな私の手が」
「く……」
ジャンは近づく私に対してじりじりと後ずさる。
「お、お前、何をしたんだよ!」
「別に隠す必要もないですけれど、単なる魔法ですわよ?」
「な、何? 嘘をつくな! 魔法のわけがねえ!」
「そう思うのなら触れてみれば良いでしょ? そんな子羊の様に怯えずに。うふふふ」
じわじわと私の手を彼へと近づける。
「や、やめろ!」
「だったら答えなさい。誰の遣いで来たの? これが最後の質問よ。答えなければ即座にあなたもこの男と同じ目にあってもらうわ」
地面に蹲って呻いている男、ゲイルはいまだに強烈な痛みのせいで涙目になりながら片腕を押さえ込んでいる。
「……ば、馬鹿にすんじゃ、ねえ!」
私の威圧にジャンは怯えず、右拳を握りしめて殴りかかろうと立ち向かってきた。
まあ、だいたいの男はこうなる。私のことをか弱い女だと思って最終的には腕力で屈服させようとする。
そんな相手には――。
「はあ、めんどくさ」
私はぼやくと同時に彼の拳を全く避けずに、そのまま顔の左頬にしっかりと受けた。
「な!? ば、馬鹿か、なんで避けない!?」
こいつも私が避ける前提で攻撃してきたのだろうが、そんな無駄なことをする意味も必要性もない。
「って、ぐう!? い、いてぇ!」
そういう相手にはその力を返せばいいだけなのだから。
私はいつも通り、殴られる部位を即座に魔力で硬化させた。その硬度次第では殴ってきた相手の方がダメージを負うのも当然である。
身体の一部を硬化させる魔法は実に発動が早く、意識さえしていればおよそ一秒もかからない。だが、硬化というものは存外難度の高い魔法で、この私でも大きな範囲や複数の箇所を硬化することは魔法的にも物理的にも不可能だ。
「い、いててて……なんだこの女、顔がか、かた……な、何がどうなって……うぐッ!?」
右拳の痛みで鈍っている動きのジャンの首元を私は右手で掴み抑え込む。
「さ、答えなさい。誰の遣い? これで言わなければ、そこの転がっている馬鹿よりももっと酷い苦痛を味わわせてあげるわ」
「ひ……」
ジャンはようやくその表情に恐怖を滲ませた。私は思わずチラリと横目でそんな私たちの様子を反射しているガラスを見た。
屈強な男が小柄で細身の女性に屈服させられるこの構図。何度見ても本当に笑えるわ。
リアン様は気を失い、ちょうど周囲に通行人も途切れた。
――絶好のタイミング。
そう思った瞬間、思わず私の口端が緩んでいた。
獲物をついつい見下してしまう私の悪い癖だ。
「ねえ、あなたたち。誰の遣いで私のことを調べるように言われたのかしら?」
「誰の遣いでもなんでもない! 俺たちはなあ、お前たちのことが気に入らなくてだな……っていうかお前、なんか急に雰囲気が変わってないか……?」
「いちいち面倒くさい。さっさと答えなさい。こっちはもうだいたい見当がついてるのよ。誰の遣い?」
「そ、そんなことお前に関係ないだろ! それより質問はこっちがする!」
私の問い掛けに痺れを切らしたゲイルが、ガシっと私の左肩を強めに掴んできた。
この男は肩を掴みかかるのが癖なのね。
「痛いわよ」
私はゲイルの腕にそっと右手をかけた。
直後。
「ん?……い、いてぇ!?」
ゲイルは突然声を荒げて、私の肩から手を振り解いた。
「うぐああぁぁぁッ! う、腕が、腕がいてぇーッ!」
あまりの痛さゲイルはその場で蹲って腕の痛みに喚いている。
「あらあら、この様子じゃとても質問に答えられなさそうですわね。じゃあそこのあなた、答えなさい。誰の遣いで来たの?」
と、私は今度はジャンという男の方に尋ねた。
「な、なんだよ、おい!? どうしたゲイル!?」
「今は痛みでロクに返事もできないだろうから無駄ね。それよりほら、早く私の問いに答えなさい」
