裏稼業最強の貴族令嬢は、初めての暗殺失敗から全てを奪われるようです。 〜魔力値ぶっ壊れ令嬢は恋愛経験値だけゼロだった件〜

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74話 メリアからの忠告

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 私とヴァンはその後も様々なショップを見て歩いたりして、普通にデートを愉しんだ。
 婚約破棄された相手とこうやってデートを愉しんでいる令嬢なんて私くらいなものかしらね。

「さて、俺はそろそろ一旦王宮に行く」

「ええ、わかったわ。私も屋敷へ帰るわね」

 陽が沈む前にヴァンとは別れる約束だった。
 彼も無理やり休暇を取ったので、一応師団長としての報告義務もあるそうで、一度王宮に顔出ししておくそうだ。
 私もヴァンと一緒に屋敷へ帰るわけにはいかないし、丁度良い。

「じゃあな。気をつけて帰れよ」

「ええ。今日はありがとう、ヴァン」

 ヴァンの背中を見つめながら、少しだけ寂しさも感じる。
 これが私たちが普通の婚約者同士だったらどんなに良かっただろう。ヴァンは私のことを想ってくれていて、私も彼のことを特別視している。
 でも私はリアン様と婚約関係を続けていかなければならない。

 ……そう考えると胸が痛む。

「……はあ」

 屋敷への帰り道。
 独り溜め息を吐いた。

 気分が浮かないのである。
 それは今日が楽しかったから。……いいえ、この前の舞踏会からずっと、彼と過ごす時間が楽しかったからだ。

 もう認めよう。
 私は、ルフェルミア・イルドレッドはヴァン・グレアンドルに恋している。
 私は彼が好きなのだ。

 だからこそ、今の偽りの生活が凄く憂鬱に感じてしまっている。

「……イルドレッド最強、なんて言われていた自分がまるですごい昔のことみたい」

 そんな風にひとりごちる。
 でも、前世の記憶が告げている。
 私の力もこの愛情も、全ては魔女王ルミアの残したものだと。

 だからきっと、私はこの力を我が物顔で扱うように、この愛情も扱わなければならないのだ。

 オペラを見直して、考えさせられた。
 今の私ならきっと、ヴァンが他の女の人に興味を向けたら……殺意とまではいかなくても凄く辛くて悲しくて、そして怒ってしまう、と思う。

 情けないほどに私はもうヴァンを愛してしまっているのだ。
 けれど、だからと言って私にできることはない。
 私はヴァンの予知夢に従わなければならないのだから。

「……それでも今のままリアン様と婚約関係を続けていても駄目なのよね」

 だったらもうこの関係は意味があるのだろうか。
 ……わからない。

 そんなことを私は考え続けてしまうのだった。
 


        ●○●○●



「やっと戻りましたわね。遅いですわよ」

 グレアンドル邸に到着し、自室へと戻ると何故か部屋の隅にメリアがいた。

「メリア? なんであなたがいるのよ?」

「ちょっとあなたに伝えておこうと思ったことがあったのよ。だからこっそり忍び込んでいたんですの」

「なによ?」

「あなた今日もしかして、ヴァン様と劇場へ出かけていたんですの?」

「え? な、なんで知ってるのよ?」

「……やっぱり本当なんですのね。不味いですわよ」

「不味い?」

「リアン様がすでにそのことを知っていましたわ」

「え、嘘? だって今日はリアン様、朝早くから夜遅くまで用事があるから戻らないって言って出掛けたから、てっきりまたあなたと仕事の話でもしているかと思ったのに」

「完全にハメられていますわね。リアン様は今日確かに私のもとにも来ましたけれど、それはついさっきですわ――」

 メリアの話では、仕事の話にきたリアン様は別れ際に、

『今日、僕がいない間にヴァン兄様とルフェが二人きりで出掛けていた。証拠もある。僕は完全に裏切られたようだ』

 と。

「そうだったの。何故バレてしまったのかしら?」

「ルフェルミア、あなた本当に少し感覚鈍ったのではなくて?」

「どういう意味よ?」

「あなた今日、尾行されていましたのよ」

「え?」

「エルフィーナ王女殿下の側近に。以前にもあったのでしょう? リアン様から聞いていますわ」

「う、嘘……私、そんな、全然気づかなかったわ……」

「リアン様の話では、最近ルフェルミアの行動が怪しいからエルフィーナ王女殿下の側近たちに尾行をお願いしていたらしいですわ。慎重なリアン様はその際、尾行をさせる者たちに、かなり遠目から決して接触しないように尾行してくれと命じたようですわよ」

 王女殿下の側近。ジャンとゲイルってやつね。
 しかしいくら距離を保たれていたからと言って、あんな素人同然の人たちの尾行が気づかなかったなんて……。

【当たり前でしょう。あなたはそれを望んだのだから】

「え!?」

「な、なんですの?」

「メリア、今何か言った?」

「何かって……だから、あなたが尾行されてたって話をしていましたわよ」

「ううん、その後。それを望んだとかどうのとかって……」

「はあ? 言ってませんわよ。ボケてしまったんですの?」

 今の声、はっきりと聞こえた。
 なんだったのかしら……。

「まあそんなわけで、リアン様はあなたたちを断罪する為の証拠集めと準場を進めていますわね。彼の話っぷりからすると、おそらく今度の卒業パーティー。あの場であなたを陥れるという感じですわよ」

「卒業パーティーで私を?」

「ええ。その場であなたとの婚約を破棄するそうですわ。あなたの浮気を理由に」

「そうなのね。もしかしてその時に慰謝料やらを請求してくるのかしら?」

「そうみたいですわ。あなたとヴァン様から搾り取ると言ってましたから」

 そうなのね。
 でもお金を要求するなら、彼は私を殺すつもりはないのかしら?
 てっきり私に殺意を覚えてなんらかの方法で殺しにくるのかと思ったけれど、そうしたら私からお金を取れないものね。

「ま、そんなところですわ」

「メリア、わざわざありがとうね。助かったわ」

「は、はあ!? 別に私はあなたの為に言ったんじゃないですわ! あなたが頑張ってくれないとドラグス殿下を私に振り向かせる計画が上手くいかないからですわよッ!」

「それもそうね。うん、わかってるわよ。そっちも上手く話を進めておくわ。ありがとね」

「お、お、お礼なんていりませんわよ! せいぜいリアン様に侮辱されて、無様に婚約破棄されればいいですわ! おほほほ、ざまぁないですわね! それじゃ私は帰りますわ! ふんッ!」

 バーっと最後に言いたいことだけを言って、メリアも窓から出て行ってしまった。
 私の部屋の窓はすっかり出入り口みたいになっているわね。

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