裏稼業最強の貴族令嬢は、初めての暗殺失敗から全てを奪われるようです。 〜魔力値ぶっ壊れ令嬢は恋愛経験値だけゼロだった件〜

ごどめ

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33話 千年大樹

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「こ、これは……」

 私の目の前に広がっているもの。
 それは巨大で雄々しい一本の大樹だった。
 しかしこの大樹はなんというか、ただの木というだけで括るには物足りない、何かとてつもないオーラを感じさせる不思議な大樹であった。

「このベグラム地区の最北部にあたるこの場所には、古くから大事にされてきていた大樹がある」

「それがこの木、なのね」

「ああ」

 大樹だけではない。
 辺りには色とりどりの花々が咲き乱れ、可憐な蝶たちがたくさん舞っているとても幻想的な風景。加えて日が暮れ始めた為に赤い夕日が更にこれらを美しく彩り鮮やかに見せた。
 スラム街の先にこんな素敵で綺麗な場所があるなんて思いもよらなかった。

「凄いわ……こんな立派な大樹、生まれて初めて見た。あんなにも猛々しく、それでいて優雅さも兼ね備えているかのように広々と緑を伸ばして」

「この大樹は千年以上前からこの地に根付いているらしく、その昔にはれっきとした正式名称があったらしい。今はその名も失われて久しいが、この大樹を千年大樹せんねんたいじゅと呼ぶ者も多い」

「千年大樹……千年……へえ」

「このベグラム地区は自然を大事にするという働きがあったからこそ、この大樹も取り壊されることなく残り続けた。今でもベグラム地区にいる非正規な者たちがこの辺りを手入れしてくれているんだ」

「そう、なのね。素晴らしいわ……」

 私が魔女王ルミアだった頃から、この木はあったのね。
 なんだか不思議な感覚。
 けれどなんだろう。
 同時に凄く懐かしい感じもする。

「今は夕刻だ。もうしばらくこの大樹の近くで腰をおろして待っててくれるか」

「ええ、いいわよ」

 私はヴァンに言われるがまま、その大樹の根本に腰掛けた。

「あ、ルフェルミア、すまない。その……ハ、ハンカチを用意してあったのを忘れていた」

「ああ、別にいいわよそんなの。この木の根本、綺麗な芝で座り心地すごくいいし」

「でも、その……お前のドレスが汚れてしまうだろう」

「あはは。これ仕事着みたいなもんだし、そんなの気にしないわよ。っていうか何? あなたにしては変なところに気を使うわね?」

「お、俺だって……多少、エ、エスコート、してやる気持ちくらいは……あ、ある」

 顔をそっぽ向けながらヴァンはそんなことをボソボソっと呟いていたので、私は思わず目を丸くしてしまった。

 え? なに、もしかしてこいつ……。

「そ、それにほら、これをやる」

 私が何か言おうとすると、ヴァンは胸ポケットから薄い板状の何かを取り出して私へと突き付けた。

「え、なにこれ?」

「プ、プリズムチョコレート、だ……」

 ヴァンの口から耳を疑うような単語が出てきた。

「ルフェルミア、お前プリズムチョコレートを食べたことがないと言っていただろう。高級品だしそもそも希少なものだから品薄で中々手に入らないから、と」

 そう、私はプリズムチョコレートを食べたことがない。そもそもプリズムチョコレートとは普通のチョコレートとは違い、非常に希少価値の高いプリズムカカオの一部からしか抽出できないレア中のレアな高級品お菓子なのだ。
 このサイズの板状であると、下手をすればあのオペラのチケット以上の値段がするのではないだろうか。

 でも、本当に驚くべきなのはそんなことではなくて――。

「ねえ、ヴァン、これ一体いくらしたの?」

「大した金額じゃない……せいぜい金貨12枚弱ってところだ」

 いやいや、それとんでもない金額ですからね?
 私の殺しの仕事でも一回の報酬が多くてもおよそ銀貨50枚なのよ。金貨1枚あたり銀貨100枚相当なわけだから、私の仕事二十四回分ってわけで、下手すればエンゲージリングとかなんかより高い物よ!?

「き、気にするな。俺はそれなりに稼ぎがいい。金は装備品を集めることにしか基本使わないから余っていたんだ」

 まあそりゃあ確かに近衛兵の師団長様なら御給金も凄いのでしょうけれど、それにしたってこれは……。

「で、でもなんでこんな凄いもの、突然くれるのよ?」

「……深い意味は、ない。ただお前が食べてみたいと、とても興味ありげに話していたのが印象的だったからだ」

 ――やっぱりそうだ、こいつ。

「ねえ、ヴァン」

「なんだ?」

「私はそんなこと、あなたに一度も言ったことがないわ」

「……」

「この私じゃない私から、聞いていたのね」

「そう、だ」

 ――やはり、ヴァンの予知夢。
 彼はそれで私の知らない私の発言を見てきたのだ。だから、私は家族の者以外に話したことのないプリズムチョコレートに小さな憧れを持っている話を知っていたのだ。

「そうだとしても、いきなりこれはびっくりするわ。なんで突然こんなことしだしたのよ?」

「……別に意味はないが」

「嘘おっしゃい。あなた、もしかしてだけど、リアン様に嫉妬してたり、してる?」

「……ッ!」

 珍しくヴァンの顔が強張って、顔色を薄っすら紅潮させている。
 やっぱりそうなんだ。
 確かにリアン様との話をしてからこいつ、急に態度変わり始めたものね。
 リアン様と仲良くしろとか言っておきながら……。

 そう思いながらも内心、ドキドキとしている自分がいることに気づいている。
 まさか私もヴァンのこれに喜んでいるの?

 まさか、こんなやつに……こんな……。 

「そ、それでこんな景色とプレゼントで私を喜ばせようとしてくれてたのね! ふ、ふーん。まあ、でも悪くはないわよ。この千年大樹の景色にも凄く感動させられたし」

「いや、ルフェルミア、まだだ」

「え?」

「あともう少し待て。じきに日が完全に沈む。それからが本当の俺の見せたいもの、だ」

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