私はジャンという男に右手の平を向けながら、そう続ける。
「お、女……お前何をした!?」
「そんなのどうでもいいでしょう? それより答えるつもりがないのなら、あなたもそいつと同じ目にあってもらうけれど、いいのかしら?」
「う、く……その右手だな!? 何か仕込んでるのか!?」
「うふふ、さあ?」
こいつら程度の魔力量じゃ気付けないのも無理はない。
私は先ほどのゲイルとやらの腕に、私の右手の平から神経系を強く刺激する電撃系の魔力を直接流し込んだ。腕の内部の神経に電撃が流れ込んだことで、強烈な痛みを与えてやったのだ。
これはいわゆる『魔法』なのだが、私がしたことは一般的な知識で理解できるほど単純なことではない。
何故なら本来『魔法』とは、予備動作としてまず『体内魔力の構築』から始まり、次に発動準備の為の『詠唱』を行ない、最後に『呪文』を唱えて初めて『魔法』として成立し発動させることが可能なわけである。
つまりは『魔法』とは必ず相手に何かしらの察知をさせるのが大前提にあり、この三つの『構築』『詠唱』『呪文』、魔法学院などでは『構・詠・呪』などと教わる三要素が基本にある。
しかし私は絶大な魔力でその全てを瞬時に頭の中だけで済ませ、約三秒もかからず『呪文』として発動させてしまえるのである。
「私の右手がそんなに怖い? こんなにもか細く小さな私の手が」
「く……」
ジャンは近づく私に対してじりじりと後ずさる。
「お、お前、何をしたんだよ!」
「別に隠す必要もないですけれど、単なる魔法ですわよ?」
「な、何? 嘘をつくな! 魔法のわけがねえ!」
「そう思うのなら触れてみれば良いでしょ? そんな子羊の様に怯えずに。うふふふ」
じわじわと私の手を彼へと近づける。
「や、やめろ!」
「だったら答えなさい。誰の遣いで来たの? これが最後の質問よ。答えなければ即座にあなたもこの男と同じ目にあってもらうわ」
地面に蹲って呻いている男、ゲイルはいまだに強烈な痛みのせいで涙目になりながら片腕を押さえ込んでいる。
「……ば、馬鹿にすんじゃ、ねえ!」
私の威圧にジャンは怯えず、右拳を握りしめて殴りかかろうと立ち向かってきた。
まあ、だいたいの男はこうなる。私のことをか弱い女だと思って最終的には腕力で屈服させようとする。
そんな相手には――。
「はあ、めんどくさ」
私はぼやくと同時に彼の拳を全く避けずに、そのまま顔の左頬にしっかりと受けた。
「な!? ば、馬鹿か、なんで避けない!?」
こいつも私が避ける前提で攻撃してきたのだろうが、そんな無駄なことをする意味も必要性もない。
「って、ぐう!? い、いてぇ!」
そういう相手にはその力を返せばいいだけなのだから。
私はいつも通り、殴られる部位を即座に魔力で硬化させた。その硬度次第では殴ってきた相手の方がダメージを負うのも当然である。
身体の一部を硬化させる魔法は実に発動が早く、意識さえしていればおよそ一秒もかからない。だが、硬化というものは存外難度の高い魔法で、この私でも大きな範囲や複数の箇所を硬化することは魔法的にも物理的にも不可能だ。
「い、いててて……なんだこの女、顔がか、かた……な、何がどうなって……うぐッ!?」
右拳の痛みで鈍っている動きのジャンの首元を私は右手で掴み抑え込む。
「さ、答えなさい。誰の遣い? これで言わなければ、そこの転がっている馬鹿よりももっと酷い苦痛を味わわせてあげるわ」
「ひ……」
ジャンはようやくその表情に恐怖を滲ませた。私は思わずチラリと横目でそんな私たちの様子を反射しているガラスを見た。
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